黒子のバスケ

□青峰大輝のひな祭り
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青峰大輝と桃井さつきは、一人っ子同士だ。

そして青峰の母は娘を、さつきの母は息子を欲しがっていた。
だからこそ、青峰大輝と桃井さつきは幼い頃からずっと一緒だった。
桃井さつきの母親は青峰大輝を自分の息子の様に可愛がってくれたし、青峰大輝の母親は桃井さつきを自分の娘の様に可愛がった。
だからひな祭りも端午の節句も二人は一緒に祝った。



あれは、青峰とさつきが小学校一年生だった時のことだ。
雛人形は早く片付けないとお嫁に行くのが遅くなるという迷信を信じているさつきは、3月3日が終わると早く雛人形を片付けたがった。
さつきの母もそれを分かっていて、大体が4日、遅くても6日までには雛人形を片付けてしまう。

だけどその年、3月3日の夜にさつきの父方の祖父が病気で倒れ、病院に運ばれたというのでさつきは両親と共に祖父の家に行く事になった。

祖父の病状は一進一退の状態で、さつきは半月近く学校を休んだ。
祖父が何とか持ちこたえ、容態が落ち着いたのでさつきたちが自宅に戻ってきた時にはもう3月20日で春休みが始まっていた。


その翌日、青峰は母と一緒にさつきが休んでいた間のプリントやノートを持って桃井家に向かった。

インターフォンを押すと、憔悴しきった顔のさつきの母が顔を出した。
「疲れた顔してるけど、大丈夫?」
青峰の母は親友ともいえるほど親しいさつきの母の憔悴ぶりに心配そうな顔になる。

「お義父さんの事は大丈夫なの、ただね…」
さつきの母がため息とともに言葉を吐き出した時、中からさつきの泣き声が聞こえてきた。

「さっちゃんどうしたの?!」
青峰の母が驚いた顔をしている。

「いえね、3日の夜に連絡受けてそのままあちらに行っちゃったでしょう?
だから雛人形をしまってる時間がなかったの。
なかったから出しっぱなしで行っちゃって。
それで帰ってきてから片付けてない事に気が付いて、さつきがこんなに長い間雛人形出しっぱなしだったからもうお嫁にいけない、って泣いてるのよ…。
なだめても何しても泣き止まなくて…」
さつきの母は疲れきった顔をする。

「おばちゃん、お邪魔します!」
青峰はそれを聞いて桃井家に上がる。
背後で母が
「大輝?!」
と言っているが、無視してリビングに入ると、さつきがお雛様の前で泣いていた。

「さつき、なに泣いてんだよ!」
振り返ったさつきの目は真っ赤にはれていた。

青峰は泣いてるさつきの前に座るとさつきの顔を自分の服の袖で拭いてやった。
「大丈夫だ、さつき。
お前はお嫁にいけないなんてことはないぞ、だってオレがさつきをお嫁にしてやるから!
だからお嫁に行きたかったら泣くな!」

さつきは青峰の言葉に目を丸くする。

青峰はさつきに笑いかけた。
「花嫁はなー、笑ってないといけないんだぞ!」

「うんっ!!」
驚いた顔をしてたさつきは青峰に笑いかけた。
それをみて青峰も笑う。

「絶対に、お嫁さんにしてね!」
さつきの小指に青峰は自分の小指を絡ませて
「ああ、約束げんまん!」
と告げたら、さつきは本当に嬉しそうな顔で
「大好きだよ、大ちゃん!」
と言った。
「オレも!
オレもさつきが好きだ!」
微笑みあう二人を、両家の母親が微笑ましそうに見ていた。



あれから毎年、桃井家では雛人形は20日まで出しっぱなしになる。

そしてそれを青峰はさつきと一緒に片付ける。

毎年毎年、そのたびに青峰は思い出す。
『オレがさつきをお嫁にしてやるから!』
と言ったら、さつきが笑ってくれたことを。

バスケがつまらなくなって、練習に出なくなって、そんな時でも青峰はさつきと一緒に雛人形を片付けてきた。
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