黒子のバスケ
□坊ちゃまの言う通り!
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青峰家は代々続く名家で、青峰はその青峰家の一人息子だ。
所謂お坊ちゃまである。
両親とも親しみやすい性格であるためか、青峰自身もお坊ちゃまとは程遠い性格をしている。
見た目も192センチの長身と浅黒い肌、柄の悪そうな顔つきで、とても良家のお坊ちゃまには見えない。
どちらかと言うと、青峰家のメイドであるさつきの方が良家の娘に見えるだろう。
さつき…桃井さつきは青峰の幼馴染である。
さつきの父は青峰家の執事長をしていた。
そして青峰の父と親友だった。
青峰の父は自分と同じ年のさつきの父を執事というよりは友人として好いていたそうだ。
そしてさつきの父とは、さつきの父が執事の仕事をしていない時は対等な友人関係を築いていたそうで、さつきの母になる女性と青峰の母がやはり仲がよかった事、青峰とさつきが同じ年に生まれた事もあって、青峰とさつきも幼馴染として育った。
まだ青峰とさつきが幼かったある日、青峰の両親が出かけることになり、さつきの母がさつきをつれて青峰の面倒を見るために青峰家に来た時、青峰は熱を出した。
さつきは青峰家でメイドたちに預けられ、さつきの父が車を運転し、さつきの母が付き添って青峰を病院に運ぶ途中、信号無視をしたトラックが青峰たちの乗ったトラックにつっこんできた。
運転席のさつきの父は即死、さつきの母はチャイルドシートの青峰に覆いかぶさり青峰を庇い、その後は青峰をチャイルドシートから外し、車外まで押し出して救出に来た人に青峰を渡したところで力尽きたそうだ。
青峰の記憶にはない。
青峰が覚えているのは、黒いワンピースをきたさつきが大人しく座っている横で自分の両親が泣きながら葬儀を行ってる姿と、その後、両親から
「さつきちゃんは今日から一緒にここで暮らすから。
大輝、さつきちゃんを守りなさい。」
と言われたことだけだ。
だけど、中学三年生になった時、さつきは自分と両親に言った。
「今までここに置いてくれてありがとうございました。
でもいつまでも甘えていられません。
全寮制の女子高に、特待生待遇で学費も寮費も免除で通うことが決まりました。」
さつきの言葉に両親は驚き、青峰もなんで今更ここを出て行く必要があるんだとさつきに詰め寄った。
両親にとって、さつきは自分の娘のように大事な存在だった。
青峰にとって、さつきはそばにいて当たり前の大事な存在だった。
だけど、さつきはずっと自分達に迷惑をかけていると感じていたらしい。
そしてそれは青峰家に引き取られてからずっと、影で青峰の家にいる使用人たちに嫌味を言われ続けていたからだと知った時、青峰の両親は影でさつきをごく潰しとか厄介者とか罵っていた人たちに
「さつきは自分たちの娘だ。」
と怒鳴ったそうだ。
青峰はさつきがそんな風に言われてずっと心を痛めていた事に気がつく事のなかった自分に、一番頭にきていた。
それなのに使用人たちが認識を改めてもさつきの意思は変わらなかった。
だけど青峰はさつきにずっと自分のそばにいて欲しかった。
だから言ったのだ。
「感謝してるなら、ここから離れるよりもうちに世話になった恩をきっちり返せよ。
お前、オレの世話係になれ。
オレと同じ高校通って、朝はオレ起こして学校に遅刻しないようにして、学校でもオレの代わりにノートとってオレにテストで赤点取らせないようにしろ。」
両親は何て事を言うのかと青峰を怒ったけど、さつきは案外あっさりと
「それもそうだね。」
と納得し、それから青峰家のメイドとして働きながら、青峰と同じ学校に通っている。
朝は青峰を起こしに来て着替えを用意し、朝食を運んできて一緒に登校して、昼休みは弁当を持って青峰の教室にきて一緒に昼食をとり、放課後は一緒に帰って家で勉強を教えて、夕食を運んでくる。
そうやって一緒に過ごしている。
本当はお坊ちゃまとメイドなんかじゃなく対等な関係でいたいのだけど、それをするとさつきは自分から離れていく。
だから青峰はさつきをメイドにするしかなかったのだ。
だけどさつきはけじめだからと青峰を以前は大ちゃんと呼んでいたのに、今は坊ちゃまと呼ぶ。
学校でもそう呼ぶのだ。
男受けのいいだろうあの容姿で青峰を坊ちゃまと呼ぶさつきが、他の人間からどう見えるか、さつき自身は分かってはいないが、青峰は分かっているからイラつく。
今だって、校庭にいる体操着姿のさつきをクラスの男どもが見ているのは分かっていた。
青峰家の坊ちゃまのメイドに表立って手を出すようなバカはいないと思いたいけど、どこにでもバカはいるものだ。
何が起こるかは分からないから、牽制しないといけない。
青峰はそれだけで人を殺せそうな目で校庭のさつきに釘付けになっているクラスメートを睨むが、彼らはそれに気が付いていない。
「やっぱいいよな、青峰家のメイドさん。」
「ああ、胸でけぇ。
あれで高1とか信じらんねぇ。
周りの女がガキにしか見えねぇ。」
話をしているクラスメートは青峰が寝てると思っていたらしいが、青峰が起きていることに気がついているクラスメート達の顔色はどんどん悪くなる。
一人が慌ててクラスメートの話を止めようとした時、外を見たままのクラスメート達の一人が
「なぁ、やっぱりあれかな?
夜のお世話とかもしてくれんのかな、メイドの桃井さん。」
と言い出した。
「坊ちゃまそんなことしてはいけませんとかなんとか言って?
いいなぁ、青峰君。」
下世話な話に青峰の怒髪が天を衝いた。
「おい。」
青峰は立ち上がって声を発した。
その声には抑え切れない怒りが滲んでいて、そんなに大きな声ではなかったのに教室のざわめきが一気に静まり返るほどだった。
「夜のお世話ってなんだよ?
坊ちゃまいけませんってなんだ?
教えてくれよ、なぁ?」
さつきを見ていたクラスメート達は真っ青になって弁解しようとしたが、それより先に青峰は一番近くにいたクラスメートを殴りつけていた。
叫び声が上がったが、青峰は止まらなかった。
騒ぎを聞きつけた教師達が駆けつけて数人がかりで押さえつけるまで青峰は怒りのままにさつきを下世話な話題の対象にしたクラスメートたちを殴り続けていた。