-Crow-

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風は頬を撫で、光は白く辺りを照らし、生き物に命を与える。

昼の人の行き交う忙しない雰囲気はまるでない、清々しい空気だけが包んでいる。


だがこの雰囲気はこの男には穏やか過ぎた。






「つまんねぇなぁ…」





つまらない。いつも通りの毎日だ。

人は朝早くから動きまわり、鳥は朝を告げるため鳴きまわる。





電柱の上にとまりながら呟いた。



「誰か黒欲(ヨク)を出してくれないかなぁ…」


背中の黒くたくましい翼を広げ、″クロウ″は羽ばたいた。



彼は人間ではない。


人間の姿をした烏だ。


天敵とする人間から逃れるため、進化してきた烏。



人間から忌み嫌われ、血ぬられた烏の歴史を塗り変える一番最初の進化した者、それが自分。




「オレは選ばれた存在。生き抜く価値がある。皆同じ動きしかしない人間どもとは違うんだ…」



あんな…外道な奴らとは…




クロウは電柱から手を離し、人間が行き交う広い通りに向かって直滑降に飛び立った。











「オイ!クロウだ!!クロウだぞ!!」






降り立った瞬間に騒ぎが起こる。



…ちっ
一々うるせぇ奴らだ…






実はクロウは人間で言う、ちょっとした有名人だった。





「クロウさん!また今日も犯罪者を裁きに行くんですか!?」



都会の横断歩道のため、空模様を映していたカメラマン達が一気に自分に集まってくる。




本当にうっとうしい奴らだ。




「どけ、邪魔だ。飯が逃げるだろ。」


不機嫌な顔付きで行く手を塞ぐカメラマン達を蹴り飛ばしていく。

ドミノ倒しになったカメラマンを見下し不適な笑みを浮かべると、怯んだ隙に翼を広げ、クロウは捕まらない程の高さまで飛び上がった。


数メートルも飛ぶと、さっきまでの出来事など、さも無かった様に、クロウは鼻先に集中する。

鼻で飯の匂いをかぎ分け、釣られる様に飛び回るのだ。


これがいつもの毎日。







− こんなにも人は平和で溢れている。この平和は多くの犠牲者で成り立っているという事にも気づかずに…−



俺はその犠牲者のために存在する人間の天敵。


そう、クロウの食べているものは普通の食べ物だけではない。

クロウの飯は大嫌いな人間がつくるものだった。
しかもそれは簡単にはつくれるものではない。



−人間の黒い欲−



金が欲しい≠ニか自分の思い通りにしたい≠ニか、そんなものでは生温く、ケタが違う。

金を簡単に稼ぐには…≠ワで行くものが食べ物と言えるのだ。


金を簡単に稼ぐには、人を殺し、奪い取り、見つからない様に楽をする


これこそ完璧な黒欲なのだ。





−…ん…良い匂いがしてきた…−



飛び回っていると、早速嗅ぎつけた。


気怠い顔から一気に獲物を見つけた獣のように、クロウの双眼が鋭く光を帯びた。




目の前には壁に使われている木板が丸見えの壁の家。


静かに家の手前にある木の壁を越え、中に入り込む。

家の中にいる飯の匂いをさらに探るため、木が剥き出しの屋根に飛び乗り、壁に耳をあてた。
















−人の気配−









クロウはニタリと笑い、左目の下にある上下を示した矢印のような模様に、人差し指と中指でそっと触れた。

指に力を入れ、模様に腹の底から沸き立つような黒い力を吸わせる。


模様は左目を赤黒く染め、力を宿す。




人の心を見る力だ。





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