銀魂

□仮想家族
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「それで、柳生家の前のその赤ちゃんは置かれていたと。
その置手紙には、九兵衛さん貴方の子なので育ててくださいと書いてあったと、そういうことですね?」
山崎が北大路に渡された置手紙を見ながらいう。
そこには
『あの夜出来た子です。
私は育てていくのに疲れたので貴方が育ててください。
この子は九兵衛さん、貴方の子です。』
と書いてある。
「若が子供など女に生ませることができるわけないですからね。
むしろ若は私と一つになって妊娠し、私の子供を生む…」
泣きながらもキラキラした瞳でいう東城をまるで汚いものでも見るような目で九兵衛が見たので、東城は黙る。
「とにかく、何かあったわけじゃねぇんだな。
てめぇ、紛らわしい通報してくんじゃねぇよ!」
土方が東城を射殺せそうな視線で睨むのは、通報が紛らわしかったからだけではないだろう。
「それで、このガキはどうするんでさァ?」
何事もなかったと知ったとたんに興味を失い、アイマスクをつけて部屋の隅にいた沖田が急にアイマスクを外して九兵衛に近づき、九兵衛の抱いてた赤ちゃんの顔を覗き込む。
赤ちゃんは、九兵衛の腕の中ですやすやと寝ていた。
「男ですかィ、女ですかィ?」
沖田が九兵衛に聞く。
「女の子だ。」
九兵衛が穏やかな笑みを浮かべて赤ちゃんの顔を覗き込む。
「かぁいいですねィ。」
あの沖田でさえ、思わず笑みを浮かべてしまうほど赤ちゃんの寝顔は可愛らしかった。
「……とりあえず、屯所に連れて行って、そこから施設に預けるしかないだろう。」
近藤がそういった途端、九兵衛が悲しげに顔を歪めた。
「連れて行ってしまうのか?」
「いや、だって言い方は悪いけど捨て子だろう?
九ちゃんが女に子供生ませることは出来ないわけだし…。
そうしたらそういう施設で保護しながら親が名乗り出てくるのを待つしかないわけだよ…。」
近藤は九兵衛の悲しげな顔に罪悪感を感じてるらしかった。
「親が名乗り出なかったら柳生家で引き取ってもいい…」
「何言ってんの!
そんなことパパ上許さないよ!!」
いつの間に来たのか、そこには輿矩がいた。
九兵衛と輿矩はにらみ合う。
しかしその睨み合いは
「そうですか、それなら僕は柳生を継ぐわけにいかないですね。
どうぞ、今から再婚するなりなんなりするといいですよ。」
という九兵衛の言葉で輿矩が負けた。
もともと、亡くなった九兵衛の母を愛しすぎて再婚を拒み、九兵衛を男として育てることにした輿矩だから、九兵衛以外の跡取りなどこれからできるわけがないのだった。

とはいえ、すぐに柳生家で引き取るというわけには行かない。
一応、決められた期間は施設で保護し、親が名乗り出るのを待つのが決まりなのだ。
とりあえず、子供を真選組の屯所に連れて行く、そういった近藤に九兵衛は
「それなら僕もこの子の面倒を見るために一緒に行っていいだろうか?」
と聞く。
「そうしてくれるとありがたいけど、そんなに一緒にいたらそのうち別れがたくなっちゃうんじゃないの?」
近藤がそう答えた時、赤ちゃんが目を覚ました。
目が覚めたばかりだというのに、九兵衛を見て笑っている。
そして九兵衛も赤ちゃんに微笑みかける。
その微笑に、土方は見とれてしまった。
いや、見とれていたのは土方だけではなかった。
それほど九兵衛の笑顔は綺麗だった。
しかしいつまでもこうしてるわけにも行かない。
自分を取り戻した近藤が
「とりあえず、赤ちゃんは真選組で預かるよ。」
と九兵衛から赤ちゃんを受け取った。
が、そのとたん、赤ちゃんが大泣きを始めた。
「あー、泣いちまった。
近藤さんをゴリラと勘違いしちまったんじゃねェですかィ?」
総悟がそう言って近藤から赤ちゃんを受け取ってあやしてみるが赤ちゃんはますます激しく泣く。
「やっぱり子供にも総悟がドSだって分かるんだな。
俺に貸せ。」
土方が総悟から赤ちゃんを奪い取るが、土方があやしても赤ちゃんは泣き止まない。
「あんたマヨくせーんで子供もすげぇ不愉快なんでさァ。
それにしても泣き止みやせんねェ。」
「ミルクが欲しいとか、オムツだとかそんなんじゃないですか?」
東城がミルクをつくりに行こうとしたが、九兵衛が土方から赤ちゃんを受け取った途端、赤ちゃんが泣き止んだ。
「………もう、完全に九兵衛さんになついちゃってますね。」
その様子を見た山崎の言葉に、みんな頷くしかなかった。
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