銀魂

□万事屋学院高校の転校生
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「柳生先生、ちょっといいですか?」

痔が悪化した服部全蔵の変わりに朝のホームルームを終えた九兵衛が教室を出て行こうとした時、そう言って転校生の伊東鴨太郎が立ち上がった。

「どうした、伊東。」

「すみません、現国の教科書が前の学校のものと違うみたいでした。」
九兵衛は伊東の座ってる席まで歩いていって教科書を確認する。

「あ、本当だ。
すまない、伊東。
表紙がよく似てたから同じだと思ってしまった僕も悪かった。
僕の教科書を貸すから、それを使うといい。
あとで国語準備室に取りに来てくれるか?」

「国語準備室ってどの辺にあるんですか?」

「あーそうか、転校して来たばかりで分からないか。
今日のこのクラスの現国は五時限目か…。
そうしたら昼休みに、教室に迎えに来るからその時に校内も案内するよ。
そのついでに教科書を渡す、それでいいかな?」

九兵衛の言葉にクラス委員の桂小太郎が立ち上がった。

「先生、それならクラス委員の俺が伊東くんを案内します。」

「そうか、そうしたらお願いしていいかな、桂。
伊東、桂が案内してくれるそうだ。
よかったな。」

桂の提案に教室中にホッとしたような空気が流れる。
たとえそれが転校生だったとしても、九兵衛を独占するなど許されないのがこのクラスの暗黙の了解なのだ。

「桂くん、頼むよ。」
伊東もそう言った。

土方はそんな伊東を見ながら、やっぱこいつはいけすかねぇやと心の中でだけ思った。


新学期が始まってすぐだというのに、このクラスに転校生が来た。
それが、伊東鴨太郎だった。

病気の兄の治療のために家族が渡米することになり、一人暮らしをしながらこの学院に通うことになったのだった。

この学院の近くに親戚が住んでおり、親戚の監視が出来るからという理由で、わざわざ転校しなければならなくなったらしい。

どうせ一人暮らしをするなら、今まで住んでいたところでしたかっただろうに、親戚の家に住むわけではないのに監視のために一人暮らしを知らない土地でしなければならない伊東に九兵衛は生徒には平等に接さなければいけないと思いつつ、同情的だった。

自分の家も家庭環境が複雑だったので、どうしても自分と伊東を重ね合わせてしまう。

九兵衛は
「それじゃ、桂、昼休みよろしく。
伊東も、何か困ったことがあったらすぐに相談に来なさい。」
と言うと教室を出て行った。


ホームルームが終わり、廊下には教師たちが職員室に戻るために歩いていた。

「九ちゃん!」
その教師の中にいた坂本辰馬に声をかけられ、九兵衛は振り返った。

「坂本先生、おはようございます。
どうかしましたか?」

「九ちゃんのクラスに転校してきた伊東から入部届けが出されたぜよ。
伊東、前の学校でも剣道部部長を務めてたらしいぜよ。」

九兵衛は坂本と並んで職員室まで歩きながら、伊東の話をしていた。

「一度九ちゃん手合わせしてみて伊東の実力…」

「手合わせは本来の顧問の坂本先生がしてください。」

「九ちゃん、そんな言いかたして冷たいぜよ。」

「冷たくないですよ。
僕が相手じゃ伊東が本気を出せないでしょ。」

「何の話してんの〜?」
その時、銀時が二人の後ろから声をかけてきた。

「金時じゃなかと!」

「あのね、俺、銀時だから!」

銀時は呆れたように坂本に冷たい視線を向ける。

「転校生の伊東が剣道部に入ったんですよ。」
九兵衛が銀時にそう言った。

「あー、あの転校生ね。
あいつ、すごく優秀みたいだね。
編入試験、全教科満点取ったんだって?」

「そうなんです。
でも家庭が色々複雑で。
クラスにすぐに溶け込めればいいんだけど。」

九兵衛の言葉に銀時は顔を顰める。
「九ちゃん、優しいのは九ちゃんのいいとことだけど、深入りはよくないよ。」

銀時の言葉に坂本も珍しくまじめな顔をする。
「そうぜよ。
程度の差はあれ、色々抱えてるのはどの生徒も同じぜよ。
一人ひとりの全てを受け止めてたら、教師はやってられないぜよ。」

「分かってます。」
九兵衛はそうは言いつつも、伊東の事が気になって仕方なかった。

そして銀時は九兵衛が複雑な事情を抱える伊東に自身を重ね合わせてどうしても放っておけないと思っていることに気が付いていた。


昼休み、桂と一緒に国語準備室にきた伊東に九兵衛は自分の教科書を渡した。
自分は準備室に予備で置いてある教科書を使う。

「教科書を売ってる書店は知ってるか?」
九兵衛は伊東に聞く。

「はい、大丈夫です。」

「よかった。
それと、剣道部に入部したんだな。
僕も剣道部の顧問をやらせてもらってる。
よろしく。」

「こちらこそよろしくお願いします。」
九兵衛の笑顔に、伊東もつられて笑顔になる。

「それじゃ、桂も案内ありがとう。」
九兵衛はそういうと二人に飴を渡した。
「他の人には内緒だ。」
そう言って笑った九兵衛の笑顔が可愛くて、二人が顔を少し赤くした時、

「銀さんいる〜?!」
国語準備室のドアが開いてあやめが顔を出した。

「坂田先生ならここにいませんよ。」
九兵衛がそういうと、
「ありがと!」
とあやめは言って、準備室のドアを閉めた。

九兵衛の顔が曇ったことに飴を口に含んでいた桂は気づかなかったけど、 伊東は気が付いていた。
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