銀魂

□神様にも祝詞
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「土方くん。」
横を歩いてる九兵衛がふいに土方の名前を呼び、土方を見上げた。
大きな瞳にじっと見つめられて、土方はドキッとするがそれを必死で抑える。
九兵衛と付き合い始めてから、結構たつというのに、こうやって九兵衛に見つめられると土方は弱い。
未だに心臓がドキドキするのだ。
それでも土方はなんでもないことのように
「あ?
なんだ?」
と聞いた。
九兵衛より年上であることや男であることのプライドもあって、余裕がないところをみせたくないのだ。
それに、九兵衛が自分を一心に慕い、大好きだとか愛してるだとか言ってくれるのも嬉しい。
愛されてるという実感を得られるのは、攘夷浪士との戦いで殺伐とした日常を送ってる土方にとって幸せなことだった。
「僕は土方くんが大好きなんだけど、土方くんは僕をどう思ってるの?」
九兵衛の言葉に土方はなんと答えて言いか分からず、黙ったまま九兵衛を見つめた。
「僕は土方くんを大好きだけど、土方くんは一回も僕に好きだって言ってくれたことないよ。
僕だって、好きだって言ってほしいよ、土方くんに。」
「あ?!
そんなこと言えるわけねぇだろ!」
土方は思わずそう言っていった。
その言葉に九兵衛はうつむいてしまった。
あ、今のはさすがに言い過ぎたかな、そう思った土方は
「九兵衛、あのな…」
と声をかけるが、顔をあげた九兵衛は明らかに怒っていた。
「そうか、もういい!
君の気持ちはよく分かった!!」
九兵衛は土方に背を向けて歩き出した。
土方は足早に歩いていく九兵衛の後姿をみて、頬をかいた。
その後姿から九兵衛が怒ってるのはよく分かってる。
分かってはいるが、それでも好きだなんてなかなか言えない。
だけどこのまま放っておくわけにもいかない。
土方は慌てて九兵衛を追いかけるとその肩に手をかけた。
けれど九兵衛は土方の方を見ないまま、土方の手を振り払った。
「言わなくても一緒にいるんだから分かるだろ、それじゃだめか?」
九兵衛は何も言わずにまた足早に歩いていってしまう。
土方は慌てて九兵衛を追いかける。
「九兵衛!」
叫んでも九兵衛は振り向かない。
肩に手をかけたらバシッと振り払われた。
「おい!」
その態度に頭にきて、土方の声もきつくなってしまう。
すると九兵衛が振り向いた。
「神様にも祝詞。」
たったの一言、そう言って今度は九兵衛は走り出した。
「おい、待てッ!!」
土方も走り出す。
九兵衛は走ってるとはいえ、全速力ではなかったらしい。
すぐに追いつくことが出来た。
「なんだ、その神様にもなんたらって…」
肩に手をかけて無理やり振り向かせた九兵衛の目からは涙が零れ落ちて、土方は息が止まりそうになった。
「神様だって、願いことをきちんととなえなければその人の願い事は分からないんだよ。
土方くんは言葉で伝えなくても心で伝わるなんて本気で思ってるの?
言葉はなくても大丈夫だなんて、本気で思ってるの?」
九兵衛の言葉が土方の心に突き刺さる。
「僕だって言葉がほしいのに。
言葉がほしい時だってあるのに。」
「九兵衛…」
九兵衛はまた土方の手を払って歩き出す。
九兵衛は泣いていた。
それは自分のせいだ。
恥ずかしいとか、男のプライドだとか、そんなものより九兵衛を泣かせないことの方がよほど大事じゃないか。
なんで俺はそんなものにこだわっていたんだ。
遠ざかっていく九兵衛の背中に向かって土方は叫んでいた。
「俺が愛してるのはお前だけだ!
九兵衛、俺はお前を愛してるぞ!!」
土方の言葉に、九兵衛が振り返る。
ちなみにその言葉に振り返ったのは九兵衛だけじゃなくて通行人もだったが、土方にはそれは見えていない。
九兵衛はしばらく土方を見ていたが、土方に向かって走り出すと抱きついてきた。
土方はその勢いで後ろに倒れこまないように足を踏ん張りつつ、九兵衛を抱きしめた。
「悪かった。
俺が悪かったよ。
お前だけを愛してる。」
「土方くん!」
そう言ってきつく抱きついて泣き出す九兵衛を抱きしめて、土方は猛省していた。
神様にも祝詞…か。
確かにその通りだった。
愛情だとか、優しい気持ちだとか、誰かを慈しむ気持ちだとか。
そんなもの以外の大事なことも九兵衛は土方に教えてくれる。
こいつが俺のそばにいてくれて本当によかった。
そう思いながら九兵衛を抱きしめている土方は、屯所にいる隊士たちに自分が九兵衛に向かって愛してると叫び、抱き合ってるムービーがその場にいた沖田総悟によりものすごい速さでまわっていることをまだ知らない。

END

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