黒子のバスケ

何よりも君だけを
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彼女をスカウトした冬が終わって、春が過ぎ、夏のIH予選で、激震が走った。
大方の予想をはるかに大きく裏切り、霧先第一がIH予選を制したからだ。

さつきは全力でキセキの世代の関東組と当たった。
キセキの世代bPシューター、緑間真太郎を擁する秀徳とあたった時は緑間のオールコートで打てるシュートと、その弱点を事前に予測し、そのお陰で勝てた。

幻のシックスマンとその新しい光を擁する誠凛とあたった時は、黒子対策と火神の左手のボールハンドリングの拙さを事前に予測し、勝つ事ができた。

そしてキセキの世代のエースを擁する桐皇学園にも勝った。
幼い頃から青峰と一緒にいたさつきにとって、誰より予測と対策をしやすいのが青峰大輝だった。


花宮の二つ名が『悪童』から『神童』になったのは、この予選でラフプレーは一切行わず、頭脳プレーで完勝したからだと思う。

そしてもう一つ、花宮の中で変わったことがあった。
『どんな天才も壊れたら確かにガラクタです。
だけど天才になるために重ねた努力は誰だって本物なんです。
その努力を他人が簡単にガラクタに変えるのは違うと思います。』
とまっすぐなまなざしで言い、真剣な顔でデータ収集や分析に取り組み、笑顔で自分達をねぎらい、いつでも花宮のそばで花宮の要求するさらに精度を高めたデータをその要求以上のクオリティで花宮に差し出そうとする桃井さつきを、いつの間にか、本当にいつの間にかマネージャー以上の感情で見るようになっていた。

花宮にとって、勝利とは自分のためのものだったはずなのに。
いつの間にか、さつきに笑って欲しいから勝つに変わっていた。

だから、IHの開会式の後、花宮はさつきに言った。
「霧崎がこのIHで優勝したら、お前はオレがもらう。」

「別に優勝しなくたっていいですよ。
だって花宮さん、私をここまで連れてきてくれたじゃないですか。
ミドリンとテツくんと大ちゃんに勝って、ここまで私を連れてきてくれたじゃないですか。
それだけで、いいんです。
だから、優勝したら何ていわないで。
今、私をもらってもらうわけに行きませんか?
ずっと、ずっと勝ちたかった。
みんなに、どんなに才能があってもあきらめないで、だってそれでも負けるときは負けるんだよ、だから努力してって伝えたかった。
その願いを叶えてくれたのはあなたなんです、花宮さん。」

それに対するさつきの返事は花宮が驚くようなもので…だけど花宮はその言葉に自然と笑顔を浮かべていた。

『悪童』と呼ばれていた男の、屈託のない笑顔にさつきは目を瞠ったけれど、次の瞬間には強く抱きしめられていた。
制汗剤の香りだろうか、ふんわりと花宮からミントのような清涼な香りがする。
さつきはその香りに涙が出るほど安心して、花宮の胸に顔を埋めた。


そんなプロセスを経て、花宮はさつきと一応、部公認の恋人になったはずだったのに…。

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