銀魂

□盛々様の護衛にて
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なんだっていうんだ、あのガキは。
土方は誰かの耳に入ったら首が飛びそうなことを内心で思いながらタバコの煙を吐き出した。

土方の視線の先には、九兵衛と徳川盛々が一緒に歩いている。
土方を含む真選組はその二人を影ながら護衛しているのだ。
猿お方の騒動については土方も聞いていた。
真選組副長として噂話も聞いたし、恋人である九兵衛からも直接聞いた。
結局、猿は柳生家で飼う事になり、この猿は九兵衛を大好きらしく、土方と九兵衛の仲を発達した悪知恵で邪魔してくれるので土方はむかつく猿だと思っていた。
しかし、それ以上に最近の土方をイライラさせているのは、この盛々様であった。

猿騒動以降、盛々様は九兵衛にすっかりなついてしまった。
そして、九兵衛と一緒に出かけたいなどと言うことが多くなった。
盛々様が九兵衛になついていることを九兵衛の父は喜び、盛々様の要求は全て受け入れている。
おかげで今や、九兵衛は週に三回は盛々様のお守りをするようになり、その分、土方と九兵衛が二人きりであう時間は減ってしまった。
それに真選組が盛々様の護衛のために動くのも週に三日になったということで、仕事も忙しい。
それで今日も土方はイライラしながら町を歩く二人の護衛をしているのだった。

「柳生家も大変ですね。
盛々様のお守り、週に三回になっちゃって。」
土方のイライラが分かったのか、山崎が土方にそう言ってくる。
「ああ。」
土方の返事が最高に機嫌悪そうだったので、山崎もそれ以上は何も言わなかった。
本当に、週に三回もガキのお守りたぁ、たまったもんじゃない。
土方は心の中でだけそう毒づく。
口に出したら首が飛ぶからだ。

ちなみに今日は盛々様は九兵衛と一緒に買い物をすることを望んでいる。
九兵衛の飼っている猿にえさを買って、そのえさを持って柳生家に遊びに行くらしい。
二人は仲良く歩いてる。
盛々様は九兵衛の事を男だと思っているし、子供だし、嫉妬するなんて馬鹿らしいとも思う。
が、盛々様のおかげで九兵衛と一緒にいる時間が減ってるのは確かだし、盛々様が子供で、九兵衛を男と思っていたとしても、やはり九兵衛を取られたようで面白くないのは確かだ。
それに九兵衛自身が盛々様を可愛がっているのも面白くない。
猿の事があってから母性が目覚めたのか、九兵衛は動物や子供に今まで以上に優しくなった。
その顔は慈愛に満ちていて綺麗だとも思うけれども、その慈愛をもう少し俺に向けてくんねぇかなとも土方は少しだけ思っている。
そしてもう少し自分と会う時間を作ってくれねぇかなとも。
でも、あのセレブにこだわる九兵衛の父親が盛々様のお願いを突っぱねるわけねぇし…。
そんな事を考えていた土方は、
「いってーな!」
という声で我にかえる。
あわてて声のする方をみると、九兵衛と盛々様に男が絡んでるところだった。
「ガキどもが小さくて見えなかった、おかげでぶつかったじゃねぇか、いてーな!」
どうも男が九兵衛か盛々様かどっちかにぶつかったらしい。
仕方ねぇな、土方は髪をバリバリかくと男の所に行こうとした。
その時、盛々様が頭を下げようとした。
「ごめ…」
そんな盛々様を九兵衛が制した。
「男が自分が悪くもないのに簡単に頭を下げてはなりません。
この男の方からぶつかってきたのです、あなた様は悪くありません。
謝るべきはこの男の方です。」
九兵衛の言葉に男も盛々様も目を見開く。
土方も驚いていた。
これでこの男が怒って襲い掛かってきたらどーすんだ?!と思ったら案の定
「あんだとこのくそガキが!
ナマいってんじゃねぇー!!」
と言って男が九兵衛に殴りかかった。
真選組隊士たちは慌てて助けに行こうとしたが勝負は一瞬だった。
男は地面に叩きつけられて、気を失っていた。
盛々様が一緒の時になんてことを…土方は冷や汗が吹き出る思いだった。
九兵衛が強いのは知っているが盛々様に何かあったら土方の首だけではすまない、多分九兵衛は切腹だ。
それなのに九兵衛は盛々様ににっこりと笑いかける。
「盛々様、男の頭は重いのです。
ですから自分が悪くもないのにむやみに謝ってはいけません。
そしてその重い頭を自分が悪い時にのみ下げるからこそ、謝罪の気持ちは相手に伝わるのです。
悪いことをしても謝らないのはだめな事ですが、自分が悪くないのにむやみに謝るのもよくありません。」
盛々様は九兵衛の言葉に頷いてはいるが、まだ子供だ。
やはり、男が襲い掛かってくるのを目の当たりにしたのは怖かったのだろう。
目に涙を浮かべている。
「盛々様、男はむやみに泣いてもいけません。
怖くてもそれを隠して見せる強さも男には必要なのです。」
ガキに向かってなんて無茶言ってやがるんだ、第一お前が男を怒らせたのが悪いだろ、土方は心の底から思って頭を抱えたくなった。
九兵衛が言ってることは男として育てられただけあってかっこいいが、それが出来なくて自分も小さいころは散々爺と親父に怒られたんだろうが、内心でそう思う。
でも何事もなくてよかった、そう思ったのもつかの間。
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