黒子のバスケ

ストーカーは誰?
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「桃井を付け狙う奴がいるだと…!」


赤司はそう叫ぶなり近くの壁を思いっきり殴りつけた


その赤司の変貌ぶりを驚きの顔で見守っていたのは、たまたま部室に同席していたキセキの世代だった


しかし誰もが赤司の行動に驚くと共に似たような苦渋の表情を浮かべていた


たった今赤司に報告した青峰でさえ、不快感を露にした顔を隠そうともしていなかった


彼らが皆揃ってこうなっているのは先程放たれた青峰の一言の所為だ


「さつきにストーカーがいる気がする」


こんな言葉一つで6人もの表情を崩してしまうなんてある意味すごいが…しかしそれは彼らが桃井のことを本当に大事に思い溺愛しているからだ


「そ…それって…本当っスか?」


「あ?…おい黄瀬ー、俺を疑うのか」


「違うっス!青峰っちを疑ってるとかじゃなくて…」


黄瀬が自身の耳を疑って再度確認を取ろうとしたところ、青峰は心外だとでもいうように眉をひそめた


「青峰くん…、君を疑ってるわけではないんですが…その話は本当、なんですよね?」


「…テツまで俺を疑うのかよ…」


「皆が疑うのは当たり前なのだよ…。さして証拠もないのだからな」


「でもさー、それが本当だったら、さっちん危ないんじゃないの?」


三人が青峰の言葉を疑う中、口を開いた紫原の一言に、それも確かに…と皆考え込んでしまった


証拠が青峰のカンだけだというのは不確かではあるが…もし実際にストーカーがいて、桃井が被害に合うなんてことがあったら…


そこまで想像すると、後は誰からともなく叫んだ


「「「桃井を守ろう!!」」」


それを皮切りにして、早速何をすれば良いのかと思った五人は赤司の方を見やった


こんな時、赤司の対応が最も良いものであるのが多いからだ


だから赤司以外の五人は、自然と赤司の方に向き直って指示を待っていると…


「…僕たちも桃井の後をつけてみようか。その方が何かあった時に都合が良いだろうし、つけているうちにストーカーが誰であるかも分かるかもしれない」


なんと赤司はとんでもない提案を告げた


そしてその言葉に一同は驚いたが、誰よりも早く反応したのは黄瀬だった


「…えっ!俺たちが桃っちをつけるんスか!?それって俺たちもス…」


赤司の提案に瞬時に反応した黄瀬は意見を述べようとしたが、彼の言葉は不自然なところで切れた


…その理由は今、赤司が無言で黄瀬を睨み付けているからだろう


まるで蛇に睨まれた蛙のように黄瀬は押し黙り、続いて口を開こうとしていた者も口を閉じた


「皆、僕の言うことは?」


「「「…ぜったーい!」」」


するとあの言葉を赤司に言われてしまった一同は、渋々と言った様子だったが返事を返した


声音は微妙なものであったが、ちゃんと返事を返したことに満足したのか…、赤司はにこやかな顔になった


「それでは早速今日の放課後からやろうか」


赤司の言葉に反論する者はもういなかった…


**

そして部活終了後の放課後になった


いつもならそれぞれバラバラに帰り、桃井は青峰と帰っているのだが…桃井のストーカーを捕まえるべく、皆で帰る彼女の後をつけていた


青峰も適当な理由をつけて、桃井の側ではなく一同と一緒にいた


これには赤司が

「ストーカーが万が一出てくるとしたら一人の時だろう。少し危ないかもしれないが…早く捕まえるには青峰が側にいない方が良いからな」


と言ったことが関係している


青峰も少し危ない気はしたが…、ストーカーなんて早く捕まえるに越したことはない、そう思い赤司の考えに乗った


そうして今桃井は一人で帰路を歩いている最中だった


もう少しで家まで半分くらいの距離になったが今のところ変わったことはない…と思っていたのだが、突然桃井が走り出した


「ど、どうしたんスか!?」


「…まさか本当に桃井さんにストーカーが?」


「テツ…、お前まだ疑ってたのかよ」


「そんなことはどうでも良いのだよ!早く追いかけるのだよ!」


「そうだ、緑間の言うとおりだ。ここは急いで後を追うぞ」


「さっちん待ってー」


六人は桃井の行動に慌てふためいたが、すぐに気を取り直すと後を追いかけ始めた


**

「…桃っち…足早いっスね…」


「桃井さん…どこに行っちゃったんでしょうか…」


「さつき…意外と足早かったんだな…」


「さっちんー…、どこ〜?」


「しかし…そう遠くには行ってないはずなのだよ…」


「僕もそう思うよ…。でも一体どこに…?」


六人は桃井を追いかけていたのだが途中で見失ってしまったようだった


息を整えようと、皆肩で息をしながら話していると、六人の後ろから聞き覚えのある声が聞こえた


「…最近着いてきてた人ですよね?もうこんなこと止めてくれませんか!…って、…え!?なんで皆がここに…」


その声の主は六人が探していた桃井本人だった


ストーカーだと思った人が…まさかこの六人だなんて思いもしなかったであろう桃井は、驚愕の表情で彼らを見つめた


「…わりぃ、変に不安にさせちまったな。最近お前の周りに変な奴がいた気したからよ、こいつらに相談したんだ」


「あぁ、そのとおりだよ桃井。僕たちは桃井を守りたくてこんなことをしてしまったんだ。でもそれで怖がらせてしまったならすまない」


そして青峰と赤司が事情を説明すると、桃井はようやく状況を理解したようだった


「ごめんね皆…迷惑かけちゃって…」


「大丈夫ですよ桃井さん。君が無事なら僕たちは良いんですから」


「そうっスよ桃っち!皆、桃っちが心配で自主的にしたことなんスから、気にしないで大丈夫っスよ!ね、緑間っち」


「そこで俺にふるのか…。まぁ…その通りなのだよ。だからお前は何も気にしなくて良いのだよ」


「そうだよー、さっちん。皆さっちんのことが大事なんだよー」


桃井は皆からの優しい言葉に思わず涙を溢してしまいそうになった


「ありがとう…皆…」


そう桃井がお礼を言うと、皆ははにかんだような笑顔を浮かべて桃井を見つめた


しかしそこで桃井はふとあることに気づいた


「ねぇ…、本物のストーカーって誰だったのかな?」


結局分からなかった真犯人は誰なのか、と桃井が問いかけると赤司は不敵な笑みを浮かべた


「そいつなら多分、僕たちが桃井をつけていると知った時に逃げ出したよ。でも大丈夫、もう手配はしてある。…僕の大事な桃井を怖がらせた罰はたっぷり返さないとね…」


「赤司くん…?」


桃井は赤司の言葉に疑問を浮かべるだけだったが、赤司以外の五人は、(それならここまでつけなくても良かったんじゃないのか…)と思った


「まぁ、そんな奴は過去の話だ。それにここまで来たんだから、今日はきちんと家まで送らせてもらうよ」


そう言い放った赤司は桃井の腕を掴むと歩き出した


「赤司くん!?」


「赤司っち〜、置いていかないでほしいっス!」


「僕たちも着いていきます」


「俺もせっかくだから着いていくのだよ」


「俺はさつきと家がちけぇからな、このまま一緒に帰ってやるが…。おい赤司、てめぇさつきの腕を離せよ!」


「わ〜い、皆で帰るのって楽しいねー」


帰る方向はバラバラなはずの六人が桃井のためにここまでしてくれたことに、桃井は心から感謝しながら、楽しい家路を帰っていったのだった…


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