main

□夏
5ページ/5ページ

アイス




冷房の効いた自分の部屋。
畳の上、頭を支えて横になり、テレビを見る。
手には棒状のアイス。
涼しい部屋と冷たい食いもんは、夏休みにかかせない。


「うめぇ」


白いそれを舐め上げる。
やっぱ、棒アイスはミルク味だな。


「俺にも舐めさせてくれないか」


耳元で囁かれた低い声に後ろへ視線を向けると、隣で寝ていた陸が妖しげな目でアイスを見つめてた。
抱かれた体は、冷房が効いてるにも関わらず暑苦しい。

ベタベタすんのは好きじゃねぇけど、陸がうるさいから自由にさせてる。


「冷凍庫にまだ入ってんだろ。自分で取ってこい」
「……」


6本入りの箱はまだ開けたばっかだ。
陸は不満げに眉を顰める。


「何だ?面倒くせぇのか?」
「そうじゃない。俺は翔の舐めたそれが食いたいんだ」
「おま……馬鹿じゃねーの?」


明らかに妙な言い回しに下心を感じ、目を据わらせて陸を睨む。


「馬鹿で構わない。頼む、お前の舌が這ったアイスを食わせてくれ」
「黙れ変態」


真剣な顔で、変態なことを懇願する陸。
アイスを舐めようとして出した舌を、じろじろ見やがるから引っ込めた。

毒突いてアイスに齧りつく。


「変態か。お前が唇を許してくれないから、せめて間接的に味わおうと思ったんだがな」
「はぁ?」
「食わせてくれないのなら、お前に口付けるのをそろそろ許してくれないか?」
「アホ。無理に決まってんだろ」
「お願いだ。お前の薔薇のような唇を貪らせ」
「気色悪ぃ言い方すんじゃねぇ!」


それ以上変態発言をさせないように、陸の腹を肘で殴った。
殴られた箇所を押さえて陸は溜め息を吐くと俺から離れ、腰を上げた。


「帰んのか?」
「ああ。お前の唇を無理矢理奪ってしましそうだからな。嫌われたくない、今日は帰る事にする」


鬱陶しかった陸が帰る。
嬉しい筈だったが、俺は反射的に立ち上がった。
陸の手を掴み、アイスを握らせる。


「こんなもんくれてやるから、まだ帰んじゃねぇよ」
「俺と離れたくないのか?」
「うるせぇ。口に出すんじゃねぇ」
「ありがとう。大事に食わせてもらう」


幸せそうにアイスを頬張る陸を眺めながら、こんな変態を好きになった自分が、今更ながら信じられなかった。
こういう所さえ惚れてるとは、調子に乗るから絶対言わねぇ。


.
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ