黒子のバスケ

君が最初で最後の恋
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今吉は主将としていつも最後まで残っていた。

自主練だったり、さつきと打ち合わせをしていたり、時には自主練をしている部員を部室で勉強しながら待っていたりしていた。

だから若松もそうしている。

今日は、自主練をしていた若松は、体育館に自分しかいなくなったところで深くため息をついた。
今日のシュート練、シュートの確立が悪かった。

青峰の誘いを断ったさつきが部室に残っている。
用事があると言っていたさつきが帰らずに部室に残っていることが気になって、練習に身が入らなかった。

さつきは基本的に、部員の誰かが家に送る。
「桃井さんは女の子ですし、どんな犯罪に巻き込まれるか分かりません。
できるだけ早く帰らせるようにしてください。」
と監督の原澤からも言われている。

だから今吉は、打ち合わせで遅くなった日はわざわざさつきを家まで送って、その後で寮に戻ってきていた。
そして基本、何もない日はさつきのことは早く帰らせる。

なのに今日のさつきは何をしているのかは分からないが、今だに残っている。

今までに一度も若松はさつきを家まで送ったことはないが、今日は初めてさつきを家に送れるんじゃないか、そう考えたらシュートの成功率が著しく落ちた。

オレもまだまだじゃね?
散らばったボールを集めながらため息をついていたら
「自主練、終わりました?」
いきなり声をかけられ、若松は
「うおっ?!」
と大声を上げて仰け反っていた。

いつの間にかさつきが体育館にいて若松のボール拾いを手伝っていた。
「そんなに驚かなくても…別にとって食おうってワケじゃないんですから…。」
さつきは若松の驚きように頬を膨らませて怒っている。

普段は大人びた容貌の桃井さつきだが、そうしていると一気に子供っぽくなる。
そしてそれは青峰にしか見せない表情だと思っていた。
だけど今、さつきは子供っぽい表情で若松を見ながらボール拾いをしている。

「……別に食われるなんて思ってねーよ。
だけどいると思わなかったからな。」
若松は頭をかくとさつきと一緒にボールを拾う。

全部拾って倉庫にボールをしまい、モップがけを終えると若松はさつきに聞いていた。
「こんな遅くまで何してんだ?」
「やだな、若松さん待ってたんですよ。
お誕生日、おめでとうございます。」
「え?」
「今日、4月16日、若松さんのお誕生日ですよ?
もしかして忘れてました?」
「あ…」

頬をかすかに染めて俯いたさつきの言葉に、初めて若松は今日が自分の誕生日だったことを思い出す。
主将になって忙しくてすっかり忘れていた。

さつきは驚いている若松に、体育館の入り口横の跳び箱の上に置いておいた紙袋を差し出した。
「タオルと手作りクッキーです。
クッキーは手作りですけど、誠凛の火神くんと一緒に作って、火神くんがおいしいって言ってくれたから食べても大丈夫です。
あんなにスレてた青峰くんにそれでも練習に出ろって言い続けてくれて、本当にありがとうございました。
若松さんのそういう人ときちんと向かい合ってくれるところ、私はすごく素敵だと思ってます。」

さらに頬を赤くして俯くさつきに、若松も赤くなる。
青峰の名前は聞きたくなかったけど、素敵だって言葉は嬉しい。
若松はクラスでも
「若松君って怖い…」
と女子に言われている方だから、そんな自分を怖がることなく素敵だと言ってくれるのはさつきだけだ。

「ありがとな。
開けていいか?」
「はい。」
赤くなって俯いたままのさつきから紙袋を受けとる若松も赤くなっているが、さつきはそれに気が付いていない。

まず最初にタオルを袋から出した若松はそれを広げて目を丸くする。
桐皇のアウェイユニホームと同じカラーのタオルには白い糸で
『W・KOUSUKE』
と刺繍がしてある。
「これ、桃井が…?」
綺麗に施された刺繍を見て若松はさつきに聞いていた。
さつきはこくんと頷く。

桐皇のアウェイユニホームと同じカラーのタオルを探すだけでも大変だっただろう。
それにわざわざ刺繍まで入れてくれたことが嬉しくて、頬が赤いままのさつきが可愛くて若松は思わずさつきを抱きしめていた。

「きゃっ…」
いきなり抱きしめられて驚くさつきは自分の耳を疑う。
「好きだ。
オレ、桃井が好きだ!」
と若松が言ったからだ。

その言葉にさつきの目が潤む。
才能が開花してからはあの赤司ですら青峰には何も言わなかったというのに、その青峰にあれだけ真剣に練習に出ろといえるのは、若松がバスケに真剣に向き合ってるからだ、さつきはそう思っている。
そういう若松を尊敬してるうちに、目が自然と若松を追うようになって、そしてさつきは自分が若松を意識してるのだと気がついた。

意識してると気が付くとますます目が若松を追ってしまい、そうしてキセキの世代の誰にもない熱血漢な部分とか、今吉にすぐに言いくるめられてやる気になってしまうまっすぐさとか、そういう部分に惹かれ、いつしか黒子より若松の事を考えるようになっていった。

だからプレゼントを用意した。
だけど、メッセージを書き込んだクッキーを見るより先に若松が自分を好きだと言ってくれて、すごく嬉しい。

「私も若松さんが好きです。」

汗で湿った若松のTシャツの背中に腕を回して抱きつきながら、さつきは若松に告げていた。

「マジか?!」
さつきの声が耳に届き、今度は若松が驚いて叫ぶ番だった。

思わずさつきを離し、その顔を覗き込む。
さつきは顔を真っ赤にして、目を潤ませ、若松を見上げていた。
その顔が愛らしくて若松は思わず息をするのを忘れた。

「はい。
私も若松さんのことが好きです。」
さつきは恥ずかしそうに、だけど若松を見上げてしっかりと答えた。

若松は頭が真っ白になった後、さつきを抱き上げていた。

「ちょ…若松さん?!」
驚くさつきを下ろしてまた強く抱きしめ、
「タオルもクッキーもすげぇ嬉しいけど、お前のその好きだって言葉が一番嬉しいプレゼントだ!
オレも桃井が好きだ、すげぇ好きだ!」
と叫んでいた。

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