銀魂

□悪夢の後に
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「女まで戦場にだすとはな…幕府も全然余裕がねぇな。」
目の前でにやりと笑う高杉を土方は睨みつけた。
高杉の視線の先には鬼兵隊と戦っている九兵衛がいる。
「そしててめぇの女を戦場に出すなんて、真選組もよほど余裕がねぇと見える。
大事にしてたんじゃねぇのか、柳生の姫を。」
「黙れ!!」
土方は刀を柄を握り締めた。

九兵衛の事は大事にしている。
だけど、鬼兵隊が攘夷浪士たちを束ね、率いて幕府に牙を向いた今、幕府に仕える柳生家次期当主・神速の剣の使い手柳生九兵衛にも鬼兵隊の討伐のための命が下されるのは当然の事。
その為に強くなったからと九兵衛がその命に従うのも分かりきっていたことで、土方がどんなに反対しても懇願しても怒鳴りつけても九兵衛はここに来ることを止めなかった。

そして今、この戦場で九兵衛は誰よりも優雅に剣を振るって敵を倒していく。
それでも自分の恋人を、大事な九兵衛をこんな血なまぐさい戦場に出して剣を振るわせていることは土方の本意ではないのだ。

「大事な姫が目の前で殺されたらどうなるんだろうなぁ、真選組副長は。
いや、その姫が憎むべき鬼兵隊の高杉晋助に連れ去られたら…その方がてめえにゃショックか?」
余裕たっぷりに笑う高杉が土方の理性を怒りに変えていく。
「うるせぇ、黙れって言ってんだよ!!」

その時、後ろから誰かの気配を感じ、土方はとっさに左に飛んで避けた。
今まで自分がいた場所は刀で切り裂かれていた。
「さすがでござるな。」
土方の後ろにいたのは河上万斉だった。
土方は河上万斉に切りかかる。
目の前の敵は強く、土方の意識は完全に九兵衛に外れていた。

その意識が再び九兵衛に向いたのは戦場に銃声が響いたからだった。
土方は九兵衛の肩から血が吹き出るのを見た。
「九兵衛!!」
九兵衛は肩を撃たれたにも関わらず即座に刀を左手に持ち替え、自分にむかってきた攘夷浪士を切り伏せる。
「ほぉ、女なのになかなかやるでござるな。
さすが柳生家次期当主と言ったところか。
一度仕合うてみたいものでござる、柳生の姫が生きていれば…の話でござるが。」
万斉の言葉に土方は思わず万斉の腹に蹴りを入れていた。
が、それはあっさりとかわされる。
「九兵衛、ここは一旦退け!!」
土方はそう叫びながら、万斉に切りかかる。
「何をバカなことを!
僕は退かない、幕府のためにこの命を懸ける!
それが柳生家次期当主・柳生九兵衛としての僕の生き方だ!」
「バカいってねぇで…」
土方は言いかけて息をのんだ。
もう一発銃声が響き、それが九兵衛の足を貫いたらしい。
九兵衛の体がぐらりと傾いたのが見えた。
「九兵衛!!」
それでも九兵衛は刀で自分の体を支えた。
そして弾かれたように顔を上げる。
「高杉ィィ!!」
土方は河上を吹っ飛ばすと慌てて九兵衛の方に走り出す。

いつの間にか九兵衛の前には高杉が立っていた。
「こんな綺麗な顔して、とんだじゃじゃ馬だ。
だが、じゃじゃ馬な女は嫌いじゃねぇ。」
九兵衛は目の前に立っている高杉に向かって切りかかろうとするが、利き足を打たれ体を支えることが出来なかった。
「言っただろ。
じゃじゃ馬な女は嫌いじゃねぇ。」
高杉は地に膝を付いている九兵衛のあごを掴み、上を向かせた。
「それが綺麗な顔した女で、幕府の犬の恋人とあればなおさらな。」
「僕に触るなぁぁぁ!」
そう叫んだ九兵衛の首筋に衝撃が走る。
九兵衛が倒れそうになる寸前で高杉は九兵衛を抱き上げた。
「目的は達した。
が、真選組はこのまま潰せ。
副長だけは生かしておけよ。」
高杉は土方を見て笑う。
暗い笑み。
「高杉ィィ!!」
切りかかろうとした土方の刀が銃声と共に弾き飛ばされた。
その瞬間、土方の首筋にも衝撃が走った。
気を失う寸前に土方が見たのは九兵衛を抱き上げて、悠然と去っていく高杉の後ろ姿だった…。
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