銀魂

□誰にもお前を渡さないSide土方
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講義を終えた俺は児童教育学科の講義が行われている講堂に向かって歩いていた。
近藤さんと昼飯を学内のカフェテラスで食う約束をしている。
本当はテラスで待ち合わせなんだが、近藤さんを迎えに行くという口実のもとに九兵衛の顔を見れたらいい、そう思っていた。

俺が講堂についた時、ちょうど児童教育学科のやつらが講義を終えて出てくるところだった。
「トシ!」
俺に気がついた近藤さんがそう声をかけてきて、その場にいた学生たちが俺と近藤さんをみたが、その中に九兵衛はいなかった。

「わざわざ迎えにきてくれたのか?
カフェテラスで待ち合わせでよかったのに。
総悟はテラスで待ってるんだろ?」

「今日は講義が少し早く終わったから、迎えに来た。」

そういうと近藤さんは少し顔を顰めた。

「九ちゃんなら、今日は休みだ。
旦那さんが仕事で出張になって、その出張について行ったらしいよ。
女子たちが話してるのを聞いた。」

近藤さんの言葉に内心はひどく動揺するが、それを押し隠す。

「俺は別に…」

そういいかけたが、
「俺がトシの気持ちに気がついていないとでも思ってたのか?
トシは九ちゃんが好きなんだろ?」
近藤さんの言葉に俺はびっくりした。

「高校の頃からずっと、トシ、いつだって九ちゃんを見てたもんな。」

そんなに俺は九兵衛のことを見ていたんだろうか?
俺の気持ちはそんなに分かりやすいんだろうか?

「それに入学式の時、旦那さんがお兄さんだって知ってたってことは、九ちゃんのお兄さんに会ったことがあるってことだろ。」
近藤さんがそんなに鋭いとは思わなかった。

俺は黙っていたが、近藤さんはさらに続ける。
「でも、もう九ちゃんは結婚しちゃったんだし、諦めろよ。
だって、結婚してるんだよ。
入学式に会った時の感じじゃ、お兄さん……っつーか旦那さん、めちゃめちゃ九ちゃんのこと好きそうだった。
九ちゃんの方は人目とか気にしてるっぽかったけど、旦那さんの方は人目も気にせずベタベタしてたし。
出張にまで連れて行っちゃうんだから、よほどの事だよ。
そんな人がトシの九ちゃんへの気持ち知ったらどうなるか…。
既婚者に恋をするってすごいリスクなんだ。
トシが九ちゃんにずっと気持ちを伝えずにいれるならいいと思うけどさ。
トシを見てる限り、いつか九ちゃんに気持ちをぶつけずにはいられなくなると思う。
あんまり人の恋に口を挟みたくはないけど、でもさすがに今回は黙ってられない、俺、トシが心配なんだよ。」

近藤さんの言葉はありがたいが、俺はもうすでに戻れないところまで来てる。
誰も知らないところで、俺は九兵衛と…人妻と愛し合ってるんだからな。

それでも俺は
「そうだな。」
と言っていた。

その時、携帯のメール音が鳴った。
俺は慌てて携帯を取り出す。

「誰?
総悟から?
遅いって文句言ってきてる?」
そう聞いて俺の携帯を覗き込もうとしてる近藤さんから携帯をさっと隠し
「違う。
親だ、親。」
と言って俺はメールを開いた。

『今日から三日、大阪に滞在するんだ。
その間は会えない。
ごめんね。』
九兵衛からだった。

九兵衛が一人で大阪に行くわけないから、さっき近藤さんが話してた兄貴の出張についていったっていうのは、本当なんだな。
普通、会社の出張に女を連れて行くか?!
そう思って俺の顔は険しくなる。

「どうかしたか、トシ?
親、なんだって?」
近藤さんの声に慌てて顔をあげて
「うん、ちょっとな。」
と言うと、自分に嘘をついて
『気をつけてな。
大学は同じなんだし、いつでも会えるから気にすんな。』
とだけ返して、俺は携帯をしまった。
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