黒子のバスケ

野獣の恋
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WCの初日。

開会式の後、初日の試合を白星で飾った陽泉高校のメンバーは他の試合を見るために観客席に向おうとしていたが、紫原がやたらにキョロキョロしているのに気がついて氷室が足を止めた。

「どうしたんだい、敦?
誰かを探してるのか?」
「うん、さっちんとね、会う約束してるんだけどー。
さっちんが見つからないし。」
紫原はなおもきょろきょろしている。

「さっちん?」
「帝光の時にマネやってたさっちん。」
「何でその子をさがしている…」

言いかけた氷室は目を丸くした。
紫原がいきなり笑顔でその長い手をぶんぶん振ったからだ。

「危ないんじゃ!」
「危ないアル!」
「危ねーよ!!」
その手にぶつかりそうになった岡村と劉と福井が思わず叫ぶが紫原はお構いなしで
「さっちーん!
ここだよ!」
と手を振っている。

「ムッくん!
やっと見つけた!」
自分達の注意もお構いなしな紫原に顔を顰めていた陽泉高校バスケ部のメンバーはいきなり現れたピンク色の髪の毛の美少女に目を見張る。
制服のスカートにパーカーを羽織っていて一見どこの高校かは分からないが、パーカーから見え隠れしているTシャツに『桐皇』とプリントがある。

「さっちん、迷子になったかと思ったし。」
「ちょっと、迷子になんかならないよ!」
呆然としている自分達をよそに二人は話をしている。

「ちょっと待つアル!
この綺麗なお姉さんは誰アル?
お姉さん、本当に綺麗アル。
こんなにピンクが似合う人見たことないアル。」
劉が紫原に聞きながらさつきを褒める。
ちなみに女性を見たら声をかけろと福井に教えられたからだ。

「劉さん、ありがとうございます。
褒めていただいて嬉しいです。」
さつきは劉に微笑んで頭を下げた。

「ワタシのこと知ってるアルか?!」
驚いてる劉にさつきは頷いた。

「知ってますよー、陽泉高校の主将、インサイドに強い岡村さん。
陽泉の攻撃を支える司令塔、PGの福井さん。
留学生でORの得意な劉さん。
綺麗なシュートフォームでプレイのクオリィティの高い氷室さん。
そして元全日本の選手で冷静な分析力が持ち味の監督の荒木さん。
尊敬してるんです、荒木監督!」
さつきは目をキラキラさせて監督の荒木を見ている。

荒木もさつきの言葉に嬉しそうに
「なら陽泉にくればよかったのに。
キセキの世代のマネージャーで相手の成長率まで予測できる桃井、うちにも欲しかった人材だ。」
なんて言っている。

それでメンバーにもさつきの正体がわかった。
噂に聞いたことがある。
キセキの世代のマネージャー。

「その桃井が陽泉に何の用だ?」
荒木の問いかけにさつきが
「あ、そうだ。
ムッくん、これね。
買っておいてたよ、冬季で関東地方限定のお菓子たち。
買いに行ってる時間ないでしょ?
これで我慢してね。」
と大きな紙袋を差し出した。

「ありがとー!
やっぱさっちんはいい子だねー。」
紫原は嬉しそうにそれを受け取る。

さつきから今朝、メールが入っていたのだ。
『冬季限定のこっちのお菓子、買っておいたから今日渡すね。』
と。

さつきはいつもそうだ。
中学の時からずっと、お菓子が足りなくなると魔法みたいに紫原にお菓子をくれた。
だから大好きだ。

嬉しそうにさつきの頭を撫で回したら
「髪がぐちゃぐちゃになるから止めて!」
さつきが頬を膨らます。

だけどすぐにさつきは唖然としてしまった。
陽泉高校の主将の岡村が泣き出したからだ。

「なんでじゃー!
なんであいつでもお菓子がもらえるのにわしはもらえないんじゃー!!
バスケやってるともてるはずなのにー!!」

さつきは唖然としているが、陽泉のメンバーはまた始まったくらいの様子で誰も気にとめてない。

「だから、いつも言ってんだろ?
バスケしててもしてなくても、お前はもてないって!」
福井はぽんと岡村の肩に手を置き、劉は
「アゴリラ、本当にキモいアル。」
と首を振っている。

「あの…あの、これどうぞ。」
さつきはそんな岡村がかわいそうになって、パーカーのポケットに入ってたガムを取り出した。

さっき、緑間にも明日のラッキーアイテムだという他校の校章、つまり桐皇の校章を貸したのだ。
そのお礼にともらったガム。

「え?!」
岡村が涙に濡れた顔を上げる。

「えと、こんなものしか持ってないんですけど、ガムです。
私が好きなチェリーフレーバーで岡村さんのお口に合うかは分からないんですけど…。
よかったらもらってください。
あの、あと、バスケしてるからってもてるわけじゃないと思います。
だけど試合中の岡村さんは、すごく頼りがいがあって素敵だと思います。
きっと、試合中の岡村さんを見てそう思う女の子がいると思うし…だから泣かないで下さい。」

ガムを反射的に受け取った岡村は、次にハンドタオルを差し出されてさつきを見る。
さつきは微かに微笑んでハンドタオルを差し出していた。
その姿に後光が射している気がして見とれてしまった岡村と、岡村を慰めているさつきを陽泉のメンバーは紫原や荒木も含め、呆然と見ている。

なにこれ?
天使がゴリラにハンカチ差し出してるんだけど?

その時、
「さつき何やってんだ、今吉サン探してんぞ。」
色黒な男が現れた。

「峰ちんじゃん。」
「おう、紫原。」
桐皇学園のジャージを着た色黒の男の登場に陽泉メンバーは青峰大輝か…と思う。

「青峰くん!」
「何してんだよ、監督も探してんぞ。」
かったるそうな青峰の様子に
「早く戻らなきゃ!
岡村さん、これ使ってください!
それでは陽泉の皆さん、失礼しました!」
さつきは岡村にハンドタオルを押し付け、陽泉のメンバーに頭を下げると青峰の腕を引っ張って走っていく。

「あれで容赦のないデータバスケをするんだからすごいな。」
荒木の声にみんなが頷くが、福井だけは岡村を見ていた。

(ああ、恋に落ちちゃったくさいよ、このアゴリラ。)

さつきからもらったのタオルとガムを握り締めて微動だにせず、さつきが走っていった方向を見てる岡村に福井はため息をつきたくなった。

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