黒子のバスケ

誰でもないたったひとりのあなた
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「若松先輩は大ちゃんと似てますよね〜。」
部室での二人きりの打ち合わせ中。
急に桃井さつきが言った言葉に、若松はピシッと固まる。


若松孝輔がこの世で一番嫌いなもの、それは青峰大輝だ。
横暴で先輩を敬う心ももたず、課題は提出しないし、お陰でやらされるはめになったし、練習はしないし、試合にも遅刻してくるし、人としてどうかとすら思う。
いくらエースは青峰しかいないといっても、桐皇学園新キャプテンではなく、若松孝輔という個人になった時に関わりたくない人間bPだ。
そいつと似てるなんて心外だ。


若松の微妙な表情を感じ取ったのか、さつきは肩をすくめた。
「悪い意味でじゃないですよ?
背が高いところとか、顔がちょっとこわいところとか、あとテストの点数がちょっと危ないところとか…似てるなあって。」

さつきは笑いながら悪い意味じゃないと言うけれど、明らかに悪い意味じゃないか。

「それって悪い意味でしかねーじゃねーか!」
思わず声を上げてしまい、しまった、こわがらせたかと若松は思ったけれど、さつきは気にした様子もない。

「背が高いって褒めてるんですよー?
田岡監督も言ってたじゃないですか、どんな名監督も背を伸ばす事はできないって。」
にっこりと、まるで花が開くような笑みを返される。

その顔に若松はため息をついた。
そんな顔で微笑まれると何も言えない。
もともと、若松はこの可愛らしいのにあざといマネージャーにとても弱い。
惚れてるといっても過言ではないほどには、弱い。

「そうだな、そりゃ長所だな…」

「そうですよ、それにこわい顔しててもなんだかんだで優しいですし、重いものとか持ってくれるし、練習は誰より熱心だし、チームプレーに重点を起きたいって言ってくれたのも嬉しかったし!
若松先輩は大ちゃん似にてると思うけど、でも若松孝輔さんなんですよね。」

さつきは若松の顔を覗き込む。
顔近くねぇか?!

「それにね、顔が怖ければ他の女の子も近寄りがたいだろうから、やきもち焼かなくてすむし。
若松先輩がきーちゃんみたいに女の子にキャーキャー言われたら、悲しいですし。
若松先輩が怖い顔でよかったって思うんですよー。」


ひどいことを言われてるような気がする。
けどそれ以上に嬉しい事を言われてるような、気もする。


「結局なにが言いてぇんだよ?!」
だけど自身のユーモラスな頭ではどれだけ考えても意味が分からず、若松はさつきに聞いていた。


「つまりは、大ちゃんに似てるけど私の好きな若松孝輔さんは誰でもない、たった一人の若松孝輔さんだってことです。」

「まて、そういうのは男が言うべきだろ?!
桃井さつきさんが好きです、付き合って下さい。」

「はい。
鈍感そうだから遠まわしなアプローチじゃ通じないかなと思ったけどそうでもないんですね。」

「お前、どこまでオレをバカにしてんだよ?!」

「バカになんかしてないですって!」
笑ったさつきが若松の唇に自分の唇で軽く触れる。

一瞬おいたあと、若松はさつきを強く抱きしめた。
長い髪から香る甘い香りを吸い込んで、若松は少しだけ、青峰に優しくなれそうな気がした。

END


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