黒子のバスケ

□そばにいる理由
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青峰大輝と桃井さつきは幼馴染だ。
幼馴染であって、それ以上でも以下でもない。

それでも思春期にでもなれば男女の幼馴染は距離が開きそうなものだけれど、この二人は中学になっても距離が開くことはなかった。
一緒に登校し、一緒に下校する。
同じ部活に所属し、青峰はさつきを『さつき』と呼び捨てにする。
さつきも細やかに青峰の世話を焼く。

だから本人達がただの幼馴染だといっても
『本当は付き合ってるの?』
と聞かれるわけで。
それでも二人の関係は変わる事はなかった。

みんなにいろいろ言われるからと大ちゃんから青峰くんに呼び方を変えても青峰と登下校し、青峰の世話を焼く桃井さつきと、さつきを呼び捨てで呼び、どんなに近くに他のマネージャーがいてもさつきにしか用事を頼まない青峰。

本人たちは幼馴染だって言うけれど、バスケ部内の共通の認識としては、二人は距離が近すぎるから気がついていないだけで、本当は好き同士なんだろうと思われていて。
それを微笑ましいと思っているのは、赤司と緑間と紫原と黄瀬と黒子だけで、もともと顔の造作のいい青峰がバスケ部のエースとして活躍するようになってからは青峰のファンが増え、もともと青峰以外にも気を使う事でバスケ部内では部員に人気のあったさつきが女性らしく成長するにつれ、バスケ部員だけではなく学校中の男子から注目されるようになった。

青峰を好きな女の子とさつきを好きな男の子はバスケ部員や時には本人にしつこく聞いてくる。
『二人は本当に付き合ってないの?』



さつきは今日も、青峰と同じクラスの女子からそう聞かれて
「ただの幼馴染だよ。」
と答えていた。

大体の人はそれでひく。
ただ確認したいだけだから。
だけど今日の女の子はしつこかった。

「本当に?」
「本当だよ。」
「本当?」

こんな不毛なやり取りを繰り返しているのだ。
さすがにさつきもいらっとしていた。

「あのさ、あなた青峰くんが好きなんでしょう?
それならその気持ちを伝えることの方が大事なんじゃない?
ここで私に幼馴染かどうかをしつこく聞いてる間に青峰くんに他の人が告白して、青峰くんがもしそれをOKしたらどうするの?」

目の前にいる子に伝えながら、さつき自身もそうなった時の事を考えてみる。
青峰の彼女に悪いから、もう、休日に青峰を引っ張りまわすのはよさなくちゃ行けないだろう。
そもそも、休日は青峰は彼女と出かけ、自分と出かけてくれなくなるだろう。
試合の時、青峰にお弁当を作るのは自分じゃなくて青峰の彼女になる。

……おかしい。
私が好きなのはテツくんなのに…なんでこんなに胸が痛いの?
でも痛い、 青峰に彼女ができたときのことを考えると胸が痛い。
さつきは胸の辺りに手を当てた。
それでも痛みはなくならなかった。

そして、目の前にいる女の子は顔をぱぁっと輝かせた。
さつきの手を握る。
「ありがとう!
そうだよね、桃井さんの言う通りだよ!」
彼女はさつきの手をぎゅっと握って、さつきに手を振って去っていく。

「……痛い」
さつきは彼女の姿が見えなくなってからもう一度呟いた。
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