銀魂

□局長の恋
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自分に背中を向けて震えて泣いてる九兵衛になんて声をかけていいか分からない。
なんでこんなことになったんだろう?
九兵衛の真っ白い、けれどところどころに赤い花が咲いてる背中を見ながら近藤はどうしてこんなことになったのか、その理由を思い出していた。

九兵衛はお妙を巡ってのライバルだったはずだ。
そう、ライバル。
だけど、同時に妙の事で一番話が弾む友達でもあるわけで。
その縁で、週に二回ほど九兵衛は真選組の隊長・副隊長クラスにのみだけど稽古をつけに来てくれていた。
そうして、その後は屯所の近藤の自室でお妙について話をするのがお約束だった。

今日も、最初は和やかにお妙について話をしていて、それがヒートアップしてどっちがお妙をより愛しているかの話になった。
それはいつもの事で、その後、結局
『やっぱりお妙さんは最高だ!』
という結論に達して、互いに満足して近藤は柳生家に帰る九兵衛を送っていく。
そういうことを飽きもせずに毎回毎回繰り返していた。
今日だってそれで終わるはずだった。
なのに、お妙が最高だという結論に達した後、いつもと違かったのは九兵衛がポツリともらした言葉だった。
「近藤くんはいいな。
ストーカーとか、ゴリラとか言われてるけど男だもの。
妙ちゃんさえその気になれば、妙ちゃんと付き合うことが出来る。
けど、僕はそういうわけに行かない。
来週見合いがあるんだ。
だから来週の稽古はこれない。」
「見合い?!」
驚いて叫ぶ近藤に潤んだ瞳で九兵衛は頷いた。
「もう、周囲に男だと偽る必要はなくなったからね。
だから家柄のいい人と早く結婚をって周囲からパパ上がせっつかれ始めてね。
僕は18だけど、政略結婚に早すぎるって年齢でもないから。」
いつもと変わらないはずの、そしてこれからも繰り返されるはずの日常。
それがいつなくなってもおかしくないのだという事に、その時初めて近藤は気が付いた。
気が付いたら、怖くなってしまった。
九兵衛との日常が変わってしまうことが。
九兵衛が誰か他の男と結婚してしまうことが。
そして、自分が男で彼女が女であることも、猛烈に意識してしまった。
それから後の事はよく覚えてない。
気が付いたら九兵衛を組み敷いていた。
副長の土方をあんだけボコボコにしたのに、彼女がどんなにもがいても抵抗しても自分は痛くもかゆくもなかった。
抑えつけた腕が細くて、白い首筋が細くて、ああ彼女は女なんだ、いやでもそう意識させられてしまった。
近藤は人がいいから、どんなに妙が好きでもむりやり押し倒したことなんてないし、そういうことをするつもりもない。
自分はワイルドな見た目と違い、理性は強いと思ってた。
思ってたのに、その理性のタガが外れた。
涙ぐんで自分を見上げる瞳に煽られて、震える唇でいやだと何度も告げられるのが苛ただしくて。
力でかなうはずないのに何とか自分から逃げようともがくたびに乱れていく九兵衛の道着の合わせを開いていた。
現れた肌は思っていた以上に白くて、これだけ白ければ赤い花はよく映えるだろう、そう思ったら試さずにいられなくなって。
怖い、嫌だ、痛い、そう泣き続ける九兵衛に無体な事をしてしまった。
初めてだった上に、自分と九兵衛じゃ体格差もありすぎる。
本当に痛くて怖かっただろう。
全てが終わって自分を取り戻した時に始めて近藤はとんでもないことをしたと顔から血の気が引いた。
それに、自分が好きなのは妙で、九兵衛はその妙の親友なのだ。
なんてことをしたんだろう、どれほど九兵衛を傷つけたんだろう。
自分に背中を向けて、声を押し殺して泣いてる九兵衛の震える体を見ながら、時間が戻ればいいのに、近藤はそう願っていたけど、それが叶わないことであるのも分かっていた。
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