黒子のバスケ

灰色の彼
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図書室で受験のための勉強をしていたさつきは、自分の前に誰かが座ったのに気が付いて顔を上げた。
「図書室なんかくるんだね、ショウゴくん?」
目の前に座ったのが意外な人物だったので、さつきは目を丸くした。

「あ?
つかまったんだよ、お前の担任に。
っつかお前、なんでまだ進路調査出してねぇの?
桃井が進路調査出してないから灰崎から言ってくれ、お前同じバスケ部だろうって言われたんだよ、お前の担任に。
それで仕方ねぇから来てやったんだよ。
っつか、オレがバスケ部だったのでっていつのことだよって話だよな。」
灰崎は足を組んでさつきを見てる。

さつきはため息をつくと勉強道具をまとめた。
「ここじゃ話づらいから、他のところに いこうよ。
マジバでもいい?」
さつきの誘いに灰崎は頷き、二人は一緒に学校を後にした。



さつきはチェリーサンデー、灰崎はビックマジのセットを頼み、二人は席に着く。

「二年間、同じバスケ部にいたのにこうして二人きりで話すの初めてじゃない?」
チェリーサンデーの生クリームをすくって口に入れたさつきに灰崎が
「だってお前、いっつも青峰にくっついてたじゃねぇか。」
と答える。

「くっついてって…幼馴染だから行き帰りが一緒だったりしたけどくっついたりはしてないよ。
それに今はもう、行きも帰りも一緒じゃないよ。」

目を伏せたさつきに灰崎もそれ以上は何も言わない。
灰崎が部をやめたあ と、 バスケ部がどうなったかはバスケ部をやめた灰崎の耳にも入っている。

目の前の彼女はマネージャーの仕事に誇りを持ち、帝光の勝利のためにデータを集めていた。
だけどそのデータもいまではほとんど使われていないのだろうと灰崎は推測している。
そんなもの、あそこまで強なったあの連中には不要だ。
だから黒子も切り捨てられたのだろうと思う。

そこまで考えて灰崎は
「で、なんでまだ進路希望出してねぇんだよ?
あんだけ黒子黒子言ってたんだから黒子の行く学校に行けばいいだろ?
あいつ、誠凛に行くみてーだぞ。」
と今日さつきと一番話したかったことを切り出していた。


帰ろうとしたらさつきのクラスの 担任に呼び止められた灰崎は
「桃井がまだ進路希望を出してないんだ。
灰崎、お前桃井と同じバスケ部だっただろ?
バスケ部のよしみでお前から桃井に話してくれないか?」
と言われ、自分は猛バスケ部じゃないと思ったけれど、まぁ面白そうなので了承した。

あの変わったバスケ部で、さつきがどうしているのか気になってないといったらうそになるからだ。
なんで気になってるのか、それは分からないけれども。



「テツくんは放っておいてもバスケやるよ。
だから大丈夫だよ。
赤司くんも、ミドリンもきーちゃんもむっくんも、バスケを続けるよ。
だって赤司くんは勝利は基礎代謝の人だもん、いつだって真剣に取り組 むよ。
ミドリンは人事を尽くす人だか らね。
きーちゃんには目標があるから手を抜いたりはしないよ。
ムッくんは負けるのが嫌いだから、キセキのみんなが別々の高校に行ったら練習きっちりするよ。
だけど青峰くんは…」

さつきは目を伏せた。
ぱっちりとした目元を囲む長いまつげが彼女の頬に影を落とす。

前からかわいいとは思っていたけれど、綺麗だとそんなさつきを見て灰崎はそう思った。
そしてなんで自分はこの子に手を出そうとしなかったのだろうと考える。

胸もでかいし、かわいいし、青峰の幼馴染で青峰のことばっかり考えているから彼女をものにすれば青峰から奪う事にもなる。

なのにそれでも彼女に手を出さなかったのはどうしてか…そんな事を考えながらさつきをじっと見つめていたら、さつきが視線を灰崎に向けた。

「あのね、青峰くんが心配だから桐皇に行こうと思ったの。
だけど、今みたいな無気力な青峰くんを見てるのはもう辛いの。
辛いけど、放っておく事もできないの。
だけど怖いの。
変わらない青峰くんを見続けなきゃいけないのも怖いの。」

「なら、桐皇に行かなきゃいいんじゃね?」

灰崎はさつきのスクールバッグを奪う。
「何するの?!」
驚いてるさつきを相手にせず、灰崎はさつきのスクールバッグから進路希望調査票を見つけ出した。

そのままさつきの筆箱をあけ、ボールペンを取り出すと第一志望の欄に書き込む。
『福田総合』と。

「ちょっと、 これボールペンじゃない?!」
不満そうに声を上げるさつきに灰崎は笑う。

「消せねえからボールペンで書いたんだろ。
背中押して欲しいなら押してやるよ。」

「ショウゴくんってばほんとに…
でもショウゴくんはバスケやるつもりなんだね。
だから私を誘ったんでしょう?」

呆れたような、だけどどこか嬉しそうな笑顔のさつきに灰崎は
「奪われたまんまってのはガラじゃねぇんだ。
リョータに負けてたまっか。」
と答える。

「頑張ってね。
ショウゴくんはショウゴくんのバスケを見失わないで。
応援してるから。」

さつきは灰崎の大きな右手を自分の両手でそっと包みこむ。
灰崎はその手を 左手で握り返した。


その翌日だった。
さつきが進路希望調査票を提出したとさつきの担任に聞いたのは。

「灰崎、助かった。」
と言う担任に
「桃井の第一希望は桐皇だろ?」
と灰崎は聞いた。

「なんで知ってるんだ?!」
驚く担任に
「個人情報こんなカンタンに他の生徒に漏らしてんじゃねぇよ!」
と笑いながら灰崎はそうなるだろうという自分の予想が当たったことに複雑な思いだった。

どこかで福田総合に来て欲しい、そう思ってなかったと言ったらうそになるからだ。

でも、一番さつきらしい進路だとも思う。
「どっちにしろ、お前なら大丈夫だろ。」
灰崎の呟きは誰にも聞こえること はなかった。

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