黒子のバスケ
□春宵道中・弐
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「木吉さま、お元気そうでなによりでおざんす。」
夜見世。
久々に登楼した自身の客である木吉鉄平にさつきは笑いかける。
「すまんな、桃花。
久しぶりになっちまった。」
そういっておおらかに笑う木吉にさつきは酌をする。
自分のところに足しげく通うことができるお客は限られている。
自分の花代は高いからだ。
そんな中、木吉鉄平は実家は大きな商家を営んでいるが、本人は奉行所つとめで忙しく、時間だってなかなかないだろうに定期的に通ってくれるお客の一人である。
「お仕事、お忙しいんでありんしょう。
お疲れさまでおざんす。
なんでも例の辻斬りの件のご担当だとかお聞きしたでありんす。」
さつきは木吉に擦り寄り、微笑みかける。
「ああ、知ってたのかー。
そうそう、大井屋の番頭が殺されたあの事件。
あれを担当してるから忙しいんだ。
でも今は、そんなことは忘れて桃花とすごしたい。」
木吉は多くを語らない。
さつきもそれ以上は何も言わず、木吉に寄り添った。
「だめだ。」
しばらくはそうして寄り添っていたけれど、木吉はふいにそういうとさつきを強く抱きしめた。
「今日は桃花の顔だけ見て、癒されようと思ってきたけど、桃花の顔をみるとこらえきれなくなる。」
耳元でささやかれる。
それが何を意味するのか、分からないようでは桐皇屋のお職は勤まらない。
「床に参りましょう。」
さつきが言うが早いか、木吉はさつきを抱き上げ、寝具に横たえた。
「あれ、寝具が変わってねーか。」
横たえたさつきに覆いかぶさって木吉は布団が前回登楼したときと違うことに気が付く。
「ああ、この間、馴染みになったお客様に新調していただいたんでおざんす。」
「…………そうか」
木吉の目が少し険しくなった気がした瞬間、荒々しく着物のあわせを広げられる。
「木吉さま…」
「桃花を身請けしたい。
自分だけのものにできたらどんなにいいだろうといつも思ってる。
でもなかなかできることじゃないからつらいんだ。
このあと桃花はどんな男に抱かれるんだろう。
そう思うと苦しくて仕方ない。」
「よくしてくれる旦那方に借金返してもらうわけにはいかないと思ってるでおざんす。
だから身請けはおざんせん。
それよりも今はわっちのことだけ考えて欲しいでおざんす。」
さつきはにっこりと笑うと木吉の首筋に唇をよせた。
花魁の手管だとは思いつつも、木吉はさつきのその唇の動きに目の前のさつきにおぼれて行った。