黒子のバスケ

溢れるほどの幸せをVer.黒子2
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職員室で広げたお弁当は彩りも綺麗で味も日ごとによくなっていく。
マネージャーのさつきが丸ごとレモンの蜂蜜づけを持って来た時は、当時の主将の今吉も、それを見ていた自分も唖然としたものだが、今はそんな過去が嘘のようだ。
本人の努力と、彼女の母の努力に心の底から拍手を送りたい。
原澤は微かに笑みを浮かべて箸を取る。

「原澤先生、おいしそうな愛妻弁当ですねー。
家庭科の授業でフライパンから火を噴かせた桃井が、こんなに上手に弁当に作れるようになるなんて…ちょっと感慨深いなー。」

そう言って話しかけてきたのは、3年生の時のさつきの担任を勤めていた教師だ。
教え子を妊娠させて結婚した原澤には、当初、学校を辞める話も出ていたのだ。

が、きちんとさつきと結婚した事と、さつきの両親が特に文句を言わなかった事、生徒達…とりわけバスケ部のOBからの嘆願署名などがあったこともあり、桐皇で教師を続ける事になったものの、年配の一部の教師からは敬遠されている。
そんな中で、さつきの担任だったにも関わらず、自分とさつきの理解者として色々と動いてくれたこの教師に、原澤は感謝している。

「ええ、義母に感謝ですね。
随分と苦労しながら料理を教えてくれたようですから。」

「幸せそうでなによりです。
長女ちゃんは何ヶ月でしたっけ?」
嬉しそうな原澤にコンビニで買ってきたサンドウィッチを食べながらその教師が聞いた。


さつきは卒業した年の8月に原澤の長女になる美春を産んでいる。
原澤は桐皇にさつきが入学してきたときの事を覚えている。
あの、桜が舞い踊る美しい春のことを。
その子が自分の生涯の伴侶になるとは思ってはいなかったけど、あの美しい春の事は忘れる事ができない。
だから生まれた子に、美春と名づけた。

今、娘は6ヶ月。
可愛い盛りだ。
首が座って、よく笑い、よくしゃべる。
意味もない言葉だけど、美春がしゃべるたびに、原澤は微笑ましい気持ちになって、そして自分との結婚を決めてくれたさつきに対する感謝がこみ上げてくる。

さつきはまだ若い。
大学だって行きたかっただろう。
4年間勉強しながら、自分のしたい仕事について学び、社会にも出てみたかっただろう。
同じ年の女の子たちが楽しげに大学に通い、遊んでいる頃、さつきはつわりで苦しみ、大きなお腹を抱えて一人で家事をしたりして、今は美春と二人きりで家にいる。

バスケの強豪校の監督をしているから、休日もほとんど学校にいるし、家事や育児に協力的な夫とは言いがたい自分を、それでもさつきは家に帰ればおかえりなさいと笑顔で迎えてくれ、温かい食事とお風呂が用意してあって、その日一日の美春の成長を話してくれる。
そんな毎日がすごく幸せで、大切で、原澤は結婚してよかったと本当に思いながら、
「6ヶ月ですよ。」
と答えていた。

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