-Crow-
□あの日の記憶
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カラスにーちゃん!
遠くの方から自分を呼ぶ声がする。
声の方に振り向けば、大きな紅く透き通った瞳と合った。
サワサワと吹く心地好い風に合わせて、木々は優しく踊っている。
その枝の間からキラキラと太陽の光が瞬き、降り注ぎは消えを繰り返す。
覆いかぶさるように生えた木々の中に、小さな黒髪の少女はお気に入りのローズピンクのワンピースを着、花冠をしてニコニコと立っていた。
クロウ「こら、外に出てはいけないと言ったろう。」
「だって……」
ふて腐れ視線を落とす大切な妹、スワロー。
彼女は俺と5歳下の7歳だ。
身体が生れつき弱く、部屋に入っていろと言っては嫌だの一点張りのスワローとよく喧嘩をしていた。
そんな俺は過保護なのだろうか…。
クロウ「また風邪を引かれては困る、俺は忙しいんだ」
本当は外に出してやりたかったのだが、前に外に連れていった時にかなりの高熱を出し、死にかけた事があった。
それ以来クロウは心を鬼にしてスワローを外に連れ出していなかった。
スワロー「カラスにーちゃんはいっつもお外で飛んでんだもん。スワローも飛びたいよぉ!!」
そう言いながら背中についた小さな翼をバタバタと忙しなく羽ばたかせている。
はぁ…
ゴロゴロ芝生を転げ回りながら駄々をこねはじめたスワローにクロウは呆れ溜息を吐くと、
クロウ「じゃあ、クラム博士に聞いておいで」
スワロー「やったあああ!!!」
と、叫びながら猛スピードで研究所に消えてしまった。
そんな可愛らしい妹の姿に思わず頬が緩む。
後をゆっくり歩いて追うと、林から抜け、この岡のなだらかな下り坂の行き当たりにある研究所を優しい眼差しで見つめた。
クラム博士は身寄りのない俺とスワローを拾い育ててくれた、いわば親の様な人だ。
大きな研究所を持ち、部下や教え子もたくさんいる、とても金持ちの男で、クロウは恩返しの代わりに、たまに研究の手伝いをしていた。
自分の人とは異なる身体≠生かして…。
実験や研究はかなり身体に負担がかかるもので、クロウは正直嫌なものでしかなかったが、クラムの役に立つなら自分の身体など、どうでも良かった。
視線を研究所から外し、空を見上げれば、それは綺麗な夏晴れの蒼い蒼い空が広がっていた。
スワロー「おにーーーちゃーーーん!!」
クロウ「ぅおっっ!!!」
ドサッ
一人空を見上げ癒されていく心に酔いしれていると、行きと同じスピードで突進…もとい飛びついてきたスワローに不意をつかれ、後ろに倒れ込んだ。
クラム「ハッハッハ!スワローちゃんは相変わらず元気だね!!」
クロウ「………こうも元気だと困りますよ…」
遅れてクラム博士が笑いながらやって来るのを見るとクロウは苦笑を浮かべた。
クロウ「大丈夫なんですか?行かせても」
クラム「あぁ、スワローちゃんのために開発した薬を打ったからね、もし何かしら症状が出たら言ってね?君達は少し特別だからマウスで実験しても何も無いとは限らない」
クロウ「分かってますよ」
前回もそうだった。
薬を打ったものの、高熱を出し苦しむスワローを見てはいられなかった。
今回もならなければ良いのだが…
クロウ「…フッ、お前も懲りないな」
スワロー「スワローねえ?カラスにーちゃんと一緒にお空飛ぶのが夢なんだあ!!」
屈託のない笑顔で告げれば、その小さな身体いっぱいに首に抱き着いてきた。
スワロー「だからずっとそばにいてね」
クロウ「スワロー…」
表情は見えないが声色が哀しみを帯びていて…
安心させるために少し強めに抱きしめた。
弱いもののために強い者がいる…だから俺が守るんだ…
クロウの決意は固かった。