黒子のバスケ

□バカな男とバカな女
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青峰はノートを顔にぶつけられた痛みがある程度回復したところであわててさつきを追って行ったけれど、もうその時さつきの姿はどこにもなかった。
「くそっ、あいつこういう時ばっか足がはえーんだよ!」
悪態をつくと青峰はさつきを探すために走り出した。



IH決勝、洛山戦。
当然スタメンだと思っていた青峰は原澤からベンチだと告げられて原澤に食って掛かっていった。

しかし原澤は動じなかった。
「君には才能があります。
それを守るのも僕の仕事です。
肘の故障をおしてまで出場させるつもりはありません。」
いつもの柔らかい物腰で、けど原澤は頑として譲らなかった。

赤司とやりたかった。
だけどその願いは叶わなかった。

それがさつきの進言によるものだと知ったのは、ついさっき。
なんて余計な事をするんだ、青峰はそう思ったからさつきを怒鳴りつけていた。

だけど、ノートを自分に投げつける直前のさつきの顔が忘れられない。
傷ついた…そんな顔だった。


青峰は帝光の卒業式を思い出した。
『テツと同じ学校に行くと思った』
と言った青峰にさつきは
『幼馴染を放っておけなかったんでしょ』
と答えた。

あの言葉を聞いた時の安堵感。

中学の時の監督に試合に出れば練習は出なくてもいいと言われた時、青峰はショックだった。
まだ、罰を受けたほうがよかった。
まるで見捨てられたみたいな感覚になって、絶望して、そして弱いやつらが悪いと開き直った。

だけど本当は、誰にも相手にされない事が怖かった。
『オレに勝てるのはオレだけだ』なんて強がったって、本当は孤独が怖かった。
パスの取り方を忘れた自分が怖かった。
チームプレーを忘れた自分が怖かった。
スタンドプレーで勝てることが怖かった。
チームプレーのなくなったチームが怖かった。

なのにさつきだけはいつだって青峰のことを諦めなかった。
練習に出ないの?と言いながら青峰を迎えにきてくれた。
それに出ないと答える自分。
何度もそれを繰り返しても、さつきは引退まで毎日自分に部活に出ないのかと言いにきた。

そして好きな男ではなくて、放っておけない幼馴染を選んでくれた。

そうだ、さつきはいつだって青峰大輝を本当の意味で一人にさせなかったのに。

なんでさつきに八つ当たりなんかしたんだろう?

自分がバスケに対する情熱をなくす事はないとずっと青峰は思っていた。
けれど、青峰はバスケに対する情熱を失った。
才能の開花によって。

………絶対なんてないのに。
それを分かっていたはずなのに。
なんでさつきにあんなことを言ったんだろう?
後悔ばかりが押し寄せてくる。

「さつきっ!
どこにいやがる、出て来いさつきっ!!」

気が付いたらさつきの名前を叫んでいる青峰を、道行く人が驚いたように見ている。
だけど青峰はそれに気が付く余裕もなかった。
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