黒子のバスケ

諦めましたよ どう諦めた 諦めきれぬと諦めた
1ページ/3ページ

昼休み、昼食をとった後で赤司とさつきと部室で打ち合わせがあるために部室棟に向って歩いていた緑間は
「緑間!」
と声をかけられ、振り返った。
立っていたのはクラスは違うが委員会が同じで挨拶くらいは交わす同級生だった。

「何か用か?
これからバスケ部の打ち合わせがあるから、急いでいるのだが…」
緑間が聞くとその彼は
「ごめん、すぐにすむから。」
と答えた。

「なんなのだよ?」
仕方なく、緑間は彼に聞く。

「あの、桃井さんと青峰って付き合ってんの?」
同級生の言葉に緑間は深いため息をついた。
「知らん。」
オレだって知りたいのだよ、内心でぼやきながら緑間はメガネをかちりとあげた。

「だったら聞いてくれないか?」
冷たく答えたのに、彼にはこたえていないようなので、緑間はさらに冷たい声で
「自分で聞け。」
と即答した。

しかし同級生は緑間に手を合わせた。
「頼むよ、青峰になんか聞けるわけねーじゃん!
だってあいつ、怖いんだもん、桃井さんのことになると。」
「青峰が答えるとは思えんし、桃井に聞けばただの幼馴染だよと答えるだけだ。」

緑間はとっつきにくいと思われているせいかこの彼が始めてだが、青峰とさつきの関係について、バスケ部員に尋ねてくるものは数多い。
そして尋ねられた方も興味があるからか、青峰やさつきににその質問をする。

しかし青峰に聞けば
「うるせーな。」
とか
「関係ねぇだろ。」
など言う返事が帰ってくる。

さつきに聞けば
「青峰くんはただの幼馴染だよ。」
と笑顔で返事が帰ってくる。

何度も見てきた光景だ。
それなのに何度も繰り返される光景。

そして、本当は緑間が一番、二人の関係について知りたい。

最初のうち、緑間はさつきにあまりいい印象を持っていなかった。
自分を変なあだ名で呼ぶし、他校への偵察や、練習試合に出向くたびに男に絡まれて面倒だと思っていた。

だけど、彼女のバスケに対する姿勢は選手と遜色ない。
情報と言う形で自分達と共にコートの外から戦っている。
さつきの情報は無駄なものが一切なく、要点のみを簡潔にまとめている。
だけど副主将の緑間は彼女が要点のみを簡潔にまとめるために膨大なデータを集め、分析している事を知っている。
その努力は尊敬に値するものだ。

それなのにマネージャーの仕事もてきぱきとこなす。
何より試合の時どんなに疲れていても、彼女の声で自分たちは条件反射のように足を前に進める事が出来る。
勝つのが前提の帝光バスケ部ではあるが、それでも勝った時に
「お疲れ様!
おめでとう!」
と彼女に言われれば、とても嬉しい。

最初はあまりいい印象はなかった。
それが尊敬に変わった。

そしてその尊敬が敬愛に変わった。

敬愛…それはテストの時や将棋を指している時に自分を応援してくれる彼女と接しているうちに愛情に変わっていった。

それからだ。
今まで気にはなっていなかった、青峰とさつきの関係が気になって仕方なくなったのは。

だから誰かが青峰やさつきに付き合ってるのかと聞くたびに、耳を済ませてきた。
けれどいつだって、青峰からは明確な答えは聞けず、さつきからは幼馴染だという答えが返ってくる。

幼馴染というのは、自主練の間、ずっと待っていて一緒に帰るものなのだろうか?
『大ちゃん』などと呼ぶものだろうか?
『さつき』と呼び捨てで呼ぶものものだろうか?
飲みかけのペットボトルを取り上げて飲み干すものなのだろうか?
黄瀬から聞いたが、転びそうになったら抱きとめて、落ち着かせるためにその背中を優しく叩くものなのだろうか?

緑間はそう思うものの、さつきはただの幼馴染だというし、青峰は何も答えないし、それならもう桃井の幼馴染と言う言葉を信じるしかないと思っている。

「いや、幼馴染って言ったって、同性ならともかく、異性であんな風に仲いいとは思えないし、緑間から青峰に聞いて…」
同級生がしつこく食い下がってきた時、
「ミドリーン!」
昼休みだから自分達以外に誰もいない廊下に高くて甘い声が響く。

「……桃井」
振り返った緑間はさつきがこっちに向って走ってきてるのを見て顔を顰めた。

「廊下を走るな!」
顔を顰めて注意したのは、同級生がさつきの胸や走ることで捲れ上がるスカートの裾に視線を注いでいるからだ。

「あっ、ごめん。
来るの遅いから迎えに来たよ!」
さつきは早足に切り替えて、緑間のところまで来た。
そして緑間の前にいる同級生に気が付いて
「ミドリンの友達?
お話してたのにごめんなさい。
部活のミーティングがあるから、ミドリン借りていいかな?」
と彼に対して小首をかしげて聞く。

それは意識しての仕草ではなかったのだろうが可愛らしく、同級生は顔を赤くし、
「あ、大丈夫です!
話は終わったんで!」
とさつきに伝えた。

「そう、ありがと。
ミドリン、赤司くんも待ってるから早く行こ?」
さつきがさりげなく緑間の腕を取って引っ張る。

「引っ張るな、桃井。
引っ張らずともちゃんと行くのだよ。」
と言いつつ、その手を振り払わないのはさつきのことが好きだからだ。

だから、同級生の彼が教室に戻るために歩き出したのを確認してさつきに聞いた。

「実は、さっきのやつに桃井と青峰は付き合ってるのかと聞かれたのだが…」
「うーん…幼馴染だよ、ただの。」
さつきはそう答えたので緑間はホッとする。

だけど、しばらくしてさつきは
「でもね、きっとね、ずっと私は大ちゃん…青峰くんと一緒にいる気がするの。
小さい頃から一緒で、もう家族みたいなものだから。
好きとかそういう感情は全然ないのね。
みんなが言うみたいに青峰くんをかっこいいとも思えないし。
だって幼稚園の頃は私より背が低かったことも、私より背が低いのがやだって泣いてたことも、かっこつけて木登りして落っこちて骨折したことも、みんな知ってるんだもん。
それは青峰くんも同じだと思うし。
だけどそれでも、きっとずっと一緒にいるよ、多分。」
と言った。

恋愛じゃない、かっこいいとも思えない、だけどずっと一緒にいる。
もうすでにそんな深い絆で結ばれているというのか…?

それでも緑間は
「もし、青峰やお前に好きな人ができたらどうするのだよ?」
と聞くことは出来た。

「それでも、私に何かあったら大ちゃんは何より私を優先するし、大ちゃんに何かあったら、私は大ちゃんを一番に優先するよ。」
さつきはきっぱりと言いきった。
それを信じて疑っていないようだった。

「さつき。」
その時、そばにいないはずの男の声がした。
緑間とさつきが振り返るとそこには青峰が立っていた。

「英語のノート貸せ。
次の時間、オレ当たるみてーだわ。」
さつきが緑間の腕を話すと制服のポケットに手を入れて、ピンクの兎のキーホルダーが付いたロッカーの鍵を取り出す。

「勝手に開けて出していいよ。
でも鍵、かけ忘れないでね。
あと今日の帰り、なにかおごってね!」
「ああ?!
ったく、めんどくせーな…」
青峰は鍵を受け取り、頭を掻くと緑間をチラッと見て去っていく。

「あんな面倒ばかりかける男でもいいのか?」
「だって、もうあれが当たり前みたいなものだもん。」

にっこりと微笑むさつきがとても綺麗で、緑間は息をするのも忘れ、その顔を見つめていた。

次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ