銀魂

□月下美人
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九兵衛はぐったりとして荒い息を吐きつつも、自分を見ている男を睨む。
「俺もいろんな女を抱いてきたが、抱くたびに睨んでくるような女はてめえが始めてだ。」
男…高杉晋助は情事の最中の顔が嘘のように涼しい顔をしている。
自分はまだこんなに息が乱れているのに。
「そんな顔で睨んでも、なァ。
さっきまで喘いでた女にそんな顔されてもこわかねぇ。」
そう言って高杉はベッドに広がっている九兵衛の黒くて長い髪を一房手に取る。
「昼間は男顔負けに強くて、凛々しい柳生の若様がなァ。
夜にはこんなに乱れて男受け入れてるとは誰もおもわねぇだろうなァ。」
本当に楽しげに自分の髪をいじっている高杉を睨み、
「まるで人を淫乱みたいに言うな!
僕が受け入れてるのはお前だけだ!」
と言ったら、こらえきれなくなったのか、高杉は声を上げて笑い出した。
「そりゃそうだ。
他の男になんかに抱かれてみろ、てめえを殺してやるよ。」
笑っているのに言ってることは物騒極まりない。
「おまえなんかに殺されてたまるか。」
それでも九兵衛はそう言い返す。
でも、頭の中で、恋人同士が抱き合った後の会話だなんて信じられないなと思う。
九兵衛にとってこれが始めての恋だけど、恋をする前の九兵衛は、恋はもっと甘いものだと思ってた。
それなのに、自分の恋は甘いものとは程遠い。
愛してるなんて言葉もなく、ただひたすらに自分に熱情をぶつけてくる高杉を受け止めるだけで精一杯だ。
だから情事の後は高杉を睨むことくらいしか出来ない。
好きだとか、愛してるだとか本当はそんな言葉が欲しいけど、そんなこと言えない九兵衛には、睨むことくらいしか出来ない。
どうやって自分の気持ちを伝えたらいいか、分からないのだ。
なのに高杉は色んな女を抱いてきたとか言う。
自分は、高杉にしか抱かれたことがないのに。
それでも他の男に抱かれたら殺すというのは、甘さはみじんもないけれど高杉の愛情表現なのかなとも思うが、よく分からない。
「ねみぃなら少し寝ろ。
一時間経ったら起こしてやる。」
九兵衛を見ていた高杉がかすかに顔を緩めた。
「この間みたいに、目が覚めたら三時間経ってたなんてことはないだろうな。」
「この俺がてめえと三時間も一緒にいてやったことをありがたく思え。」
「ありがたいわけがないだろう。
家を抜け出していることがばれたらどうしてくれる?」
そう言いつつも一通り憎まれ口を言った後の高杉の顔は優しくて、背中を撫でてくれる手も優しくて、九兵衛はいつしか眠りに引き込まれていた。
その寝顔をじっと見つめながら、高杉は九兵衛の髪を梳く。
九兵衛と会うときだけ、高杉の部屋には花が飾られる。
強い芳香を漂わせる白い花。
きっと、この花に込められた高杉の意図に九兵衛は気がついていない。
「月下美人。
まるでてめえみてぇな花だな。
夜の、月の下でしか咲けない花。
それでも日の下でなんか咲かせてやれねぇ。
てめえが日の下で咲くってことは、俺じゃねぇ男を選んだってことだからな。
他の男を選ぶなら、そうなる前に俺がてめえを殺してやるよ。」
九兵衛の安らかな寝顔に向かって高杉はそう呟いていた。
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