黒子のバスケ

□バカな男とバカな女
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雨の中、その大きな体に似合わない小さなビニール傘をさして走り回ってさつきを探していた青峰は、ポケットの中の携帯が震えていることに気が付いて慌てて携帯を取り出す。

さつきからの連絡かと思ったが、きていたのはメールで差出人は『テツ』になっている。
思った人物からの連絡じゃない事に無視しようかとも思ったが、もしかしたらさつきがテツのとこに顔を出しているかもしれないということに思い至り、青峰はメールを開いた。

『桃井さんが誠凛に来ています。
君、桃井さんを泣かせましたね。
この件に関しては、すでに赤司君、緑間君、黄瀬君、紫原君にも報告済みです。
彼らからお説教されて反省しやがれ。』

「テツ…キャラ変わってんじゃねーか!!」
メールを開いた青峰は目を見開いて叫ぶ。


自分達がバラバラになった後でも、赤司も緑間も黄瀬も紫原も黒子も。
さつきの危機にだけは一致団結して事態を収拾させていた。

青峰が部活に出なくなって、今まで青峰と一緒に帰っていたのが一人で帰るようになったさつきにストーカーがまとわり付き始めた時も、さつきの体操着を誰かが盗んだ時も、さつきの盗撮写真がひっそりと売りさばかれていた時も、仲たがいしているといってもいいような関係になってしまった自分達が犯人を探し出して落とし前をつけたのだ。
これから自分がどうなるか、想像に難くない。

だけど、それでも。
さつきを放っておくわけにも行かない。

駅に向おうとして、青峰は周りの人が傘をさしていないのに気が付いた。
いつの間にか、雨はやんでいた。

ビニール傘をたたんだところでもう一度携帯が震えた。
赤司か、緑間か、黄瀬か、紫原か?
誰からの説教電話だ?
青峰はそう思ったけど、それは黒子からの二回目のメールだった。

『今、桃井さんを駅まで送って行きました。
本当は家まで送るつもりでしたが、大丈夫だというので僕が彼女を送ったのは誠凛の最寄り駅までです。
あとをどうするべきか、それは君が一番よく分かっているんじゃないですか?』

「言われなくても分かってるっつーの…」
青峰は携帯を閉じるとポケットにしまう。

誠凛の最寄り駅からならあと5分ちょっとで駅に付くだろう。
案の定、6分後に桐皇の制服とは違うシャツを着たさつきが改札を出てきた。

あれはテツのシャツか?
そう思うと、青峰はすごくムカついた。

自分に気が付かないで改札を出て歩いていこうとするさつきの腕を掴む。
さつきは反射的に腕を振り払おうとしながら振り返って青峰に気が付いて目を見開いた後、ふいっと顔をそらした。

「さつき。
こっち見ろ。」

「顔見せんなブスって言ったの青峰くんだよ。」

青峰はさつきの声の温度の低さに、さつきの怒りではなく、さつきの悲しみを感じて胸が痛くなった。

傷つけたんだ、オレは、こいつを。
いつだってそばにいてくれた。
バスケが面白くなくなって、バスケに絶望して、一人になって、それでもさつきだけはそばにいてくれた。
ただ、青峰のそばにいてくれた。

思えば、バカなやつだと思う。
友達と放課後くだらない話をしながら遊んだり、好きな男と同じ高校に通ったり、いくらでも楽しい高校生活を選ぶ事ができたのに。

青峰の幼馴染は、青峰のことを心配して、ただそれだけで、そのために友達と放課後に遊ぶという事もせずにバスケ部のマネージャーを務め、好きな男と同じ高校ではなくて自分のことを傷つける幼馴染と同じ学校に通っている。

いくらでも楽しい未来があったのに。
楽しい未来じゃなくて、好きな男のそばにいる未来じゃなくて、幼馴染の男のそばにいることを選んだ。

「おめーのぶっさいくなツラなんて見たいわけじゃねぇんだよ。
お前、笑ってりゃ世界で1番目くらいには可愛いんだから笑ってろよ。」

「なによ、青峰くんが泣かすんでしょー?
青峰くん以外に私を泣かす男なんていないんだからー!
私に泣かされる男はいてもー!」

青峰の言葉にさつきは目から涙をこぼしながら青峰を睨んできて。
だけどそんな姿を愛しいと、青峰は思う。

「ばぁか。
そんなぶっさいくなお前でも慰めてやるんだから感謝しろよ。」

青峰はそう言ってさつきの腕を強く引くと自分の胸にさつきの顔を押し付ける。
少し湿った髪からは、いつものシャンプーの香りがいつもより強く香る。

「ばぁかは青峰くんでしょー?
私をブスなんて言うの、青峰君だけなんだから、バァカ、バァカ、ガングロ!」

自分の腕の中で自分を罵りながら、それでもギュッと抱きついてくるさつきが愛しい。

「泣かせて悪かったっつーの。
オレ、お前ほどバカな女いねーと思う。
好きな男じゃなくて、こんなオレのそばにいやがってよ。
オレなんかに泣かされて、オレなんかのためにマネージャーやって、なんも報われねぇのにそれでもそばにいるんだから、バカだよな。
バカだけど…だからもう一生オレのそばにいればいいだろ?
お前を泣かすことしかしてこなかったオレも大概バカだけど、これからはオレなりにさつきを大切にすっから。」

オレなりに世界で一番、お前を幸せにしてやっから。

さつきは返事をしなかったけど、さらに強い力で青峰に抱きついてきた。
それが何よりもの返事だと、青峰は笑った。

END
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