銀魂

□商社・真選組6
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あれから、何度か土方は九兵衛の働いてる店に行っていた。

いい加減、自分の夫の上司が自分を指名して店に来ることをおかしいと思ってもよさそうなものだったが、九兵衛は中二からずっと総悟だけを見ていたせいか、そういうことに疎いらしい。
だから土方の気持ちもまったく気がつかずに、普通に接客をしてくれる。

土方は九兵衛の帰る十時まで店にいて、そのあと一緒にタクシーで帰る。

土方も仕事が忙しいので毎回九兵衛の出勤日にすまいるに行けるわけではないが、行ける時には行くようにしているので九兵衛は
「来る度にタクシーで送ってもらうのは申し訳ないので…。」
と恐縮していた。

でも、土方はあまり物欲がなく、お金はあったらあるだけ使うタイプではないのでかなりの貯金もある。

「俺がしたくてしてるから気にすんな。」
そういうと、九兵衛はすみませんと申し訳なさそうに謝る。

土方にとって、店で過ごす時間はともかく、店が終わったあと九兵衛とタクシーで二人で帰る時間は払う金額以上の価値があるから申し訳なさそうにしてる九兵衛を見たくはない。

でも、土方には彼女に店以外で会うすべはない。
それで外回りにかこつけて恒道館大学近くに行けば、総悟がまた大学に行くと言い出し、店じゃなくても彼女に会えるのではないかと思ったのだった。

その思惑通りになって、土方は少しの罪悪感を感じつつも、嬉しいと思っていた。

総悟の方は土方が一緒なのは気に入らなかったのだろうが、それでも九兵衛と会えるせいか、足早に歩いていた。

その少しを後ろを歩いている土方を総悟が振り返る。

「そういや、九ちゃんの大学の先生と、土方さん大学が同じとか言ってましたよねェ?
あの男、どんなやつだったんですかィ?」

銀時は九兵衛に気がありそうだった。
それを思い出して心配になったのかもしれない、土方はそう思った。

自分だって銀時の気持ちは分かったし、それを不快だとも思ったのだから九兵衛の夫である総悟がそう思っても不思議ではない。

「やる気のなさそうなヤツだったが、物事を見る目は確かなヤツだった。
努力すんのは嫌いそうだったが、成績もよかったから大学院にも進めたわけだしな。」

土方の言葉に総悟は顔を顰めた。

「そういうことじゃなくて、あいつに彼女はいるのかとか、結婚してんのかとそんな話を聞きたいんでさァ。」

「彼女?」
銀時とは個人的な付き合いが深かったわけではないが、土方が知る限り、特に彼女はいなかったと思う。
やつは決してもてなかったわけじゃない。
ゼミでディスカッションする時の姿なんかは普段が普段だけにギャップを感じて女子には人気があった。
本人も女が嫌いとかそういうことはなかった。
ただ、女性に対する気遣いは壊滅的に的外れだった。
だから、すぐに女性を怒らせてしまうタイプだった。

「あんまもてるタイプじゃなかったらからな。
ヤツとは個人的な付き合いがあったわけじゃねぇが、学生時代はいなかったと思う。」

土方がそう答えると総悟は舌打ちをした。

「アイツがもてるわけねぇのは分かってまさァ。
そんなことが聞きたかったんじゃねぇのに使えねェー。」

そんなこと言うなら聞くんじゃねぇェェ!!
土方の額に青筋が浮かび上がるが、総悟は知らん顔をして携帯を取り出した。

「九ちゃん、俺だけど。
今日も外回りで今大学の近くにいるんでさァ。
え?
入っちゃっていいんですかィ?」
「分かりやした、土方の野郎も一緒でさァ。
いや、勝手に着いて来たんでィ、迷惑な野郎でさァ。」

聞こえてくる会話に浮かぶ青筋が増えてきたが、じっと我慢する。

総悟はとてもむかつくガキだが、九兵衛にもうすぐ会えるのだから、我慢だ、我慢。
と、必死で自分に言い聞かせていた。

総悟は電話を切ると、
「今、学食に居るから直接学食に来てくれだそうでさァ。」
と土方に言って、さっきよりもさらに早足で歩き始める。

その速さにあわせて土方も歩いていた。

部下の嫁なのに、自分よりもかなり年下なのに、それでも好きだから会えると思うと嬉しい気持ちが抑えきれなかった。

ただ、それをうまく表に出さないでいられるだけの余裕もある。
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