黒子のバスケ

溢れるほどの幸せを 結婚前夜
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しばらくは思い出話に花が咲いたが、武内が
「あいつらもすぐに全日本に召集されるんだろうなぁ。」
と言い出して、そこから再びキセキの世代の話になっていった。

「キセキの世代を初めて見た時は本当にびっくりしたねぇ。
こんなバケモノが日本にいるのかと思ったものだった。」
中谷がしみじみと言う。

「ああ、オレらの現役時代にもあんなバケモンいなかった。」
武内もしんみりと語る。

「ああ、キセキの世代はみんなバケモノだ。
だけどきっと日本のバスケ界をしょって立つことになるだろう。」
白金も頷く。

「ああ、そうなるだろうな。」
荒木は笑っている。

「ええ、そうですね。
それできっと、彼女がその傍らで微笑んでる…そんな未来を彼らは描いていた事でしょう。
でもその未来は僕が潰してしまいました。
桐皇だってWCなんか出場できないだろうと思ってましたよ。
不祥事と言われても仕方ないですし、青峰君は荒れてましたし、主将の桜井君は監督とマネージャーのできちゃった結婚に戸惑って部をまとめるどころじゃなかったでしょう。
桜井君は負けず嫌いではありますが、もともと気弱な子ですから。
彼女がそれをマネージャーとしてフォローしていたのですが、彼女もそれどころじゃなかったでしょうし。
それでも…彼女を誰にも譲るわけに行きません。
年も離れています。
妊娠してしまったので、大学進学も諦めるさせることになりました。
ご両親にとっては自慢のお嬢さんだったでしょうに、夫は年の離れた教師です。
幼い頃からずっと彼女を守ってきた青峰君は理解はしても納得できないでしょう。
青峰君だけではなく、赤司君も緑間君も黄瀬君も紫原君も黒子君も、横から彼女を攫われたような気分でしょう。
これから同じ大学に通って、彼女と青春を過ごすはずだったのにその未来は僕のせいでやってこない。
だから僕は…絶対に幸せになります。
彼女と一緒に幸せになります。」

新郎だから飲みすぎてはいけない、そうは思っていたものの結構飲んでしまっていた原澤は、気がついたらそんなことを言っていた。

景虎、中谷、武内、白金、荒木は呆然として原澤を見ていた。

「………まぁ若いうえにあんだけ綺麗な嫁さんもらうんだ。
幸せにしないとばちがあたるだろ?
オレも少しやせるかな…そしたら若い嫁さんもらえるだろうか?」
一番に立ち直ったのは武内。
苦笑しながら原澤の肩を叩く。

「そうじゃなきゃ、彼女の父親に申し訳がないだろ?
オレなら絶対に結婚なんか許さないからな!」
景虎は相変わらずぶれない親バカっぷりを発揮していたが、その表情はやわらかかった。

「そうだねぇ。
若い才能に失恋させてまで選んだ嫁さんだ。
彼女だけじゃない、かっちゃんも幸せにならないとバチがあたるだろうねぇ。」
中谷も笑みを浮かべている。

「そうだな。」
白金も笑った。

「それは嫁さんと、紫原たちに言ってやれ。」
荒木は呆れている。

「ま、いいじゃねーか、かっちゃんの宣言は明日また見れるって!」
景虎にばしばし肩をたたかれながら、原澤はきっと今頃、キセキの世代と一緒に過ごしているだろうさつきの顔を思い浮かべる。

さつきに想いを寄せるキセキの世代の存在も、さつきとの年の差も、さつきが自分の教え子だということも、自分が監督を務めるバスケ部のマネージャーだということも。
恋愛とは違う、だけど誰よりもさつきがキセキの世代の一人ひとりを大事に、大切に思っていることも。
付き合う前から全て分かっていた事で。
それでも原澤はさつきを選んだ。
さつきは原澤を選んだ。

可能性も希望も無限にあったのに、自分と結婚するという未来を選んださつきを、誰よりも何よりも幸せにする。
それが自分に出来る彼女への精一杯の愛情で誠意だから。

「明日なんてそんなこといいませんよ。
今、すぐにします。」
携帯を取り出して、登録名が『桃井さつき』から『さつき』に変わったその番号をタップする。

「もしもし、克徳さん?
どうしたの?」

電話の向こうから聞こえてきた声に原澤は笑みを浮かべて口を開いた。

END

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