黒子のバスケ

Dear マネージャー様!
2ページ/12ページ

その日、キセキの世代と幻のシックスマンを擁する学校の主将がその場に集まったのは、本当に偶然だった。

IHには出場できなかったものの、IH会場には行った誠凛は、他の試合は見ないで帰ろうとしたものの、主将の日向はWCに向けてやはり全ての試合を見たいと思い、一人残る事にした。

秀徳は監督の中谷の指示で主将の大坪がIHの試合は観戦しに来ていた。

全国ベスト8の海常はWCの参考にするために他の試合の観戦をするので残っていた。

翌日に3位決定戦と決勝を控えた陽泉、洛山、桐皇はもちろんホテルに滞在中。

その日の試合を終えたもの、観戦したもの、それぞれがそれぞれのするべきことを終え、帰るべき場所に帰る前に、マジバに寄った。
そこで桐皇の妖怪主将がピンク髪の容姿端麗なマネージャーに泣き付いているのを見つけてしまったのだ。

一番最初にそれに気がついたのはマジチキンのセットを買って座る席を探していた日向順平。
黒子の彼女を自称…というか、黒子の方も実はそれなりに彼女を好きなんじゃないかと誠凛メンバーは思ってる桃井さつきに、桐皇の妖怪主将・今吉翔一が泣き付いているのだ、今吉より年下の彼は、これは見ないことにしない方がいいんじゃないかと思い、固まってしまった。

そこに現れたのは洛山高校のSGで日向と同じ二年生の実渕玲央。
あの筋肉男と一緒に食事をするなんて耐えられないと、一人マジバに来た実渕は一年生主将の征ちゃんが常に動向を気にしている誠凛高校の主将が固まってるのを見つけ、声をかけた。
「誠凛の日向君じゃない?
なにしてるのよ、こんなとこで。」
190センチ近いオネエに話しかけられ、日向は目を見開いてさらに固くなった。
「ちょっとぉ、何固まってるのよ、失礼ねぇ!」
怒る実渕はふっとあるテーブルに目をとめる。

無冠の五将の一人、花宮真の中学時代の先輩で花宮が妖怪サトリと言っている今吉翔一が、征ちゃんと同中で征ちゃんが未だにスィッチが入ると
「なんとかさつきを洛山に転校させる事ができないものか…」
うつろな目になってぶつぶつと呟く桃井さつきに泣き付いているのを見つけてしまい、日向と同じく固まった。

その二人に気がついたのは、コーヒーを買って少し休んでから合宿所に戻ろうと思っていた大坪だった。
「洛山の実渕と誠凛の日向…何してるんだ?」
178センチと188センチの男が二人、マジバで立ち尽くしてる様子はある種異様で大坪は顔を顰め、二人に声をかけた。
「あら、秀徳の大坪さんじゃなーい?
なんか見てはいけないものを見てるのよ、アタシ達。」
いまだに立ち直れない日向に代わり、若干立ち直りつつある実渕が指を刺す。
そこには今吉と向かい合い、その肩に手を乗せて何を必死で言っている、緑間からよく名前と能力を聞かされていた桐皇のマネージャーと、桐皇の主将の今吉がいた。
「何してんだ…?」
大坪は固まりはしないものの、首を傾げていた。

「おい、でかいのが三人固まって何立ち尽くしたんだよ、邪魔だ!」
そこに三人に声をかけてきたのは海常高校主将の笠松幸男。

その後ろから
「なんじゃ?
これはなんの集まりじゃ?」
と顔を出したのは陽泉主将の岡村建一。

「キセキの世代と幻のシックスマンを擁する学校の主将がたまたま集まったな…。」
大坪が呟き、ようやく自分を取り戻した日向が
「そうっすね、あそこに桐皇の主将もいるし…」
と苦笑いをした時、
「お客様方、他のお客様の迷惑になります。
座っていただいてもよろしいですか?」
店長らしき人が5人に話しかけてきた。

「「「「「あっ、すみません!」」」」」

桐皇の謝りきのこよろしく5人全員で謝ったら、その声は思っていた以上に大きく、周りの注目も集めていた。
もちろん、今吉翔一と桃井さつきも5人を見ていた。


それで今吉が5人を呼んでやり、7人は一緒に座る事になった。

「おたくらも苦労してるんとちゃうの?」
座ったものの、何を話していいか頭を悩ませている日向、実渕、大坪、笠松、岡村に今吉が話しかけてきた。
「キセキの世代いうんは癖が強いやろ?」

「桐皇は選手みんな癖が強いだろ?」
お前も含めてな…と言う言葉だけはさすがに言えなかったが、笠松が的確な返答をした。

「へへ…まぁそう思いますよねぇ…個人主義って言えば聞こえはいいですけど、要は我が強いってことですし。
でもみんな根っこはいい人なんですよ、周りが思う程、癖はつよくないですよ〜、だって主将が今吉さんですから。
本当に今吉さんが頑張ってるからうちはまとまっていられるんですよ〜、いつもありがとうございます、はい今吉さん、あ〜ん。」
笠松の言葉にあからさまに落ち込んだ今吉の口元に向って、さつきが自分の手元のポテトを指で摘んで差し出した。

あ〜んだと?!
目を見開く5人の前で今吉は
「桃井はほんとにええ子やな…ワシの癒しや!」
と言いながらさつきの差し出したポテトを咀嚼して、最後にさつきの指先を舐めた。

舐めたっ!!
こいつ舐めたっ!!

5人は驚いていたが、今吉とさつきはいつもの事なのか気にした様子もなくさつきは指先をナプキンで拭う。

「ほんまに桃井がおらんかったら、ワシ、もう主将辞めてるわ…。
青峰をあれだけ上手く扱えるの、桃井だけや…。
桃井、ほんま、桐皇にきてくれてありがとな…」
今吉はそんなさつきの手を自分の両手でギュッと握り締めた。

「桃井ちゃん、あなたなんで桐皇なんか行ったのよぉ…!!」
その時、二人の間に割って入り、今吉の手を払ってさつきの手を握り締めたのは実渕だった。
「どーして洛山にきてくれなかったのよぉ!!
征ちゃん、他校の生徒に試合に出るなとか言っちゃうし、すぐに図が高いぞとかいいながら人を転ばすのよ!
この間理事長にそれやった時は監督が真っ青になって謝ってたわ!
アタシだって胃に穴があきそうよぉぉ!
あとね、目をくりぬいて差し出そうとか、なにかミスをした子には目を差し出せとか言っちゃうのよ、たかが部活のスポーツなのに…!
一年が怖くて物騒だって泣いてるけど、アタシだって泣きたいわよぉ!」
「そうですね、でも赤司くんにとって、たかが部活、されど部活でそれだけ本気だって言う事なんです。
それに赤司くん、自分より年上の中であれでそれなりに気を使ってるんですよ?
なんていうのかな、おうちはお金持ちだから人を使うのが普通になってますけど、たま〜に疲れちゃうんですよ。
それを見せないだけで。
できれば洛山のバスケ部のみなさんと一緒に、赤司くんとおいしい湯豆腐でも食べに行ってみて下さい。
普段からは想像もできないほど、喜んでくれますよ。
大丈夫ですよ、実渕さんなら。」
にっこり笑うさつきに
「あなた本当にいい子ねぇ…!」
実渕は目元を拭った。

「何でお前は陽泉に来なかったんじゃ〜!!」
その間に割って入ったのは陽泉の岡村だ。
「監督を雅子ちんよびじゃし、すぐにやる気ないとか抜かすし、菓子ばっかくっとるし、紫原は扱いにくいんじゃ〜!!」
さつきの手を握って涙を流す岡村。
その手をそっと解き、ハンカチを出すとさつきはその涙を拭いてあげる。
「そうですね、ムッくんは大きな子供なんです。
申し訳ないんですけど、周りが親になったつもりでムッくんに接してあげてください。
お願いします。
その代わり、やる気ないとか言う割りに練習は誰より熱心ですから。
あと、部室と寮の自室の掃除だけは自分でさせて下さいね。
お菓子かすは放っておくとよくないですから。
その時、人がするんじゃなく、自分でさせて下さい。
ねるねるねるねで釣ればやりますから。」
「ううっ…なんでお前が陽泉に一緒に来なかったんじゃ…」
泣いてる岡村を押しのけたのは大坪だった。

「お前んとこはいいだろうが!
うちは緑間だぞ?
高尾にちょいちょい理解超える言動とか言われてるあの緑間を擁してるんだぞ?!
高尾以外にはちょいちょいじゃなくてまったく理解超える言動だけどな!
試合の時、ベンチに狸の信楽焼きとか地球儀とか熊のぬいぐるみとかが置いてあるんだぞ?!
あれ邪魔なんだよ!
わがまま3回まで許すってなんなんだ?!
うちのバスケ部に姫はいねぇはずだぞ?!
宮地がしょっちゅうキレて、轢くとかぶっ殺すとか言うから一年が怖がって、一年の退部率がすごいし!
なんであんた秀徳に来てくれなかったんだ?!
青峰上手く扱えるなら緑間だって上手く扱えるだろ?!」
「分かります、大変ですよね、苦労なさってますよね、大坪さん。
でもですね、ラッキーアイテムのないミドリンは周りにも悪影響を及ぼします。
以前、合宿で二日目にラッキーアイテムが入手できなかった時、合宿所のキッチンが壊れて料理が作れなくなり、お弁当買いに行こうとしたら車が動かず、借りてた体育館のバスケットゴールが急に落下し、空腹とゴール落下にいらつきつつ、とりあえずの空腹を満たそうと、差し入れで頂いたスイカをみんなで食べたら青峰くんと赤司くんとムッくん以外お腹壊しました。
ミドリンを守ることがひいては周囲の人を守る事になります。
ラッキーアイテムには寛大でいて下さい。
あと確かに ちょっと変わってますし、我が道を行くタイプですが、練習は誰よりやるし、努力もしてます。
ボール磨きとか、いつの間にかすませてたりします。
今も、いつの間にかボールが綺麗になってたり、あと倉庫とか部室が整頓されてたりしませんか?
それミドリンがしてるんです。
自分の言動が人を振り回してるの分かった上での感謝の気持ちみたいな感じです。
そういう時に
『綺麗になってる、緑間がやったのか?
ありがとう』
っていうと、しばらくはわがまま自重します。
試してみてください。
大丈夫ですよ、秀徳の皆さんなら。
今まで上手くやってきたんですから。」
にっこりと微笑むさつきに大坪が今吉をすごい勢いで見る。
「今吉、この子を秀徳にくれ!」
「何言うとんの?!
やれるかい、桃井はワシのもんやで?!」

「ワシのって…桃井さん今吉さんと付き合ってんの?」
大坪と今吉の言い合いを聞いていた日向がさつきに聞く。
「まさか!
今吉さんみたいな素敵な人に私なんか釣り合いませんよ!」
君が今吉にもったいないよ!!
言い合いをしている大坪以外、全員が思った。

「うっせーな、こいつら二人。
しばきてぇ、黄瀬みたいに。
なぁ、黄瀬って昔からあんな感じなのか?」
今吉と大坪の言い合いに顔を顰めている笠松は女子が苦手だという事も忘れ、さつきを見つめた。
………胸。
あと顔…こいつ、女子力高くねぇか?
笠松は慌てて顔をそらした。
だけどさつきは気にしていないようだった。
「きーちゃんは明るいけど、実はすごい寂しがりやなんです。
なんでもできちゃうから結構醒めてたところにバスケ部に入って、尊敬する人とか超えられない人に出会えて、それが嬉しくて、あとモデルの黄瀬涼太じゃなくて、黄瀬涼太として接してくれるのも嬉しかったんでしょうね。
それから慕ってる人には必要以上に懐いちゃうんです。
いつも後を付いてくるのでたまに鬱陶しいと思うかもしれないですけど、それだけ海常の皆さんを慕ってるってことなんです。
みなさんのことが大好きなんです、わかってあげてください。」
「あっそ。」
そっぽを向いた笠松の顔がどこか嬉しそうなのが笠松の隣に座る日向には分かり、日向は顔をふっと緩める。

「それにしても、桃井さんはすげぇな。
黒子が集団行動中に消えちゃうの、あれどうにかならないかな?」
「見た目が目立つ人二人に挟ませると見失いにくくなりますよ。
帝光時代は青峰くんときーちゃんがそばにいたから、見失うことはなかったですね。
誠凛さんなら、小金井さんと火神くんがそばにいればいいんじゃないですか?
あと練習なんですけど、最初のうちはきつい練習についていけないと思うんですけど、テツくんは努力で必ず付いていけるようになりますから、それまでは見守ってあげてください。」
「なんで桃井さんは黒子と同じ誠凛に来なかったんだ?」
日向の質問にさつきはただ、笑っただけだった。


その後さつきの携帯に桐皇の監督の原澤から連絡があり、青峰と若松がまたケンカを始めたというので、さつきは今吉に
「今吉さんが落ち着いたならホテルにもどりませんか?」
と手を差し出した。

青峰と緑間、どっちが扱いにくいかを大坪と討論していた今吉はさつきの手を握り
「桃井がワシと手繋いでくれるんやったらホテルに帰るわ。」
と立ち上がる。

「待て、携帯番号とメアド交換しないか?!」
今吉の手を振り払い、大坪がさつきの手を握る。
「いいですよ。」
携帯を取り出したさつきに
「じゃ、アタシもいいかしら?!」
「あ、オレもいいか?」
「あの、ワシもいいじゃろうか?」
「オレも!」
実渕と笠松と岡村と日向も携帯を取り出し、キセキの世代と幻のシックスマンを擁する学校の主将と、元帝光中のマネージャーは携帯の番号とアドレスを交換した。

次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ