黒子のバスケ

姫君と騎士 U
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原澤学園高校の寮は教師と2・3年は一人一部屋で自室にテレビもあるが、1年生は二人一部屋を使うことになっている。

そして2・3年の一人部屋はそんなに広くはなく、三人も入ったらいっぱいになってしまう。
だから一週間後の練習試合にそなえてのミーティングを主将の虹村と副主将の花宮と赤司、マネージャーの桜井とさつきは寮の食堂ですることになっていた。

食堂には大画面テレビがある。
そのテレビの前に緑間、青峰、黄瀬、黒子、紫原、高尾、火神、氷室、日向、伊月、若松、木吉のバスケ部一軍の面々が集まっていた。
今日はテレビで心霊特集がやる。
彼らの目当てはそれだった。

彼らだけではなく、宮地、福井、今吉なんかもいる。
「どうせ同じもの見るならここで見た方が電気代がかからない」
と言ったのは宮地で、この心霊番組を見たい生徒も教師もここにいるからさつきはいえなかった。
『心霊番組は怖くて見ることが出来ない』
なんて。


それを黙っていたのが悪かったと思う。
番組が始まってまず、心霊写真の紹介が始まる。
さつきは出来るだけ見ないようにしていたけど、桜井が
「ひっ!」
と言ったので、思わず画面を見て驚く。
女性が数人写ってる写真だったけど、その写真で全ての女性の右足が膝下から消えていた。

「………!」
さつきは恐怖で声も出ない。
なにこれ…!
そう思った時、虹村が桜井に
「集中しろ、そうすれば気になんかならねー。」
と声をかけた。

そうだ、集中すれば怖くない、そう思った時
「なぁ、電気消さへん?
そうしたらもっと雰囲気出ると思わん?」
教師のくせにそんな事を今吉が言い出し、それに青峰と黄瀬が賛成する。

「先生、電気消されたら打ち合わせできないんすけど?」
虹村が呆れたような顔をしているが
「せやったらバスケ部は隅の方で打ち合わせやったらええ。
そこのとこだけ電気つけたるわ。」
と今吉もひかない。

ここに笠松がいれば今吉を怒ったのだろうが、あいにくここには笠松はおらず、宮地と福井は
「生徒優先だろーが。」
とは言ったものの、今吉が
「雰囲気出た方がたのしいやん。」
というとそれ以上の反対はしなかった。

だから仕方なく、打ち合わせ中のバスケ部メンバーは食堂の隅に移動し、そこのあたりの電気だけつけている。
「なんか、怖いね…」
ふっと顔を上げれば食堂の中央に設置されたテレビが見える。
ぼんやりとした浮かび上がるテレビの灯りと、その灯りに顔を照らされている周りにいる人たち。
さつきは恐怖を感じた。

「大丈夫だよ、さつき。」
そんなさつきの気持ちが分かったのか、赤司がさつきに笑いかけ、テーブルの下でそっとさつきの手を握ってくれた。
赤司の手のぬくもりにさつきは気分が落ち着いて、赤司に微笑を返していた。
「ありがとう、征くん。」

その時だった。
「うあぁっ!」
誰かの叫び声が聞こえてさつきはビクッとする。
虹村と花宮と桜井もさすがに驚いたようだし、赤司のさつきの手を握る手にも力がこもった。

「黄瀬ぇ!
うるせぇぞ!」
虹村が怒鳴り声を上げた。

「すんません、主将!
でも今の心霊写真の幽霊がなんだか昔オレに付きまとってたストーカーに似てたんスよ!」
黄瀬は慌てて謝る。

「涼太ちゃん驚きすぎっしょ!」
と笑っていた高尾が今度は火神の
「ひぇっ!」
と言う声に驚くことになる。
「なんだよ、大我ちゃん、こぇぇよその声なにっ?!」

「和成うっせぇよ!
火神もこれくらいでびくつくんじゃねぇよ!」
それに対して青峰が怒った時、
「本当ですよね、青峰君。」
と黒子が言った。
けれど自分のまん前に黒子がいると思わなかったのか、青峰は急に声をかけられて
「うぉっ?!」
と叫ぶ。

「てめえら全員うるせぇ、パイナップル投げんぞ?!」
宮地がキレ、虹村が
「あーもう、本当にうるせぇなぁ…」
と呟く。

と同時に
「黙って見せて欲しいのだよ!」
と緑間が言い
「教師に向かってなんて口の聞き方してんだコラァ!
てめぇ撲殺すんぞ!」
と今度は宮地が緑間にキレた時、
「キャァァァァ!」
絹を引き裂くような悲鳴が聞こえ、全員がそっちを見た。

「あれ、あれっ!」
真っ青になったさつきがカタカタ震えながらテレビを指差す。

全員そっちを見て驚いた。
画面いっぱいに大きくて真っ赤な顔が透けて見えるどこかの学校の集合写真が映し出されていた。
「うぉっ!」
とか
「きもっ!」
とか
「こぇっ!」
とか誰のものとも思えない声が聞こえる中、
『これは遠足の集合写真です。
このあと、このクラスの乗ったバスは事故に合い、全員が帰らぬ人となりました。』
なんてナレーションまで入り、
「もうやだぁ…」
という声がして全員がそっちを見て目を丸くする。
さつきが泣きじゃくっていた。

「おいどうした桃井?!」
「桃井?!」
「さつき?!」
「さつきさんっ?!」
虹村と花宮と赤司と桜井が声を上げ、慌ててさつきのそばに行く。
虹村がさつきの頭をなで、花宮がさつきの背中をなで、赤司と桜井もしゃがみこんでさつきをなだめる。

他のメンバーもみんなさつきの周りに集まってきていた。
それで漸く落ち着いたさつきは小さな声で言っていた。
「本当は私、怖い話とかダメなんです…」

「それなら消してくれって言えばいいのに。
お前のためなら、だれもこんな番組見れなくたっていいって!」
木吉の言葉にみんなが頷く。

「っつーかよ、そもそもわりぃの今吉だよな?
電気消そうとか言い出したしよ。」
そこで福井がぽつりと言う。
「だよな、今吉が悪いよな、だって電気とか消さなかったら桃井も少しはこわくなかったかもしれねぇし!」
それに宮地が同調する。

「だよね、今吉先生が悪いよね。
打ち合わせしてるの分かってて電気消すとかちょっと教師としてあれだよね。
でもさつき、もう大丈夫だよ、テレビは消したからね。
安心していい。」
氷室の言葉にハッとして全員がテレビを見る。
確かにもうテレビは消されていた。

「桃井、これ貼っとくからな、もう大丈夫だ!
怖くねぇぞ!」
いつの間にか、若松もさつきの前に立っている。
手にしてる紙には綺麗とは言いがたい字で
『このテレビで心霊番組見るの禁止!!!』
と書いてある。

「すみません…私が最初に言えばよかったのにぃ…」
みんなの優しさが嬉しくて、さつきは再び泣き出した。

「泣くな、な、今吉にはオレからよく言っとくから!」
「そうだ、桜井、お前いつだったか桃井にさくらんぼのシャーベット作ってやっただろ?!
あれもってこい!」
福井と宮地がさつきをなだめる。

「っつかさ、結局悪いのは今吉先生じゃね?」
日向の言葉に伊月も
「そうだな、今吉先生が悪い。
だからもー(も)い、泣くな。」
日向に同調したあと、微妙な駄洒落を言ったけれど誰もそれには気が付いてくれなかった。

「オレ、『桃井のために』スポーツドリンク買ってくる。
桃井、泣いたらその分水分補給だ!」
木吉が食堂を出て行く。

「おい、誰か冷蔵庫からパイナップル持ってこい!
今吉に投げてやるから泣くな!」
「オレも宮地と一緒に今吉にパイナップル投げてやるから泣くな!」
宮地と福井が妙なタッグを組んでいる。


「も…だいじょ…です…」
さつきは泣きながら、それでも笑顔を作った。
最初は男子校に一人とかやだなぁと思ったけど、今はおじ様の言う通り、ここに転校して来てよかったと思う。

「ここに転校してきて本当によかったぁ…
家族と離れて寂しいけど、みなさんがいなければ寂しく思うひまもないです…」
泣き腫らした目でそれでも笑うさつきに、その場にいた全員が目を見開く。

「「「「「かわいすぎるだろっ?!」」」」」
ほぼ全員がそう叫んだ時
「うるせぇ!!
今何時だと思ってんだ、お前ら!」
寮長の笠松が怒りながら食堂に入ってきて、さつきがないてるのを見て顔を顰めた。

「おい、桃井泣かせたの誰だ?!
今白状すればケリ一発で済ませてやる。」

「「「「「今吉先生です!」」」」」
その場にいた全員が今吉を指差す。

「ななな…確かにそうやけど、泣かす気はなかったんや!」
今吉をみんなが睨んでいるので
「誰が悪いわけでもないです…!」
そんな空気を変えようとさつきは慌てて言う。

「桃井がそういうならいいが…」
この流れを分からない笠松は頷くしかなかったが、それを聞いた今吉が
「お前はほんまにええ子やな、桃井。」
とさつきの頬にキスをした。

「「「「「今吉死ねっっっ!!!」」」」」
その瞬間、大声での合唱が食堂に響き、様々なものが今吉に向かって投げつけられた。

END


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