銀魂

□通学電車
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また、今日もいる。
総悟は、駅のホームで背筋を伸ばして立っている『彼女』を見つけて嬉しさを抑え切れなかった。
それはただ毎朝駅のホームで見かけるだけの、名前も知らない女の子だ。
けれど総悟は駅のホームで彼女を姿を見かけることができればそれだけでその日一日気分がいい。
わかっているのは彼女が恒道館女子の制服を着ていることと、いつも文庫本を読んでいること、朝のラッシュでもみくちゃにされないかどうか心配になるほど華奢で小柄な事、それなのに背筋をのばして立っている姿は青竹のような潔さがあるということだ。

総悟はこの4月に武州高校に入学後、朝から真面目に学校に行ったことはなかった。
卒業できればいいや、そう思っていたから単位が取れるぎりぎりのところまではサボろう、そう考えていた総悟は五月に入ってすぐに、親代わりの姉と共に呼び出され、教師からそういう生活態度を注意されてしまった。
総悟は小さい頃に親を亡くし、それからは姉に育てられたので姉にはとても弱い。
「そうちゃん、私は仕事でそうちゃんより先に家をでてしまうから、そうちゃんが学校に遅れていってるなんて知らなかったわ。
これからは、私が仕事で朝いなくても、きちんと学校にいかなければダメよ。」
という姉の一言で、真面目に学校に通うことにした。
朝起きて仕事に行く姉を見送り、朝食を取った後着替えて駅に向かう。
めんどくさいけど姉のために仕方ない。
そう思っていた総悟は、駅のホームで彼女を見かけた瞬間、時間が止まったような気がした。
人で混雑している駅のホームで、彼女の姿はまっすぐに総悟の目に飛び込んできた、そんな感じだった。
右目には花の形をした眼帯をつけていたが、それが彼女の美しさを損なわないのが凄いと思った。
綺麗に整った顔立ち。
血管まで透けそうなほど白い肌。
黒くて長い艶やかな髪を日によってポニーテールにしたり、ツインテールにしている。
彼女はいつも文庫本を読んでいたが、本にかけられたブックカバーが本屋の味気ない物ではなく、小花柄の布製のブックカバーであることに好感を持つ。
なんだか自分自身の事に気を配っている感じがしたのだ。
総悟は彼女から目が離せなくてじっと見つめていた。
そのうちに電車が来て、総悟も彼女もその電車に乗り込む。
車内でも総悟は彼女から目を離せなかった。
小柄な彼女は人にもみくちゃにされてつぶれてしまうのではないかと心配になっていたけど、電車で通うことはなれているのか、人に埋もれることなく背筋を伸ばして立っている。
そして、総悟の降りるひとつ前の駅で降りていった。
降りていった彼女の背中を見送りながら、総悟はこれっきりであえなくなるのは嫌だ、不思議とそんな事を思っていた。

翌日、昨日と同じ時間の電車に乗るために駅に行くとホームには彼女の姿があった。
やはり文庫本を読んでいる。
彼女の周りだけ空気が清浄で爽やかなような気がする。
それはきっと、彼女の立っている姿が背筋が伸びていて、凛としているからなんだろう。
それから、毎日総悟は同じ時間の電車に乗るために駅のホームに行くようになった。
彼女もいつも同じ時間の電車に乗るらしかった。
だから、総悟もいつも同じ時間の電車に乗るようになって、遅刻しなくなった。
でもたまに彼女がいない日もある。
そういう日は一日があまり面白くない。
そんな、彼女を見つめるだけの日々を総悟はもう5ヶ月も続けている。
自分らしくない、そう思うがなぜか彼女には声をかけることが出来ないのだ。
怖いのだ。
もし声をかけても冷たくあしらわれたらどうしようとか、そんな事を考えてしまう。
そうするとどうしても声をかける勇気が出ない。
そして、今日も声をかけられないまま、彼女を見つめるだけなのだ。
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