黒子のバスケ

□愛しい人
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あくびをしたら、さつきがオレの顔を覗き込んで
「また、深夜まで起きてたんでしょう?
堀北マイちゃんの番組見るために。」
と頬を膨らませる。

「あ、あたりめーだろ、マイちゃんのHカップを見るためなら起きてるに決まってるだろ。」
オレはもう一度あくびをする。

「授業サボらないで寝ないで、ちゃんと受けるならいくらでも見ていいけど、そうじゃないからダメなんでしょ、大ちゃんは!
WC前の課題だって、本当は今吉先輩達が大ちゃんの代わりにやってくれたって聞いたよ!
それじゃだめでしょ!」

さつきがぎゃーぎゃーうっせーから、オレはさつきの鼻の頭にでこピンをしてやった。
「うっせーな、ブスが余計ブスになんぞ。」

さつきは目を吊り上げてオレを睨む。
「やっぱ、お前、ブスだわ。」

うそ、ホントは人を睨んでても可愛い女なんか、お前しかいねーよ。
本心は絶対に見せないで笑ったら、さつきはオレに蹴りを入れて一人でさっさと歩いていった。

「いってーな!」
さつきの背中に向って怒鳴りつつ、オレは自分で自分を殴りたくなる。
「なんで綺麗だとかいえねーんだろうな…」
思わず呟いた声は、さつきには絶対に届かない。


WCで誠凛に負けて、練習がしてぇって言ったオレを、さつきは大ちゃんって呼び始めた。
昔に戻った呼び名に、オレはすごく安心して、それと同時にもうさつきに青峰君なんてよばれたくねぇと思った。
さつきにいつもそばにいて欲しいし、さつきのそばにいつもいてぇと思った。

それを黄瀬に言ったら、
「やっと気がついたんスねぇ、青峰っちは桃っちを好きなんスよ。
桃っちも黒子っち好きとか言ってるけど、あれは憧れてるだけで、桃っちが好きなのは青峰っちっス。
じゃないと一緒の学校なんか行かねぇっしょ?」
と言われた。

だから思い切ってさつきに自分の気持ちを告げたら、さつきは驚いていたけど、
「いいから頷けよ、テツよりオレの方がお前を好きなんだから。
お前なんか、テツの好みのタイプじゃねぇんだから。」
と言ったらさつきは涙目で
「大ちゃんのバカ、デリカシーないし、お前なんか好みじゃねぇとか最っ低!」
と怒ってたけど
「大ちゃんみたいな暴君に付き合えるのなんか私だけだから、付き合ってあげる。」
ってなんかすっげぇ上から目線でのOKをもらった。

その時、絶対にさつきを大事にしようと決めたのに、なぜかいつもさつきにブスとか言って怒らせてしまう。
オレはこんなにさつきが好きなのに、さつきも多分オレを好きだと思うのに(じゃなかったらブスとか言われてそれでもオレのそばにいないはず)オレたちは未だにキスもしたことねぇ。
手も繋いだことがねぇ。

オレは遠くなっていくさつきの背中を見ながら素直になれない自分にため息をついた。


さつきとオレはクラスが違う。
放課後にでもなんねぇ限り、オレからさつきに会いに行くことは教科書借りる時くらいで滅多にねぇ。

だけどさつきいわく女子力が高ぇらしい良とさつきは、中学ん時に黄瀬とキャーキャーやってたみてぇに仲良くしてる。

あいつ、幼馴染のオレといっつもいたせいか、女より男との方が気が合うみてぇなんだ。
オレがそれを本当は気にくわねぇことだって、きっとあいつはわかってねぇ。

オレだって、自分がこんなに嫉妬深ぇとか思ってなかったし。

そんなんで、さつきがオレじゃなく、良に会いに来ることはよくある。

三時間目の休み時間、机に突っ伏して寝ていたオレは
「桜井くーん!」
という甘ったるいさつきの声で顔を上げてぎょっとした。

良の
「桃井さん、どうしたんですか、そのお化粧!
すっごく綺麗ですよ!」
って叫びが妙に大きな声で聞こえた。

さつきは朝はすっぴんだったのに、今は化粧をしてる。
目はいつもよりでかくなってるし、唇は赤みを帯びて艶々してる。
白い頬がほんのりピンクになってるし、すっぴんでもそれなりなのに、化粧をした今のさつきはその辺の芸能人でも太刀打ちできないくらいの美人になってる。

おかしいだろ!?
元がいいヤツって化粧映えとかしねぇんじゃねぇのかよ?!
だって黄瀬が、桃っちは元が整ってるから化粧しても意味がなさそうだっていつだったから言ってたのに!
クラスのやつらも、みんなさつきを見てる。

「あのね、いっつもとある人にブスって言われるのがいやだって言ったら、友達がしてくれたんだよ!」
さつきの声が弾んでる。

こいつ、わざわざオレに見せにきたのか。
いつもブスって言ってるオレにあてつけるために化粧なんかして。

「桃井さんは可愛いですよ!
でも、桃井さんがお化粧すると綺麗って感じになるんですね。」
良がさつきをほめる声がうぜぇ。

「ありがと!」
さつきの嬉しそうな声もうぜぇ。

さつきに化粧してやった友達もうぜぇ。
「桃井さんってほんとに綺麗だな。」
「美人って徳だよね。
なににもしなくても、なにかしても綺麗なんだもん。」
うぜぇ、全部うぜぇ。

さつきが美人だとか綺麗だとか、そんなの当たり前でそんなのオレだけが知ってればいいことなんだよ。

「ブスが化粧してもブスはブスなんだよ。
っつか、だからお前は化粧なんかしなくていいんだよ!」
気がついたらオレは立ち上がっていた。

さつきも良も、クラスのやつらもみんな驚いた顔でオレを見てる。

「ブスでもなんでも、そんなお前の全てをオレは愛してやるって言ってんだよ!
化粧なんかしてすましてるさつきじゃなくて、ぶっさいくな顔で泣くさつきも、ぶっさいくな顔で笑うさつきも、ぶっさくな顔であくびしてるさつきも全部愛してっつてんだよ。
どんなブスでも、オレにはさつきしかいねぇんだよ、っつかさつきさえいればいいんだよ!」

「すっごい熱烈な告白ですね、青峰さん。
そんなに桃井さんが好きなら、ブスとか言わなきゃいいじゃないですか。
ああ、さつきが綺麗なのはオレだけが知ってればいいとか、そんな感じですか?」

オレを現実に引き戻したのは良があきれたような顔でオレを見ていたからだ。

「あ…」
気がつくと、クラスメート達がニヤニヤと笑いながらオレを見ている。

今、オレ、なんつった…?
なんかすげぇ恥ずかしい事を口走らなかったか?

唖然としてるオレは急に衝撃を感じて、ほとんど無意識にその衝撃の元である、俺に抱きついてきたさつきを抱きしめた。

「そんなオレ様な大ちゃんのそばにいられるのなんか、私くらいなんだからね!
もっと私に感謝してよね!」

そういうさつきの声は涙声で。
ああ、やっぱりオレはさつきに愛されてると感じる。
そして、さつきを愛してるとも感じる。

「バカ、お前以外の女なんかそばに置く気はねぇよ。」

ダンコたる決意ってのと共に強く抱きしめたさつきは、ブスだけど、オレが世界で一番愛しいと思うただ一人の女なんだから。
 
END

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