銀魂

□僕の世界を作るのは貴方
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柳生九兵衛の保護者は高杉晋助という。
だけど2人の間に血縁関係はない。

九兵衛の両親は資産家で、親戚は資産家の九兵衛の両親から金を引き出すことしか考えてない人種だった。
だから九兵衛が10才になった時、彼女の両親は弁護士に相談して自分達に何かあっても九兵衛が親戚にくいものにされないように少しづつ財産を九兵衛の名義に書き換え、遺言も作成していた。

九兵衛が13の時、九兵衛の両親は親戚の一人との金銭トラブルが原因で、殺されてしまった。
当時、ボス弁とともに九兵衛の両親の遺言と自分達が未成年後見になったことを伝えるために出向いた新人弁護士の高杉は、九兵衛の親戚の九兵衛を金としてしか見てない態度に嫌悪感を抱いた。

そのしばらく後、親戚の一人に預けられた九兵衛が殺されかけた。
命は助かったが、左目は失われてしまった。
九兵衛を殺そうとした親戚は逮捕されたが、九兵衛があの親戚たちの誰かに預けられればまた殺されると思った高杉は言っていた。
「お前さえよければ、そして死にたくなければ俺の家に来い。」

九兵衛は高杉が差し出した手に縋り、高杉の所に来た。



そして今現在19才の九兵衛は高杉と同じ弁護士を目指すべく、国立トップ大学の法学部に通っている。
高校、大学と進学をする時に高杉から離れるという選択肢がなかったわけじゃない。
実際にそういう話を高杉にもした。

けれども高杉は
「お前がそうしたいならそうすればいいじゃねェか。
だが俺はお前がいることを迷惑と思ったことはねェ。」
とだけ答え、その言葉に九兵衛は高杉のもとから学校に通うことを選んだ。

13才のあの時からずっと、
『お前さえよければ、そして死にたくなければ俺の家に来い。』
と言われた時からずっと、九兵衛にとって、九兵衛の世界を構成するものは高杉ただ一人だった。


「それってさ、愛じゃない?」
そう言ったのはレポートから顔を上げた近藤勲。

「愛じゃねぇかっていくつ離れていると思ってんでィ、九ちゃんとその男は。」
呆れた顔で近藤を見ているのは沖田総悟。

「そんなことどうでもいいだろ?」
興味なさそうなのは土方十四郎。

この三人は九兵衛と大学のゼミが一緒で、高校時代からの友達でもある。
九兵衛の家庭事情も知っている。

今はゼミのレポートをまとめているところで、その合間に土方に
「お前、20才になったらさすがに独立すんだろ?
一人で暮らすんだろ?」
と聞かれ、それに出て行かないと答えたところだった。
「晋助さんは僕の世界を構成する人だからな。」
と。

「いやいや、それは愛だろ。
だって自分の世界を構成するのは晋助さんなんて、愛以外のなんだっていうんだ?」
あごひげを撫でている近藤に
「土方がおもしれェ顔になってまさァ!」
と総悟が小さく笑って、近藤があわてて総悟に肘鉄を食らわし、そっと土方を見たが土方は
「でもその高杉とやらがお前をどう思ってるかはわかんねーけどな。」
と言うと立ち上がった。
「のどかわいた、なんか買ってくる。」

不機嫌そうな土方の後姿を見送って
「分かってる、そんなこと…」
九兵衛はぽつりと呟いた。

そんな事は分かってる。
自分の世界を構成するのは晋助さんただ一人だけど、晋助さんの世界は九兵衛だけで構成されてるわけじゃない。
そんな事はわかってるのに…人からいわれると胸が痛む。

九兵衛は机の上で手をぎゅっと握っていた。



キリのいいところまでレポートをまとめた後、4人は帰ることにしたけれど、その時九兵衛が教授に呼ばれて研究室に行くことになった。
いつもは4人一緒に帰るので待っててやろうかと近藤たちは言ったけれど、
「今日は晋助さんが仕事終わるの早いって言って迎えに来てくれるから、先に帰って大丈夫だ。」
と言われ、三人は先に大学を出た。

「でもホント、九ちゃんは、好きなんだな。
晋助さんのこと。」
近藤がしみじみと呟く。

「………そんなことがあるんですかねィ?
だって、晋助さんは九ちゃんの保護者なんだろィ?」
総悟は首をかしげている。

その時、土方が声を上げた。
「あれ、晋助さんじゃねぇの?」
土方の指差すほうを見ると、門のところに黒い髪の男が立っていた。
パリッとした高そうなスーツを着ていて、人を圧倒するような威圧感がある。
なにより、その男は眼帯をしている。
高杉は弁護士に成り立ての頃、逆恨みから暴漢に襲われて返り討ちにした際に左目の視力を失ったと九兵衛が言っていた。
同じように左目を失った僕に同情して引き取ってくれたのかもな、と九兵衛がさみしそうに言ったことがあった。

高杉の方も近藤と総悟と土方に気が付いたのか、三人に向って歩いてきた。
「九兵衛の友人の近藤と沖田と土方かァ?
九兵衛はどうしたんだ?」

「こんにちは。
九ちゃんは教授に呼ばれてて、少し出てくるの遅くなると思います。」
近藤が明るく答える。

「そうか…」
高杉が腕時計を見る。
なんだか高そうな時計だ。
門のところに止めてある高杉のものだろう車も高そうだし、自分たちにはない、大人の余裕が見て取れる高杉は、男の目から見てもカッコイイとは思う。

けれど、土方にはそんなの関係なかった。
血縁関係もないのに九兵衛の保護者を気取って、九兵衛をいつまでも手放さそうとしないこの男が嫌いだった。
九兵衛が家を出たくないと言っても、大人なら高杉の方から九兵衛に家を出て行くように言うべきだと土方は思っている。

「あんた、いつまで九兵衛と一緒にいるつもりだ?
九兵衛も来年には20だろ?
そしたらいい加減、保護者はいらないと思うんだが。
だからもう九兵衛を手放すべきだと思うんだが。
あんたの方からあいつを離すべきじゃないか?」
だからそう言っていた。

高杉は土方の言葉に驚いたのか目を丸くしている。

「土方さぁん、そりゃァさすがに失礼すぎやしやせんかねィ。」
のほほんと土方にいう総悟と違い
「すみません、トシに悪気はないんです、すみません!」
近藤は高杉に頭をさげ
「ほら二人とも、帰るぞ!」
と二人を引っ張って去っていく。

三人の後姿を見ながら、高杉は思い出していた。
13才の九兵衛の、透明な瞳を。
彼女の瞳は透明だった。
両親を殺され、自分も殺されかけ、左目を失ってしまったというのにそれでも残された彼女の右目の瞳は透明で、澄んでいた。
その瞳に高杉は強く惹かれてしまったのだと、思う。

だけど、自分は大人で、相手は子供。
高杉はいつだってずるかった。
いつだって行き場のない九兵衛に、自分を選ばせるように仕向けてきた。

あの土方という男のカンのよさには驚いている。
あの男の言う事は当たってる。

手放すべきなのは分かっている。
九兵衛にはもう保護者の自分はいらなくなるのは分かっていた。
彼女には親の残した遺産がある。
一生暮らしていくには困らないだろう。
それに、左目に眼帯をつけていても顔立ちはきれいに整っている。
中学生くらいからラブレターをもらってくることも増えた。
中学・高校と部活で続けてきた剣道は六段を所有しているし、通っているのは法学部。
司法試験に受かれば、職にも困ることはない。
十分に一人で生きていけるはずだ。
それでも九兵衛に自分を選ばせてきた。

選ばせてきたのは、どうしてか、自分でももう分かっている。
分かってて気が付かないふりをしていたけれど、土方…おそらくは九兵衛に好意を寄せているのだろう…の言葉に高杉はふたをしていた自分の気持ちがあふれ出しそうになっているのを感じた。

その時、
「晋助さんっ!
またせてすみませんっ!」
と声がして高杉はその方向を見る。
九兵衛が自分にかけよってくる。

ああ、きっと。
最初から、自分は九兵衛の保護者ではなかった。
あの透明な瞳を見てからずっと、九兵衛は高杉の保護するべき対象ではなくて、愛する対象だったのだと、唐突に理解した。

愛してる。
家族としてじゃない。
保護者としてじゃない、俺は男として九兵衛を愛してる。
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