黒子のバスケ

溢れるほどの幸せをVer.黒子2
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今日は体育館の定期点検で部活は四時までしかできない。
職員会議などもなく、久しぶりに定時に学校を出た原澤は自宅のあるマンションの前まで来て足を止めてため息をついた。

マンションの敷地内にある来客用の駐車スペースに止まっている車とバイクが目に入ったからだ。
車はキセキの世代の黄瀬涼太のもので、バイクは紫原と自身の教え子でもあった青峰のものだ。

キセキの世代がさつきを特別に想っていることは感じていた。
そして彼らは自分と結婚してからも、さつきに会いに原澤とさつきの新居に遊びに来る。

まだ若い、まして初産のさつきを一人にする時間が長いから、原澤はいつも心配している。
そういう面では、彼らが間を空けずにさつきに会いに来てくれることは、ありがたくもある。
美春を産む時だって、産気づいたさつきのそばにいたのはキセキの世代と呼ばれる彼らで、青峰が学校にさつきが産気づいたから病院に運んだと連絡をくれたのだから。

それにさつきが退院をする時に車を出して家まで送ってくれたのは黄瀬、保育士を目指しているという黒子が、さつきの育児のフォローをしてくれているのも原澤は知っている。
赤司や緑間、紫原も頻繁に家を訪れては美春の面倒を見ているからと言って、さつきに休むように言ってくれるらしい。

感謝すべきなんだろう。
それは分かっているのだけど…分かってるけど、新婚家庭だ。
常に帰りが遅い自分が言うのもなんだか、少しくらいは遠慮してくれてもいいんじゃないだろうか、そう思いながら原澤はエントランスに入ってエレベーターに乗る。

自宅のドアの前に立つとインターフォンを押す。
「はぁい!」
さつきの声がした。
「帰りましたよ。」
そう声をかけるとすぐにドアが開いて、中から笑顔のさつきが顔を出す。

「おかえりなさい、克徳さん。」
さつきはストレッチパンツにシャツとカーディガンを着ている。
学生の頃はもっと飾り気のある若い女の子らしい服を着ていたが、今は美春の世話をするためか、シンプルなデザインの服が多い。
シンプルな格好はそれはそれでさつきの素の綺麗さを引き立てているが、若い女の子らしく着飾るという事をさせてあげられないのだと思うと、同時に申し訳ない気持ちにもなる。

黙ったままの原澤にさつきが訝しげな顔をして
「克徳さん?」
と声をかけた時、
「さつきー、監督帰ってきたのか?」
と廊下に青峰が顔を出した。
「どーも、お邪魔してるっす。」
顔を出した青峰は原澤が玄関にいるのをみて、軽く頭を下げた。

「いらっしゃい。
大学の方はどうですか、青峰君?」
原澤はそう言いながら靴を脱いでさつきに
「美春は?」
と聞いた。

「赤司くんが抱っこしてるよ。
今日は早かったね。」
微笑むさつきの頬にそっと手を添えた時、青峰の咳払いが聞こえ、原澤はハッとする。
いつものくせでさつきにキスしようとしてしまったが、青峰がいたんだった。
慌てて手を離し、青峰とさつきと一緒にリビングに入ると、そこには黄瀬以外に黒子と赤司と緑間もいて、黄瀬が車に乗せてきたんだろうと原澤は思う。

「お邪魔してます。」
原澤に気がついたキセキの世代が次々に原澤に挨拶をする。

いつも君達はここにいますが、大学の方は大丈夫なんですか?
赤司君、君が抱いて頬ずりしているのは僕の娘ですよ?
色々と思うところはあるが、年上なのに余裕がないところを見せるのはいやだから
「いらっしゃい。」
と応えるだけに留めた。

「赤司っち、いい加減にみーちゃん抱っこさせて下さいっス!」
「そうなのだよ赤司、さっきからずっとお前一人で抱いているのだよ。」
「そうですよ、ずるいですよ。」
「オレもみっちん抱っこしたいー。」
「オレにも寄越せ。」
キセキの世代が自分の娘を巡って言い争う声を聞きながら、原澤はため息を堪えた。

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