銀魂

□彼女が彼になったから
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ヅラ子は海辺でやきもきしながらその光景を見ていた。
銀時のところの新八と九兵衛が海辺で話をしている。
九兵衛は新八の手に触れたあと、新八の指に自分の指を絡ませた。
新八の方は真っ赤になっている。
九兵衛が男の子になってしまったから新八とはどうにもなることはないと分かってはいても、見ていて気分のいいものではない。
それでも、一番効果的に登場できるタイミングを見計らって、ヅラ子は九兵衛の前に現れた。
呆れた新八に海に突き落とされても、罵られても全然なんとも思わない。
九兵衛が男になってしまったんだったら、自分が女になればいいだけだ。
だけど、今までキャラかぶりがどうのこうのと言っていたのに今更そんな事を言えない。
だから
『どちらが真のおかまか決着をつけようではないか!』
と言ってかまっ娘倶楽部のエースの座を取り合う戦いをするしか出来なかった。

九兵衛は元・女の身でありながら、強い。
攘夷浪士として真選組に追われ、その追跡をかわしてきた桂と対等に戦っている。
何時間、こうして戦っているだろうか、さすがにちょっと疲れてきた。
それは九兵衛も一緒だったようだ。
どちらかともなく、
「疲れたから少し休憩にしないか?」
と言っていた。
二人は並んで海辺に座った。
海からふいてくる潮風は気持ちよく、最初は黙ったままだったのに、二人はぽつりぽつりと話をし始めていた。
最初はなんでもない話だったが、そのうち話は核心に迫っていく。
「なぜ九兵衛殿はそんな粗末なものをつけてしまったのだ?」
ヅラ子は九兵衛にそう聞いていた。
「男だ女だと悩むことに疲れたからだ。
僕は男で女でもない、僕という存在になることにした。」
九兵衛は膝を抱えてそう答える。
「そうか。」
九兵衛の複雑な生い立ちを考えたらヅラ子は何も言えなくなってしまう。
どれだけ厳しい幼少時代を過ごしてきたのか…それなのに軽々しい言葉で九兵衛を慰めたりすることはしたくなかった。
「君こそ、なんで取ってしまったんだ?
そんなに僕とキャラが被ってることが不満か?」
九兵衛がヅラ子をじっと見つめる。
その右目はまっすぐで、吸い込まれそうだ、ヅラ子はそう思った。
「別にそんなことは関係ない。
ただ、九兵衛殿が男になってしまったから、俺は女になるしか方法がなかった。」
吸い込まれるというよりは魅せられてしまったようだ。
気がついたらヅラ子はそんなことを言っていた。
九兵衛はじっとヅラ子を見ている。
とんでもないことを言ってしまった、そう思ったが取り繕う言葉が出てこないヅラ子に
「そうか。
僕も君といるとうざいと思うこともあるけど、やっぱり君の事を嫌いにはなれないし、だから突貫工事の決心をするのに大分時間が掛かったよ。」
と九兵衛が言った。
…それはどういう意味だろうか?
自分のために女でいようかと悩んでくれた、そういう事なのだろうか?
心臓の鼓動が早くなっていくのを感じながらヅラ子はじっと九兵衛を見つめていた。
九兵衛もヅラ子を見つめているが、その顔が柔らかく綻ぶ。
「もう、どっちがエースかとかそんな事どうでもいいじゃないか。
やっぱり僕は君と争うよりは、君と仲良くしたいと思うから。」
九兵衛の笑顔はキラキラしてるように見える。
……一体なにかしら、これは。
心臓に悪いわ。
ヅラ子はそう思いながら九兵衛の顔から視線を外せないでいた。

END
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