黒子のバスケ

うそじゃねぇから
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笠松幸男の恋人、桃井さつきはちょっとあざといけれど、そんなところもひっくるめて可愛いと笠松は思っている。


彼女との出会いは、IHの後だったけれども、キセキの世代を支えたマネージャーとして顔と名前くらいは笠松も知っていた。
だけど女子が苦手な笠松にとって、見た目が非常に好みである(Fカップの巨乳だ)桃井さつきは苦手の中でも特に苦手なタイプの女子で、ではなんでお付き合いをするまでになったかと言えば、後輩の黄瀬涼太のお陰だろう。

IHのあとで黄瀬の足を心配して海常に顔を出した桃井さつきと黄瀬がそのままマジバで夕食を食べていくことになって、それに森山が自分もついていくと言い出した。
あわよくば彼女とお近づきになろうと思っていたのだろうが、何の因果か、森山の暴走を止めるためにいやいや付いて行った自分が桃井さつきと交際する事になったのだ。



年は二歳しか違わないけれど笠松にとってさつきは可愛くて仕方ない存在だ。

女の子が苦手なはずの笠松が、最初の出会いからして黄瀬や森山を交えていたから話をする事ができたし、話をする事ができたというのが自信になったのか交際をはじめるまでもスムーズに進んだ。

それでも彼女がバスケ部マネージャーなのは分かってたからWCの後は中々会う時間が取れないだろうと笠松は思っていたけれど、彼女は大学への推薦入学が決まっていて時間のある笠松にできるだけ会いに来てくれた。

そんな彼女への笠松の不満と言えば一つだけだ。
『自分以外の男とも仲がいいこと』

もともと男子バスケ部にいるわけだから男子に囲まれているのは分かっていたけれども、WCでキセキの世代が和解してからは彼女も交えてのキセキの世代での集まりを赤司主催で行う事が多く、デートをキャンセルされた事はないけれどデートがその集まりに変わったことが二回ほどある。
キセキの世代とのストバスはそれなりに楽しいのだけれども、彼女との時間も大切にしたい。

四月になれば自分は大学生、さつきは高校二年生、ますます簡単に会えなくなる。
それに強豪・桐皇学園ともなれば春休みだってほとんど部活でつぶれる。
自分が通っていた海常高校だってそうだった。

そう考えるとさつきは恋人の自分とより、他の男と一緒にいる時間の方が長いんだな。



そう思うとちょっと嫉妬する上に、その日のデートの前に桐皇は練習試合があり、その練習試合で青峰が活躍したらしい。

「大ちゃんもね、すっかりエースの自覚が出てきたみたいなんだよ!」
「最近は練習もちゃんと出るし、若松先輩とのケンカも減ったの。」

本当に嬉しそうに青峰のことを話しながらチェリータルト食べている彼女にちょっと意地悪をしたくなった、それが笠松の本音だった。
それに今日は一年のうちでたったの一日、うそが許される日でもある。
エイプリールフール。
少しくらい、困らせてやってもいいだろう。
そう思った笠松はさつきがアイスティーを飲んで一息ついているところで口を開いていた。

「さつき、悪い、オレ、他に好きな子ができた。」

さつき、と名前を呼んだときはさつきの顔を見たものの、それ以降はさつきの顔を見ずに俯いた。
俯きながら内心でオレでもこんな演技はできるのかなんて自分で自分に感心している笠松。

だから、笠松はさつきの今にも泣き出しそうな表情に気が付かなかった。
笠松が顔を上げたのは、目の前にさつきが立ち上がったからだった。

「分かったわ。
今までありがとう、その人とうまくいくといいね。」
早口で言いながら千円札を笠松の前に置き、すごい勢いでカフェを出て行ったさつきに笠松はぽかんとする。

笠松の予定では、ここでさつきが
「うそ?!」
と言った時に
「うん、うそ。
今日はエイプリールフールだ。」
と言うつもりだったのに、そんな事も言わせてもらえないまま、さつきは自分の前から姿を消した。

そのことに気が付いた笠松は慌てて会計を済ませ、カフェを出たけれどもうさつきの姿はどこにもなかった。
携帯も通じない、メールをしても返信がない。
笠松は途方にくれていた。
途方にくれた笠松が頼れるのは結局一人しかいない。

「はい、黄瀬っす〜。
どうしたんすか、笠松先輩?」
電話の向こうで明るい声を出す黄瀬に笠松は
「さつきを知らねぇか、黄瀬」
と聞いていた。



自宅近くの公園でさつきはブランコをこいでいる。
よく、小さい頃に青峰と一緒にここで遊んでいた。

それにしても、あの頃より大分大きくなったはずなのに今もこのブランコに乗れるんだなぁなんて思っていたさつきは
「さつき。」
と声をかけられて振り返る。
そこには笠松が立っていた。
短く切られた前髪から除くきりっとした眉と意志の強そうな目。

笠松のことが、さつきは好きだった。
黄瀬は笠松に懐いていて、笠松の話をさつきによくしてくれた。
見た通りの男らしい性格に、実は女の子が苦手なんて可愛らしい面もあって、そんなギャップにさつきは惹かれていた。

けど、女の子が苦手だと聞いていたから付き合えるなんて思ってなくて、だから笠松から告白された時は本当に嬉しくて、嬉しくて
「私なんかでいいんですか?」
と聞いたら真っ赤になって
「桃井、じゃ、ないと、だめなんだ…」
なんて答えてくれて、本当に本当に嬉しかった。
嬉しかった。

だからこそ、お別れくらいは笑顔で。
一番綺麗な自分の顔を覚えていてもらいたい。
「よく、ここが分かったね。」
と無理して作った笑顔で聞いたら笠松は頭をかいた。

「黄瀬に電話した。
黄瀬もお前の居場所の心当たりなかったけど、黄瀬が青峰に聞いてくれて、青峰がさつきはなにかあった時は大体家の近所の公園でブランコに乗るって教えてくれたから。」
答えながら笠松は思い出す。
そのことを教えてはもらったけどなんでこうなかったのか、ケンカでもしたのかと黄瀬に聞かれ、エイプリールフールだから他に好きな女ができたとうそを付いた、と答えたら黄瀬には
「ついていいうそと悪いうその区別がつかないんスか?」
と責める様に言われ、なぜか青峰からも電話がかかってきて
「さつき泣かしたらぶっ飛ばすぞ?!」
と先輩に対する敬意のまったくないことを言われた。

黄瀬はそれ以外のキセキの世代にも連絡をしたらしく、その後すぐに黒子からも連絡が来て
「桃井さんを泣かせたら、いくら他校の先輩といえども許す事ができないんですが。」
と言われ、緑間からは
「人事を尽くさんやつは桃井にはふさわしくないのだよ。」
と言われ、紫原からは
「さっちん泣かすとかマジゆるせないし。
捻り潰すよ?」
と言われた。

赤司からも連絡が来た時はキセキの世代ってなんなんだよとも思ったが
「さつきが笠松さんを好きだと言うから僕たちも応援してんです。
それがそんなくだらないことで泣かすんでしたら返してもらえますか?」
と言われてしまった。
「返す訳あるか!」
と答えたら
「だったら何をすべきか分かってるはずです。」
とたきつけられた。

なんだかんだ言いつつも、こいつらはオレとさつきのことを認めてくれてるんだな、そう思ったらちょっとした嫉妬からうそをついてさつきに悲しい思いをさせた自分が愚かに思えてくる。


「どうしたの?
私の所に来るより、その好きな人の所にいってあげたらどう?」
さつきは悲しげな顔をしているのに微笑んでいる。

なんでこいつは、こんなつらそうな顔でそれでもオレを思いやれるんだ?!
こんなさつきに、オレはなんでとんでもない嘘をついたんだ?!

笠松は自分で自分を殴りたいと思いながらさつきに向かって深々と頭を下げた。
「悪いさつき!
今日は4月1日、エイプリールフールだから、うそをついた。
本当は好きな女なんていねぇ!
オレが好きなのはおまえだけだ!」

頭を下げたまま顔を上げられない笠松にさつきが
「うん。
そんな事だろうと思った。」
とあっけらかんと言ったので笠松は驚いて顔を上げる。

あっけらかんと言った割にはさつきの目からは涙がこぼれた。
「おい…」
本当は分かってなかったんだろ、そう思った笠松にさつきが抱きついてきた。

「分かってたから気にしないでいいよ!
謝らないでいいの!」
とは言うものの笠松に抱きついて泣きじゃくってるさつきを笠松は力一杯抱きしめる。

「もう絶対にお前を泣かせないから。
これは、うそじゃねぇから。
お前以外の女を好きになることもねぇから。
これもうそじゃねぇから。」

自分の腕の中で頷くさつきが愛しくて。
笠松はこの幸せが壊れるような事は絶対にするもんかと改めて心に決めた。

END


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