黒子のバスケ

会いたくて
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一人暮らしにバイト、講義に友達づきあい…大学に入学して慣れないことばかりだけど、それでもさつきは楽しかった。
キセキの世代のみんなや最終的にはとても仲良くなれた相田リコ、火神や高尾なんかの友達と離れるのは寂しかったけど、それを補って余りあるほど、今の生活は充実している。


それでも、たまに思い出す。
黒子テツヤのことを。

思えば、神戸の大学に行くと言った時も黒子は何も言わなかった。
大学に合格して手続きのためにしばらく神戸の親戚の家に泊まりこんだ時も、手続きが終わって戻ってきた時も、みんながお別れ会を開いてくれた時も、黒子は特に何も言わなかった。
だからさつきも、何も言わなかった。

好きだった。
黒子テツヤは間違いなく、さつきの初恋だった。
それは自信を持って言い切れる。
だけど自分の好意をあれだけ流されるということは、黒子はさつきをなんとも思っていないということだろうし、それに彼にはバスケがある。
バスケをやってるテツくんが好きだから。
だから告白はしない、この想いにふたをする気はないけど、自然と風化するのを待とう、さつきはそう決めた。


毎日毎日、赤司や青峰、緑間や黄瀬や紫原、黒子からメールが来る。
それに返信をしながら、さつきは黒子のことを少しづつ穏やかで優しい思い出に変えていくことにした。



4月のサークルの新歓で
「さつきちゃんってことは5月生まれなの?」
と隣に座った学科も講義も同じ女の子に聞かれ、さつきは
「そうだよ、5月4日が誕生日なんだよ。」
と答えていた。

そのせいだろうか、5月1日に彼女から
「4日は空けといてね!
ランチに行こ!」
と誘われ、さつきは嬉しかった。

さつきの誕生日は5月4日だからクラス替後のまだ新しいクラスメートと打ち解ける前で、誕生日を祝ってもらうことがなかった。
仲良くなった頃、
「5月が誕生日だったんだ。
祝ってなくて、ごめんねぇ。」
なんて言われて、みんなでご飯を食べに言ったことはあるけど、おそらくは初めて友達に祝ってもらえる誕生日を、さつきは心から楽しみにしていた。



5月3日にバイトから帰ってきて、入浴を終えた後、雑誌を読みながらだらだらと過ごしていたら0時を過ぎて5月4日になったとたん、携帯が鳴り出した。 
黒子からの誕生日おめでとうメールを筆頭に、キセキの世代のみんな、リコ、火神、高尾、今吉や諏佐や若松や桜井、実渕や笠松や森山、日向や木吉なんかからもお誕生日おめでとうメールが来てさつきは感動した。

今、知ってる人が誰もいない土地に自分がいるということは、みんながいる場所に自分はいないということで。
それでもこうして誕生日を祝ってくれる人がいることが嬉しかった。
だから全員にありがとうと返信して、さつきはベッドに入った。
一人だけれど一人じゃない、そんなあたたかい気持ちでとても幸せだと思った。

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