黒子のバスケ

□ささやかな祈り
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WCが終了し、オレに勝てるのはオレだけじゃなかったから練習したくなって部活にきちんと出るようになった青峰は、今日もきちんと部活に参加していた。

青峰がきちんと部活に出るようになったことと、WCを終え、どこの学校も三年が引退して新体制になったことでさつきは他校に偵察に行く事が増えて、今日も部活には出ていなかった。
通常のマネージャー業務は部員が兼ねれば問題ないが、データの収集と分析はさつきにしかできない。

それで桐皇の部員はさつきの不在に文句はなかったが、新主将の若松と青峰がもめ始めるとなぜ桃井さんがいない時にこんなことになるんだ、と頭を抱えることになる。

今日も、紅白試合の最中にダンクを決めた青峰に
「リングが壊れるからダブルハンドのダンク決めんな!」
と若松が注意した事で二人が言い合いに発展し、桐皇バスケ部の部員は困っていた。

そこに
「すみません。
海常の笠松ですけど、部活中に悪いんですが青峰はいますか?」
と海常高校バスケ部の元・主将の笠松幸男が現れたことで、言い合いは中断される事になった。

笠松がなぜ桐皇に来ているのかという疑問よりも先に、この争いを止めてくれてありがとう、桐皇バスケ部の部員はそう思った。

だから若松が
「はぁ、他校の元主将がなんか用っスか?」
と聞くまで、笠松がここにいることに何の疑問も持たなかった。

疑問を持たなかった部員が唖然としたのは、笠松が
「部活中に申し訳ないんだが、青峰と少し話がしたい。
いいだろうか?」
と言ったからだった。

驚きはしたし、青峰にも笠松が自分と話したいといってる心当たりはないようだったが、自分より年上の笠松がわざわざ桐皇まで来て頼んでいるのだから断るわけに行かない。
若松は
「かまいません。」
と言って青峰を送り出した。


笠松が青峰に
「どこか人のいないところで話がしたい。」
と言ったので青峰は笠松を屋上のペントハウスに連れて行った。

「んで、何の話っすか?
他校のセンパイに呼び出される覚えねぇんだけど?」

練習には出るようになったとはいえ、相変わらず不遜な態度の青峰を笠松は気にした様子もない。

「今日はさつきがいないって言うから、さつきに黙ってここに来た。」

笠松の言葉に驚いたのは青峰の方だった。
何でこいつがさつきを呼び捨てにしてんだよ?!
なんで今日さつきがいねぇことをこいつが知ってんだよ?!

目を見開く青峰を笠松はまっすぐに見据える。
「さつきは自分から言うって言っていたが、やはりオレが話すべきことだと思うから、今日はここに来た。
お前の幼馴染と、今、オレは付き合ってる。」

「は…?」
同級生が慕っている、目の前の先輩の言ったことが信じられず、青峰はひどくマヌケな声を発していた。
何言ってんの、こいつ?

笠松は真面目な顔で立っているから冗談じゃないんだろう。
だけど青峰には冗談にしか聞こえない。

「何言ってんだよ、あんた。
エイプリールフールはまだまだ先だぜ?」

だからそう言ってやったけど、自分の声が震えていたのが青峰自身にもわかった。

「嘘じゃない。
付き合うのはオレが引退してから、そう決めてたけどお互いに気持ちを確認したのはもっと前だ。
それでさつきの幼馴染の青峰には一番にオレが、オレ自身の口でさつきと付き合うことを伝えたかった。
だから今日、オレはここに来た。
さつきを大事する、約束する。
だけどさつきはもう、お前の面倒ばかり見ることが出来るわけじゃないから、それだけは忘れないでくれ。」

笠松は青峰から目をそらさなかった。
力強いまなざし、力強い声、力強い言葉。
笠松は嘘なんか付いてない、青峰にもそれは分かる。

そして
『だけどさつきはもう、お前の面倒ばかり見ることが出来るわけじゃないから』
これが何よりも笠松の言いたいことだということも。

異性の幼馴染なんて、恋人にしてみたら鬱陶しい存在以外の何者でもないだろう。
そんな事、今の今まで考えてみたこともなかったけど。

だって、さつきに恋人ができるなんて思ってもみなかった。
自分に恋人ができることも、さつきに恋人ができることも、考えたこともなかった。
さつきは黒子を好きだと言っていたけど、結局は自分と同じ学校に入学した。
さつきが自分から離れる事はないんだと青峰は思ってた。

才能が開花して、自分には誰もいなくなった。
何一つ…影さえも、青峰には残らなかった。
そう思っていた時期もあったけれど、それは違った。
さつきだけはずっと、ずっと青峰のそばにいてくれた。
だからこれからもそうだと思ってたのに…。

さつきが自分以外の男の隣にいる未来が来るなんて、信じられない。
信じられないけど、笠松が嘘を付いてるとも思えない。
誰もいなくなっても、さつきだけは青峰のそばにいてくれた。

だけどバスケがもう一度楽しくなって、キセキの世代との確執はなくなって、火神というライバルもできた今、なんでよりによってさつきがオレじゃない男と…青峰はただ呆然と笠松を見ていた。
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