黒子のバスケ
□この勝利を君に捧ぐ
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高校三年生のIH。
キセキの世代全員がユニフォームに『4』を背負ってのIHだった。
全員の意地と想いがぶつかり合うこのIH。
決勝まで進んだのは洛山と桐皇だった。
一年前に優勝した時のインタビューで青峰が言った言葉は当然、キセキの世代の間でも話題になった。
さつきも散々みんなにからかわれたし、青峰自身にも文句を言った。
「なに、あのインタビュー!
私たち付き合ってもいないのに、なんでいきなり結婚とかの話になるのよ?!」
「は?
じゃ付き合おうぜ。
これでいいな。」
しらっと答える青峰をぶっ飛ばそうとしたら、その手を簡単に押さえつけて青峰は笑った。
「好きとか愛してるとかもうそういうレベルの話じゃねぇんだよ。
オレはお前のいねぇ人生なんか考えらんねぇし、お前の隣にオレ以外の男がいる人生も考えられねぇ。
オレにはさつきが必要なんだよ。」
それは自分も一緒だ、そう思ったら別にあんな公開プロポーズされた事なんかどうでもいい気がした。
だから答えた。
「そっか、それじゃ付き合おっか。」
あれから一年。
青峰の覚悟とさつきとの関係は知っていても、だからといってそのために勝ちは譲れない。
それはキセキの世代全員の気持ちで、誰一人手を抜かなかった。
最後の夏、全員の意気込みはハンパではなかったが、青峰と赤司が勝ち上がっていった。
そして決勝戦、第4Q、残り10秒。
87-88で桐皇のリード。
だが、点差としてはワンショットで逆転される。
そしてボールは洛山ボールで赤司がコートをドリブルで駆け抜けていた。
赤司にマークでついた青峰が赤司のドリブルに足をもつれさせ、転んだ。
だけど青峰はすぐに立ち上がり、シュート体制に入ってる赤司に向かって走っていく。
「ここで負けるわけにいかねぇんだよ!」
「大ちゃん!」
青峰が飛ぶ。
だけど赤司のそれはフェイクだった。
飛んだ青峰を気にせず、再びシュート体制に入って、シュートを放つ。
「だから負けるわけにいかねぇんだよ!
さつきのために!」
会場の誰もが目を見張っていた。
青峰はもう一度飛んで赤司のシュートしたボールをはたき落とした。
赤司が目を見開く。
誰もがルーズボールを追う中でホイッスルが鳴った。
会場から拍手が沸き起こった。
87-88。
桐皇の勝利だった。
桐皇学園のNo.4のユニフォーム姿の青峰のもとにチームメイトが集まる。
さつきは力が抜けてベンチに座り込んだ。
優勝、したんだ。
大ちゃんはNo.4を背負って桐皇を優勝に導いたんだ…。
あの大ちゃんが主将をやって部をまとめ上げて、高校生活最後の年に優勝したんだ。
ぼんやりしたままのさつきの肩を原澤が叩く。
「やりましたね、彼。
去年言った通り、本当に優勝しました。
君に捧げるために頑張ったんですよ。」
原澤は柔らかい笑みを浮かべている。
その顔にさつきは去年のIHでの青峰の言葉を思い出す。
『来年の優勝はさつきただ一人に捧げる。
来年も優勝っすから、そしたら結婚すんぞ、さつき』
顔に血が上っていくのが分かる。
今回はエース兼主将なので真っ先に青峰がインタビューをうけている。
「昨年の宣言どおり、今年も優勝をしました。
おめでとうございます、青峰選手。
昨年のインタビューでの言葉、覚えてる方も多数いると思いますがいかがですか?」
インタビュアーの言葉に青峰が笑った。
「覚えてます。
この優勝はさつきただ一人に捧げます。
お前が居たから今のオレがいる。
だからこれからもそばにいて下さい。
8月31日になったらオレも18才になるから、結婚すんぞ。」
会場から拍手が沸き起こる。
「全然、優勝のインタビューになってないじゃない…!」
怒りながら涙をこぼしたさつきの背中をそっと桜井が押した。
謝りきのこなんて言われていた桜井だけど、三年生になった今、副主将として青峰をサポートし、時に暴走する青峰のストッパーになり、すいませんの回数が劇的に減って逞しくなった桐皇学園bTを背負ってる桜井。
「そうですね、優勝インタビューじゃないです。
だけどうちが優勝する原動力は桃井さんだったんです。
いってらっしゃい、待ってますよ、青峰さん。」
「りょーちゃん…」
「いってらっしゃい。」
笑顔で今度は強く背中を押され、さつきは青峰に向って走り出していた。
それに気がついた青峰が腕を広げる。
「大ちゃんっ!」
その腕の中に飛び込んだら、青峰がギュッと抱きしめてくれる。
「返事は?」
「そんなの、するに決まってるよ!」
満面の笑みを浮かべて、青峰がさつきを抱き上げた。
会場の拍手がさらに大きくなる。
だけどそれでも、青峰の言葉はしっかりとさつきの耳に届いて、さつきは泣きながら笑った。
「この勝利と、これからのオレの人生、全部さつきに捧げる。
だからこれからもよろしくな。」
END