銀魂

□僕の世界を作るのは貴方
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家に向かう車の中で九兵衛は言った。
「今日は何が食べたい?」
「俺ァおまえの作るものなら何でも食うだろ。
今までおまえの作ったものを残したことあるかァ?」

「ないな。」
はにかんだ九兵衛の言葉に高杉は思う。
いつまで、お前は俺に飯を作ってくれるんだろうな?

家についてすぐに、手を洗ってエプロンをかけた九兵衛はキッチンにいる。
胃に優しい乳酸系が好きな高杉のために、九兵衛は胃に負担の少ない食事を作ることが多い。
今日の夕飯は鯛飯、ささみの照り焼き、白菜の煮浸しと大根の味噌汁だと言っていた。
メニューだけ聞くと手がかかりそうだと高杉は思うが、いつも九兵衛はそんなに時間をかけずに用意を済ませているので、手際もいいのだと思う。
今すぐに嫁に行っても困ることはないだろう。
けど、他に好きな男ができて結婚したいと言われたら、高杉が困る。
だってもう、高杉は九兵衛を手放せない。
九兵衛が他の男を好きになるなんて、許せない。
高杉がキッチンに入ると、九兵衛は鼻歌を歌っていた。

九兵衛は華奢だがただ細いだけじゃないのが後ろ姿でもよくわかる。
ウエストはくびれているし、足首は締まっている。

その足首にキラッと光るものがあるのに気が付いて、高杉は目を細めた。
アンクレットじゃないか。
あんなもの、高杉は九兵衛にプレゼントした覚えはない。

それに九兵衛は自分でアクセサリーを買ったりもしない。
幼い頃にお金がらみで辛酸を舐めてきた九兵衛は、自分に親の残した資産があることを口外しないし、持ち物でもなんでも質素なものを好む。
高杉は自分自身が稼いでいるので九兵衛が大学に入学した時にお祝いにとフランクミュラーのロングアイランドを買って贈っている。
自分も同じロングアイランドのメンズを愛用しているからペアでつけられるようにと思ったのだけれど、
「これ、一目でフランクミュラーだってわかるから、家が裕福だとか変な勘違いをされそうだ。」
と困惑していた。
それを身につけているところは見た事がない。

その九兵衛が、なんでアンクレットなどしているのか…。
「九兵衛。
そのアンクレットはなんだ?」
高杉は九兵衛に聞いていた。

九兵衛は驚いた顔をして振り返り、そして高杉に向かって笑いかけた。
「ちょうどよかった。
晋助さん、もうすぐ食事ができるからテーブルの上のノートパソコンを片してほしい。」
「そんなことより、そのアンクレットはどうしたと聞いているんだがなァ。」
九兵衛の笑顔に妙に苛立って高杉の声は低くなる。

「これは近藤君たちが誕生日にくれたものだ。」

九兵衛の答えに高杉は顔を顰めた。
近藤君たちと言うからには、近藤、沖田、そして土方の三人のことだろう。
やつらは男だ。
そして土方はおそらく九兵衛に好意を持っている。
そんな男も一緒に贈ったものを身につけているなんて許せない。

……お前の世界は俺だけで構成されていればいい。
お前は俺だけを見ていればそれでいいんだ。
高杉は九兵衛に歩み寄ると肩をつかみ、自分の方を向かせた。
驚いたように一つしかない右目を丸くして自分を見上げる九兵衛。
その顎をつかむと九兵衛の右目を見つめる。

「アンクレットが欲しいなら、俺がもっといいのを買ってやるからそれは外せ。
アンクレットは奴隷につける足かせが起源で、それを贈るのは自分の所有物だという意味があるという説がある。
お前はあの三人の所有物じゃねェだろうが。」

言ったことに後悔はない。
だが九兵衛から
『僕は晋助さんの所有物ではありません』
と言われたらおそらくは俺はこいつをもう家から出さなくなるかもしれねェなァ。
高杉は漠然とそう思う。
アンクレットの起源なんて学生時代に聞いた俗説だったのに、今そんなことを思い出して九兵衛が友人達から贈られたアンクレットをもっといいのを買ってやるから外せと言ったのだ。
しかし九兵衛は、誰かの所有物になることを望むようなタイプじゃない。
そう言われても仕方ないようなことを言った自覚はある。

けれどしゃがみこんだ九兵衛があっさりとアンクレットを外したので、高杉はびっくりした。
アンクレットを外した九兵衛は高杉にそれを渡す。

「別に新しいのが欲しいわけじゃない。
だけど僕の世界を構成してるのは晋助さんだけだ。
晋助さんが僕に手を差し出してくれたあの日からずっと、僕の世界には晋助さんしかいない。
晋助さんだけなんだ。
だから晋助さんが外せって言うなら外す、アンクレットでも指輪でも。
だって僕には晋助さんしかいないから。」
九兵衛は高杉を見つめている。

ああ、この目だ。
あの時と同じ、透明な瞳。
何があっても彼女の瞳は澄んでいて、そして透明なままだ。
この目に惹かれて彼女に自分を選ぶように仕向けてきた。

手放したくなかった。
いや、もう手放せない
俺の世界も、九兵衛で構成されている。
九兵衛だけで、できているんだ。

「俺の世界にもお前しかいねェ。
あの日、お前が俺の手を取ってくれた時からずっとなァ。
愛してる。」
自分を見上げてる九兵衛に高杉はかみつくように口づけた。

END
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