黒子のバスケ

□無自覚バカップルの未来
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オレが行きたかったのは桐皇の最寄り駅から二駅の所にあるショッピングセンターだった。
サッカー部に所属するオレは、今日はスパイクを買いに行くために外出許可をもらったわけで、当然、ショッピングセンターに着いたオレは真っ先にスポーツショップに向かう。

最近はキセキの世代と言われる、青峰大輝を含む高校バスケ界のルーキーで期待の星がいるせいかバスケがブームになってきて、それでなくてもファッション性が高かったりしてはくやつが多いせいか、バッシュコーナーは店を入ってすぐの所にあった。
そして、そこに桐皇学園の有名人『バスケ部の暴君・青峰』と『ミス桐皇・桃井さつき』の姿をオレは見つけてしまった。

二人は制服姿のまま、しゃがみこんでバッシュを見ている。
「大ちゃん、これはどう?」
「ああ…」
ミス桐皇であり、 青峰の幼馴染でもある桃井さつきちゃんは、青峰に一つのバッシュを差し出した。

「確かにラインの色は気に入らないかもしれないけど、これ、今の大ちゃんの足にぴったりなはずだよ。
試着してみてよ。」
「っせーな。」

え?!
なんであの『ああ…』だけで彼女は青峰がバッシュのラインの色が気に入らないことが分かるんだ?
オレは驚いて、そしてその理由を知りたくて、二人をこっそりと観察することにした。


青峰は渋々と言う感じで今はいてる革靴を脱いで、バッシュに足を通す。

「お?!」
履いてみて、青峰は初めて顔を輝かせた。
「ね、フィット感がすごくいいでしょう?」
さつきちゃんは青峰に笑いかける。


やばい、オレは今、地上に女神が降臨した現場に遭遇した。
可愛いじゃねーかっ!
何あの子?
なんであんな巨乳美人があんな目つきの悪い男と幼馴染なんだよ!!
理不尽だ!!!
世の中の大体の男がおそらくは思うだろうことを、オレは心の中で叫んでいた。


「さつき!」
青峰はそんなオレの気持ちも知らず、彼女の名前を呼ぶ。
彼女は黙ってスマホを取り出して何か操作をして、それと財布を青峰に渡した。

「もう今月、そのクーポンはこれで使えないんだからね?
紐とインソールも買っておいたほうがいいよ?
はい、これがこのバッシュの取替え用のインソール。」
さつきちゃんは青峰にバッシュの取替え用の紐とインソールまで渡している。
「おう。」
それに対して青峰は当たり前の様に受け取っている。

ありがとうは?!
オレは心の中で叫んでいた。
ただの幼馴染なのにそこまでしてくる彼女にそこはありがとうと言うべきだろ?!

だけど青峰はそれだけ言ってすべてを受け取った。
そして
「じゃ、金払ってくるわ。」
といってレジに向かっていく。

「私、ここにいるから。」
振り返りもせずに歩いていく青峰の背中を彼女は見送る。

そして、立ち上がると伸びをした。
ずっとしゃがんでいて体が痛かったのか、伸びをした後の彼女はすっきりした顔をしている。
しゃがんでた時は分からなかったけど、胸でかいよな。
高1とは思えないよな…。

オレがそう思った時
「ねぇ、君。
可愛いね、お金は出してあげるから遊びに行こうよ!」
彼女に声をかけてきた男がいた。
二人組のスーツ姿の男で、社会人っぽかったけど、なんで日曜日の午後にスーツ姿の社会人が歩いているんだろうとオレは思う。
休日出勤とかかな?

さつきちゃんは
「いえ、友達ときてるので。」
と断るけど
「いいじゃん、行こうよ!
君みたいに可愛い子と出会えたらとりあえず仲良くなりたいと思うでしょ、男なら。」
とか、男としてはよく理解できるけど隠しておかなきゃいけないほうの本音を簡単に口にする。

「いえ、ですから友達ときてるんです…」
と断るさつきちゃんを二人ではさみ、それぞれが彼女の腕を取った。
「いいから行こうよ!」
「いやです…離して!」

これはまずいんじゃないだろうか、そう思ったオレは助けにいこうとそっちに向かって歩きだしてすぐに足を止めた。

「おい、その汚ねー手をさつきから離せ。」
ものすごい低くて不機嫌そうな声がして、オレは恐怖を感じた。
男たちの前に、ものすごく凶悪そうな顔の青峰が立っていたからだ。

男たちも顔が強張ったが、オレと違ってそれは一瞬だけだった。
目の前にいるのが身長は自分達より高いけれど、高校生だと分かったからだろう。

「なんだ、子供は家に帰んな。」
笑った一人の男の腕を青峰は掴んだ。
「なんだ、ガキ…」
いいかけた男の顔はみるみるうちに青くなる。
青峰が男の腕を掴む力の強さは見てるだけで分かった。

「あと一度しか言わねぇぞ。
さつきからその汚ねぇ手を離せ。」
青峰の顔は高校一年生のする顔じゃなかった。

「大ちゃん、もういいでしょ!
やめてあげて!」
さつきちゃんがそう言ったことでようやく青峰は男の腕を離し、その迫力におされたのか、男達はそそくさとその場から逃げ出した。

「てめー、いつもいつも簡単に男に声かけられてんじゃねぇよ。」
青峰は去っていった男たちをにらみつけるとさつきちゃんの額を小突いた。

さつきちゃんは額を押さえ、笑っている。
「痛いよ、大ちゃん。
へへへ、でも心配してくれてありがとう。」

「心配なんかしてねぇよ、このブス!」
青峰はそういうものの、さつきちゃんの手をしっかりと握り締める。

「帰るぞ、ブス。」
「私にブス何ていうの、大ちゃんしかいないんだからね。
だから私、ブスじゃないもん。」

そういいながらさつきちゃんは青峰に手を握られたままでスポーツショップから出て行った。

「おなかすいた、なんかおごってよね。」
「太るぞ。」
「余計なお世話。」
甘さなんか一切ない会話だけど、二人が醸し出す空気は甘い。

………幼馴染とか、嘘だろ?
あれ、付き合ってるだろ?
じゃなきゃあんな空気感が出るわけないし!



そう思ったオレは寮に帰るなり、今吉の部屋を訪ね、二人のことを聞いてみた。

「付き合うてると思うやろ、あの二人。
けどなぁ、あれで付き合うてないと言いはるんやあの二人は。
ええ加減にせえって心から思うやろ、あの二人見とると。
もう、ワシも疲れたんや。
あの無自覚バカップル見とんの。」

それに対しての今吉の答えに、オレはなんで今吉が疲れた顔をしていたのか分かった気がした。

そしてこうも思った。
オレは今吉ほどにあの二人と接しているわけじゃないけれど、あの二人はきっと、付き合わないまま結婚するに違いないと。


オレのその予感は二年後に的中し、今吉から二人の結婚式の写真がオレの携帯に送られて来る事になる。

END
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