黒子のバスケ

□坊ちゃまの言う通り!W
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野生児青峰といえど外務大臣の息子だけに、来賓にはその関係の人も多かった。
英語ですらあやうい青峰に変わって通訳をこなすさつきは、政治家のいい妻になるんじゃないかと青峰には思われた。

父や母も来賓の相手で忙しくしているが、青峰とさつきもそれは同じだった。
だから、一通り来賓との挨拶を済ませた頃に
「大輝、さつき今日はお招きありがとう。」
「ありがとうなのだよ。」
「ありがとうっス!」
「ありがとねー」
「ありがとうございます。」
と、赤司と緑間と黄瀬と紫原と黒子が近寄って来たとき、青峰はホッとした。

なんだかんだ言いつつも、政財界の偉い方の相手は気疲れする。
野生児と父に言われた青峰でも。
だからさつきはもっと疲れてるんじゃないか、そう思ったけれど5人を見たさつきは嬉しそうに笑みを浮かべたので、青峰はそのことに関してもホッとする。
疲れているんじゃないかと思ったけれど、そうでもなかったようだからだ。

「お前らこそ、今日は来てくれてどうもな。」
「本日はお忙しい中、いらして下さってありがとうございます。」
青峰とさつきはそう言って、さらにさつきの方は5人に向かって深く頭を下げた。

「さつき、そんなに頭を下げる必要はない。
僕達は、さつきのためなら何でも出来るから。」
「そうなのだよ。
これからも色々と大変だろうが、いつでも頼ってくれてかまわないのだよ。」
「そうっスよ、桃っち!
それにしてもいつも綺麗っスけど、今日の桃っちは一段と綺麗っスね!」
「本当だねー、さっちんキレー
峰ちんにはもったいねーし」
「僕はそこまで言いませんよ、そうは思いますけど。」
そんな二人に向かって、5人がそれぞれに言う。

赤司と緑間までは許せるが、黄瀬と紫原と黒子はアウトだ、青峰的には完全に。

青峰の眉間にしわが寄るが、それより前にさつきが青峰の腕に自分の腕を絡ませて
「ありがとうございます。
大ちゃん、本当にいいお友達を持ったね。」
なんていうので、それ以上は何もいえなかった。

どこがいい友達なんだと言いたいけれど、それと同時にさつきにはこうやって軽口を叩き合える友達がいないことを思い出したからだ。

両親も親戚もいないさつきが青峰家で面倒を見てもらっていることを快く思わない青峰家の使用人にすら、嫌がらせをされていたのだから。
それでも青峰はさつきにそばにいて欲しかった。

きっと自分の知らないところで、さつきは色々と辛酸をなめてきたと思う。
だから、これからは絶対にさつきを守る、なにがあっても。
青峰はそう自分に誓っている。
そしてこいつらなら、何だかんだ言いつつもさつきを傷つけるようなことはしないだろう。

「さつき、僕達はさつきの事も友達だと思っているよ。」
まるで青峰の心を読んだかのように赤司がさつきに笑いかけた。
「そうなのだよ。」
「そうっス!」
「そうだよー。」
「そうですよ。」
緑間も黄瀬も紫原も黒子もさつきに笑いかける。

さつきはあっけにとられたような顔をした。
だけどその顔が徐々に綻び始め、そして涙目になってそれでも満面の笑みを浮かべて
「ありがとう!」
と言った。

甘やかで艶やかで綺麗なその笑みに青峰はもちろん、赤司も緑間も黄瀬も紫原も黒子もあっけにとられている。

その時、青峰の父が
「大輝、皆さんの前でさつきさんに贈りたいものがあるんだろう?」
とマイクを通して言ってきた。

そこでハッとした青峰がさつきの手を引く。
そして壇上にさつきと共に上がった。
会場の中が暗くなって、スポットライトが青峰とさつきに当たる。

戸惑うさつきに対して、青峰は小声で告げていた。
「こんな演出はさすがにどうかと思ったんだけどな、親父がドラマチックな方がきっとさつきが喜ぶって言うから。」

「え?
なに、なんなの、これ?」
さつきが青峰に聞いた時、青峰の元にホテルのボーイが恭しくリングケースを持ってきた。
驚いてるさつきの前で青峰が父からマイクを受け取って話し出す。

「本日はお忙しい中、僕達の婚約披露パーティにいらして下さいましてありがとうございます。
彼女が僕の伴侶になります、桃井さつきです。
今まで婚約したなんていったってエンゲージリングも贈ってなかったのですが、父の秘書みたいなことして、もらった給料で買ったリングを彼女に贈ります。
皆様の前で彼女に贈るのは、僕の覚悟を皆様に知っていただきたいからです。」

さつきはただ、呆然と普段の様子からは考えられないような丁寧な言葉で話す青峰を見ていた。

確かに、さつきは青峰からエンゲージリングなんか贈られていない。
だけど青峰はそういうことを気にする性格でもないし、さつきもそれを欲しいと思っていなかった。
だって青峰が自分を好きだと言ってくれる。
それだけで充分だったから。
それなのに青峰が、こんな目立つ事は得意じゃないはずの青峰が、婚約披露のパーティまでやってくれた上にエンゲージリングを用意してくれていたなんて。

口元を手で覆って驚いてるさつきの左手を青峰がそっと取る。
「色々悩んだけどよ、お袋がこれが一番可愛らしくてさつきに似合うって言うから。」
マイクを通さない小さな声で言った青峰がさつきの左手の薬指にはめた指輪は、ショパールのハッピーダイヤモンドだった。
ハート型のガラスの中で3つのダイヤがさつきの手の動きに合わせて動いている。

「ありがとう…
ありがとう、大ちゃん…」
さつきがこぼした涙はスポットライトを浴びてダイヤにも負けない輝きを生み出していた。

自然と拍手が沸きあがる。
その中で青峰は泣いてるさつきの涙をそっとぬぐった。
こんなのやってられるかと思ったし、さつきが母にエステだの何だのと連れて行かれている間に自分は父の秘書みたいな事をしながらお金を稼ぐ事に不満がなかったわけでもないのだけど、こんなにさつきが喜んでくれるなら頑張ってよかったと心底思っていた。
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