黒子のバスケ

これからの未来は君と
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WCで誠凛が優勝したあと、キセキの世代の6人のバスケに対する情熱は、能力が開花する前のものに戻った。
そしてそれから頻繁に、キセキの世代はみんなで集まり、時には今のチームメイトも連れてストバスをするようになった。

さつきも青峰に連れられて、そのストバスに行く。
だからこそ、分かる事がある。

バスケに対するみんなの情熱は能力が開花する前のものになり、絆は再び結ばれたものの、今はそれぞれに別の場所で新しい居場所も見つけている。
もう、帝光の頃には戻れない。
自分だって、帝光の頃と違う、と。

それは分かってはいても、さつきは少しだけ、そのことを寂しいと思う。
帝光時代に才能が開花する前のような時間をもう少しみんなと過ごしたかった。
それがさつきの正直な感想だ。

そして、それぞれの居場所を見つけたみんなをみて、もう一つだけ思うことがある。
『もう大ちゃんもみんなも、私が願ったり祈ったりしなくても大丈夫』
だって、みんなそれぞれの居場所があるもの。
それを嬉しいと思うと同時に、寂しいとも思うのだけれど。



さつきはベンチに座ってストバスをするみんなの姿を見ながら、スポーツドリンクを用意して目を細めた。

バスケをするみんなの姿はまぶしくて、だけどその中に自分が入っていけないのも分かってる。
選手とマネージャー、それは近いようでいて絶対に交わる事のない領域で、そしてあんな風に楽しそうにプレーするみんなの中に自分は入っていけないのだから。

「いいなぁ…」
「なにが?」
ぽつりとこぼれた独り言に返事があって、さつきはびっくりした。

いつのまにか、さつきのとなりに高尾が座っていた。
「桃井ちゃんなんかまぶしそうな顔してたからさ、そんなにまぶしそうにしてるなんて、どんな光景みてんのかなって。
気になってさ。」
高尾はさつきが用意しておいたタオルを手に取り、汗を拭きながら笑った。

本当に楽しそうな高尾の笑顔にさつきは自分の心の中にある寂しいなんていう明るいとはいえない感情を言う事もできず、ただ笑顔を返すことしかできなかった。

だけど高尾が
「寂しい?」
と聞いてきたので、さつきは目を瞬かせた。
「え?」

「そんな顔してるもん、今の桃井ちゃん。
過去はもどってこないもんね。
途中で楽しくなくなった帝光時代は、今みてーにあいつらが仲直りしたところでもどってこねーもん。
だけどさ、オレは桃井ちゃんが羨ましいよ。
だって、桃井ちゃんはあいつらが楽しかった時も、苦しかった時も、あがいてた時もそれが解決してもう一度笑顔になれた時も、その全部に寄り添ってられたじゃん。
そんでさ、それ以上に羨ましいのはあいつらだよな。
こんなかわいい子がずっとそばにいてくれたんだもんな。
…………だから、そんな顔しなくてもいいんだよ。
だって、今のあいつらがあるのは帝光の時のあいつらがいるからで。
そのそばにはずっと、桃井ちゃんがいたんだから。」
今度は高尾がまぶしそうな顔でさつきを見ている。

「なんでそんなこと…わかるの…?
なんで私の思ってたこと、わかったの…?」
だけどさつきは高尾が自分の気持ちをわかったことを不思議に思う。

「オレも同じだから、かなぁ。
オレはさ、今は真ちゃんの相棒だけど、でも今の真ちゃんはキセキの世代の連中といる事もすごく楽しそうにしてるんだよね。
中学ん時は知んないけど、今の真ちゃんの相棒はオレだって言いきれるし。
今の真ちゃんをよく知ってるのもあいつらよりオレだって言いきれる。
だけどまぁ、あんな風な顔した真ちゃんを見たこともないのも事実でさ、それはそれで寂しいなと思ったりするわけ。
だからきっと、桃井ちゃんもオレと同じ気持ちなんじゃないのかなぁって何となく思ったりしてさ。」
高尾はさつきの質問に答えたあと、頭をかいて照れたような顔をしている。

しばらく高尾を見ていたさつきは高尾のこめかみから頬にかけて汗が流れ落ちたのに気が付いて、それを指先でぬぐって笑った。
「分かってくれる人がいるって、ものすごく心強くて嬉しい事なんだね。」

高尾は驚いたように目を見開いている。
恋人でもなんでもない男の汗を指先で拭うなんて…そんなこと普通はしないだろと思ったけど、それ以上にさつきの浮かべた笑顔がキレイすぎて驚いていた。

もともと綺麗な子だとは思っていたけど、高尾の知ってる桃井さつきは綺麗な子だけれどどこか陰のある感じがする子だった。
桐皇のベンチに座ってる彼女は何時だってどこかに陰のある顔をして青峰を見ていたし、キセキの世代の居る学校と対戦した時はその陰が濃くなっているような気がしていた。

だけど、今、さつきの陰のない綺麗な笑顔に高尾は見とれていた。
そして、その笑顔をさせたのが自分だということに驚くと共にキセキの世代の誰よりも先にさつきがこんな笑顔を自分に見せてくれたことに優越感を持つ。

そんな風に色んな感情がこみ上げてきたけれど高尾が言えたのはたった一言だった。
「綺麗だね…」

「え?!」
高尾の言葉にさつきの頬が赤く染まり、恥ずかしそうに俯いた。
「そんなこと、いきなり言われたからびっくりしたけど、すごく嬉しい。
ありがとう、高尾…和くん!」

俯いたままだったから高尾の顔は見てくれなかったけど、それでもさつきのお礼に高尾は目を見開き、そして自分もさつきに負けないくらい真っ赤になりつつも笑った。

「こちらこそ、ありがとう、さっちゃん。
さっちゃんの笑顔見たら、寂しいとか思うことがバカみたいに思えてきた。
だって、真ちゃんがキセキの世代のやつらと仲直りしなかったら、さっちゃんともこんな風に話せなかったし!」

さつきが顔を上げて高尾を見る。
まだ、顔は赤かったけど、それでもさつきは高尾を笑顔で見つめ
「私もそう思う!
そうだよね!
過去に戻る事はないんだもん、何時までもそんな事考えてたって仕方ないよね。
それより、未来のことを考えた方が良いよね!
だって、和くんと出会えて自分のちょっと暗い考えを理解してもらえたことも、みんながそれぞれの出会いを経てまた絆をつなぎなおしたからだもんね。
そう考えたら、未来はもっともっと明るいはずだもん!」
と言った。

ああ、本当にそう思う。

そして、その未来でオレは君の『中学時代の同級生の今の相棒』ではなくて、もっと特別な存在になっていたい。
これからの明るい未来は、君と一緒にすごしたい。
高尾はそんな事を考えながらさつきに笑顔を返した。


そんな未来が来る事を確信しながら。

END


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