黒子のバスケ

僕の世界を構成するもの
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「僕の世界もさつきで構成されている。
あの日、君が僕の手を取ってくれた時からずっとだ。
愛してる。」
と言ってくれたあの日から、さつきは赤司と一緒に寝ることがある。

けれど性的な意味はない。
おでこにキスくらいはしてくれるけど、赤司に寄り添って寝てるだけだ。
赤司もさつきを抱きしめて寝るだけだ。

ただ、昨日は赤司が疲れていそうだったのでさつきは自分のベッドで寝た。


今日の講義は午後からだけど、さつきは毎朝、五時半には目を覚まして朝食の支度をする。
たとえ学校が休みでも、赤司が仕事の日は五時半に起きて食事の支度をして赤司と一緒に朝食を摂り、赤司を見送る。
それはさつきが赤司の手に縋った時からずっと変わることがない習慣だ。

今朝もさつきは赤司のために起きて、赤司のために食事の支度をして、赤司のためにお弁当を作る。

赤司と一緒に寝てる時は、起きてもあたたかい体温に包まれていてすごく幸せだと思うけれど、赤司と一緒に眠れなかった時はちょっと寂しい。
一人きりのベッドで目覚めたさつきは、赤司の寝顔を思い出してちょっとだけ切なくなったけど、それを隠してベッドから出た。

そしてエプロンをかけて朝食とお弁当の準備を始める。
昨夜の残りのマカロニサラダとプチトマトをお弁当箱に入れて、冷凍しておいたハンバーグを解凍しながら出汁をとって豆腐と油揚げの味噌汁を作る。
卵焼きを作りながらほっけを焼き、ぬかどこからきゅうりと大根を取り出して切る。

知ると誰もが驚愕するけれど、さつきはぬかどこを育てている。
赤司が食べる漬物なら買うより自分で作りたいと思って育て始めたものだ。

「私、本当に征十郎さんが全てなんだな…」
独り言を呟きながらさつきは薄く笑んだ。
だけど、その生活が心地いい。
征十郎さんのために生きていけることが幸せで仕方ない。
だって征十郎さんは私の全てだから。

鼻歌を歌いながら常備菜のインゲンの胡麻和えをお弁当箱にいれ、ハンバーグと卵焼きを入れて、朝食の用意も終わった頃
「おはよう。
今日もうまそうだな。」
ダイニングに赤司が入ってきた。

「お早うございます、征十郎さん。
今日は所長さんとパーティに出席するんじゃなかったですか?
もう少し華やかな方がいいんじゃないですか?」
ダイニングに入ってきた赤司に視線を向けてさつきは首をかしげる。

大分前から、今日は事務所の所長と一緒にパーティに出席すると聞いていた。
それなのに赤司の格好は普段の格好と一緒だった。
白いシャツ、ダークグレーのストライプの細身の3つボタンのシングル・ブレステッドのスーツに、極小のドット柄ネクタイ。
いつもの仕事用のスーツ姿だった。

「いいんだ、これで。」
「シャツをピンクにするとか、ネクタイをアスコットタイにするとか、ポケットチーフするとかすればいいのに。」
さつきはそういったけれど、赤司は顔を顰めた。

「パーティなんて言ったって、この業界に長くいた方が政界に進出するためのパーティだ。
乾き物しか出ないのに会費をいくら取られると思う?
そんなものに出るくらいなら僕は早く家に帰ってきてさつきの作った夕食を食べたい。」

「それじゃ夕食作って待ってます。
ほうれん草とにんじんの白和えと、炒り豆腐と、厚揚げのそぼろあんかけに炊き込みご飯と豚汁作って。」
赤司の言葉が嬉しくて、さつきは笑って赤司の顔を覗き込んだ。
「ああ、楽しみにしてる。」
赤司はふんわりと微笑むとさつきの額に口づけを落とす。
そして赤くなったさつきの頬をそっと撫でて
「それじゃ朝食にしようか。」
と席に着いた。
さつきも赤司の向かいに座る。

「「いただきます」」
お互いに手を合わせ、箸を取る。
たわいもない会話をしながら朝食を摂り、片づけを終えた頃に赤司が家を出る時間になる。
ビジネスバッグを持って玄関に向かう赤司の後を追って玄関でシューホーンを渡す。

「帰りはいつもより遅くなるから食事は先に済ませてていいから。
だけど僕の分はきちんと取っておいてくれ。」
左右の色が違う目でじっと自分を見つめる赤司に頷いて
「いってらっしゃい。」
と微笑みかけたら、赤司の手がさつきの頬に伸びた。

今日こそは…さつきは内心期待する。
愛してる、そう言ってくれて一緒に寝てもいる。
なのに赤司はさつきに額へのキス以上のことをしてくれない。
さつきの世界を構成しているのは赤司だから、初めては全部、赤司がいい。
唇へのキスも、それ以上も、全部、全部赤司とがいい。
赤司としたい。

だけど赤司は額へのキス以上はしてくれないし、自分からねだる勇気もない。
ないけど、頬に触れる赤司の手が思っていた以上に熱くて、そして赤司の目がいつもよりずっと熱っぽい気がして今日こそは…とさつきは期待したけれど、近づいてきた赤司の唇はさつきの唇ではなくて、額にそっと触れていった。

「いってくる。」
「はい…気をつけて。」

手を振る赤司に手を振って、ドアが閉まった後でさつきはその場に座り込む。

「やっぱり今日もしてくれなかったな…」
赤司は愛してると言って抱きしめてくれた。
それは赤司が自分を女性として愛してくれているということだと思っていた。
だけど、本当は違うのかもしれない。
やっぱり、大人な征十郎さんには私は子供でしかないのかもしれない。

「私には、征十郎さんしかいないのに…」
さつきは座り込んだまま呟いていた。

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