黒子のバスケ

最後の恋に落ちていく
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一週間前にCDショップでアイドルグループの握手会があり、推しメンのみゆみゆも来ると言うのでそのCDショップに行った宮地は、その帰りにピンクの髪をした、スタイルも抜群にいい可愛い女の子と出会った。

どこかで見かけた子なので、多分、みゆみゆの所属しているグループの研修生かなんかだろうと宮地は思ったけれど、その後調べてみたらあの子はグループにはいなかった。
大坪にも聞いてみたけどそんなアイドルは知らないと言われ、宮地はせめて名前くらい聞いておけばよかったと後悔している。

そんな後悔を抱えたまま過ごしていた宮地は、授業を終えて部室に向かっていた。
彼女の名前を聞かなかったことは後悔しているけれど、バスケにそれを持ち込むことはない。
練習は練習だ。

部室に向かっていた宮地はパイナップルを投げつけたい後輩bPの緑間真太郎が部室の前で携帯で話をしていてまだ着替えもしていないことに気が付いて顔を顰めた。

宮地は自分にも人にも厳しい。
だから部活に真剣に取り組まないヤツは許せない。
宮地には全然気が付いていない緑間に
「おい…」
と声をかけたが、緑間はそれを上回る声で
「校内で迷子になっただと?!
どこにいるのだよ?!」
と叫んだので目を見開く。

「バカめ、なぜ正門に着いた時に連絡しないのだよ!
とにかくそこを動くな、絶対にだ、すぐに迎えに行くのだよ!」
誰と話しているのか、緑間は焦ったような顔で電話を切る。

「何してんだ、てめーは!
もう練習始まるだろ?!」
今にも走り出しそうだな緑間に宮地は怒っていた。

が、緑間は宮地に気が付くと
「中谷監督の所に、桐皇のマネージャーが練習試合の件で桐皇の原澤監督の使いで来ることになっていたんですが、校内で迷ったそうです。
やつはオレの中学時代の同級生でもあるんですが、とにかく厄介な女なので、一緒に来てもらっていいですか?
柄の悪い宮地さんの力が必要になるかもしれないので。」
とお願いとは思えないような口調で、しかもさりげなく『柄の悪い』という悪口を織り込んで話しかけてきた。

宮地はむっとしたが、監督のところに桐皇の監督の使いできたというのなら仕方ない。
宮地は深いため息を付いて自分よりはるかに背が高い緑間の肩をこぶしで軽く殴り
「柄の悪いって先輩に向かってなめてんのか、轢くぞ!」
と文句を言いつつ
「厄介ってなんだ?」
と同行してやることにした。

「第二音楽室の前にいるらしいです。」
緑間は宮地に殴られた肩をさすりながら宮地の隣に並ぶ。
「厄介と言うのはとにかく目立つという意味です。
目立つので、本人の意思にはかかわらずに絡まれる事が多いので…。」

「あー、ナンパとかそういうことか。
秀徳にもそういうのするやつがいないわけじゃねぇもんな。」
言いながら宮地はふっと思う。
そういや、キセキの世代のマネージャーって髪色がピンクっぽかったような…。
でも顔が思い出せない。

中学時代に一度帝光と対戦した時に、ピンクの髪の女がいると思った記憶はあるが、その程度だ。
同一人物だったりしたら面白いけどな、そのマネと一週間前の彼女が。
けど、ありえないか。
宮地が自嘲的な笑みを顔に浮かべた時、第二音楽室の前に人だかりができているのが見えた。

「緑間、そういや今日軽音部が第二音楽室使ってる日じゃねえの?!
軽音はナンパな野郎が多いんで有名だろ?!」
宮地が緑間に言い終わらない内に緑間は人だかりに向かって走りながら
「桃井!」
と叫んでいて、天上天下唯我独尊な緑間真太郎がそこまで心配してやるような女はどんな女だろうと自身も走り出していた。
人だかりの中心で緑間は彼女を背後に庇っている。
そして
「邪魔すんな」
とか
「いきなりなんなんだよ、てめーは!」
とか言う軽音の部員を完全に無視してる。

背の高い緑間に庇われて背後の女の子は見えないが、宮地は先にこの場を収めることを優先し
「彼女は中谷先生の客人なんだが、なんか文句あるか?」
とドスの聞いた声を出した。

振り返った部員達は宮地の付けている学年章の色が三年生のものである事に気が付き、渋々散っていった。
軽音部は二年生と一年生しかいないので、三年生の宮地には強気に出ることができなかったのだ。

「あの、助けてくださってありがとうございました、宮地さん。」
散っていく部員の背中を睨みつけていた宮地はそう声をかけられ、振り返って目を見開く。

「一週間前も助けていただいて、ハンドクリームも頂いたのにお礼もちゃんと言えなくてすみませんでした。
改めて初めまして、桐皇学園バスケ部の一年でマネージャーの桃井さつきです。」
一週間前に自分が助け、それからずっと頭から離れなかったアイドル研修生だと思い込んでいた彼女がそこいた。
笑みを浮かべ、自分に向かって手を差し出している。

反射的にその手を握って宮地は気が付く。
綺麗な手は、その整った手の形にふさわしく、なめらかな肌をしている。

「頂いたハンドクリーム、すごくよく効きました。
これからは手の手入れにも気をつけます。
せっかく褒めていただいたんですから。」
小首をかしげにっこりと笑うさつきは、会うことが出来ないアイドルよりよほど可愛いのに生身の女の子だった。

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