銀魂
□誰にもお前を渡さないSide高杉
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昼休みに電話して、六時半くらいに大学に迎えに行くから大学内で待ってろと九兵衛に言っておいた。
九兵衛は分かったと言っていたので、俺は仕事が終わったあと大学の正門に車をとめて、九兵衛の携帯に電話する。
九兵衛はすぐに電話に出た。
「着いたぞ。
正門前にいる。」
「わざわざ迎えに来てくれてありがとう。
今、行くね。」
そういう九兵衛にああと頷いて俺は電話を切る。
そして車から降りると正門の前に歩いていく。
その時、俺の前から歩いて来る男に気がついた。
土方だった。
土方の方も俺に気がついて、足をとめる。
「どうも、お兄さん。」
土方は俺を睨みつけながら言う。
「どうも、土方くん。
でも俺、九兵衛のお兄さんじゃなくて旦那さんなんだ。」
俺も土方を睨みつけた。
「そういや、そうでしたね。
忘れてました。
妹と結婚する男なんて余り聞いたことないですからね。」
「そうだな。
人妻になった女を好きだっていう男はざらにいるけどな。」
「そうですね。」
俺と土方は睨みあう。
こいつは全然九兵衛を諦めてねぇんだ、俺はそう思った。
なんとなく、始めて会った時からこいつはこういう諦めの悪い男なんじゃないかとは思ってた。
十回以上も九兵衛に勉強を教えるために家に来ていて、関係が全然進展しないのに、それでも九兵衛を思い続けた男だ。
ちょっとやそっとで諦めるような男じゃねぇんだろ、多分。
だからこそ、九兵衛が俺のものだとコイツに分からせる必要がある。
「知ってるか?
既婚者と付き合った場合は、その配偶者から慰謝料請求されるんだぜ。
俺は九兵衛に手を出す男がいたら容赦しねぇ。
そいつを社会的に抹殺してやる。」
「そうですか。
妹と結婚した男は社会的に抹殺されないんですか?」
「本物の妹じゃあれだけど、血が繋がってねぇからな。
問題ねぇよ。」
「たった一枚の紙切れ提出しただけなのに?」
「そのたった一枚の紙切れが、どんだけ重いか、ガキにゃわかんねぇか?
ガキだからわかんねぇんだろうな。」
俺の言葉に土方の目が釣りあがった時、九兵衛が歩いてくるのが見えた。
九兵衛は俺に気がついて手を振ったが、すぐに顔が強張る。
九兵衛からは背中しか見えていないだろうが、俺の前に立ってる男が土方だと分かったんだろう。
「悪ぃけど、お前の相手してる時間ねぇんだよ。
今日は久しぶりに早く帰って来れたんでな。
九兵衛、帰るぞ。」
俺は土方を一瞥すると、九兵衛に向かって歩き出す。
九兵衛はどうしていいか分からないと言った顔でそれでも俺に向かって歩いてきた。
「おにい…」
「お兄ちゃんじゃな…」
「晋助さん、ここで一体何を?」
九兵衛は背中を向けたまま微動だにしない土方と俺を交互に見る。
「なんでもねぇよ。
気にすんな。」
俺はそういうと九兵衛の腰を抱き寄せた。
「おにっ…晋助さん…ここがっこ…」
「気にすんな。」
さらに強く九兵衛を抱き寄せて、俺は歩き出す。
動かない土方の横を通り過ぎ、俺と九兵衛は大学の外にでる。
九兵衛は土方の方をちらとも見なかった。