黒子のバスケ

薄氷
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そんな中、
『社長のお供で接待にいくから、帰りが9時すぎるかな。』
一週間ほど前からさつきにそう言われていたオレは、その日に大学のゼミのメンバーと食事に行くことにした。

八時半に店をでて、もしかしたら接待が早く終わって駅でさつきと待ち合わせでもできないかと思い、さつきに電話をしようとしたが、帰る方向が同じ女子を送るよう頼まれ、電話を諦めて渋々了承した。
オレが家まで送らなかったことでそいつに何かあったら面倒だと思ったからだった。

ゼミは一緒だが名前も知らない女子なのに、あちらはオレを知ってるらしい。
店を出て、駅まで歩く間も、電車の中でも、電車を降りても緑間君、緑間君と話かけてくる女子に適当に返事をしていた。

駅をでて
「家は一体どの辺なのだよ?」
と聞いたら、女子に
「駅から結構遠いから家に連絡して迎えに来てもらう。
緑間君は?」
と聞かれ
「うちは駅から近い。
歩いても三分かからないのだよ。」
と答えた時、
「うわぁ、見て!
すごいキレイな人がいるよ!
隣にいる彼氏は強面だけど!
見て、リアル美女と野獣だね!」
とその女子が楽しげに言い出した。

なぜこいつは自分で話を振っておきながらオレの答えを聞かないんだと思いつつ、そちらに視線を向けて、オレは驚いていた。
彼女が美女といったのはさつきで、なぜかその隣には彼女が野獣といったらしい青峰がいた。


「本当にありがとう、青峰くん。
でも大丈夫だから。」
「いや、だから家まで送るって。」

呆然としてるオレの前でさつきと青峰はそんな会話をしている。
「大丈夫、家は駅から近いの。」
「っつーか、しつけぇ男にナンパされてる知り合い見つけて放っておける訳ねぇし。」


「さっ…姉さん!!」
青峰の言葉が聞こえた瞬間、オレはさつきに向って走り出していた。

「真太郎…」
「おう、久しぶりだな、緑間。」
オレの声に反応したさつきと青峰が振り返る。

さつきの顔に一瞬だけ浮かんだ、しまったというような表情をオレは見逃さなかったが、青峰はそれに気が付いていなかったようだった。

「もう!
いきなり走り出してどうしたの、緑間君。」
オレの後ろからそんな声が聞こえ、振り返るとあの女子がいた。
追いかけてきたのか、余計な事を。
心の中でだけ思う。

そんなオレに青峰がニヤニヤと笑いながら
「彼女か?」
と聞いてきた。
「そんなわけがないのだよ!
ゼミが同じで、家が近いから駅まで一緒に帰ってきただけだ!」

「緑間君、この人たち誰?」
女子はまったく空気を読まないでオレに聞いてくる。
イラッとして黙れといいそうになったオレより先にさつきが笑みを浮かべて女子に頭を下げた。

「真太郎の姉です。
いつも真太郎がお世話になってます。」

「ええええ?!
この綺麗な人がお姉さん?!
あ、でも緑間君も彫刻みたいに端正なルックスだもんね!
お姉さんもお人形さんみたいに整ったルックスで綺麗でも姉弟だから当然なのかな?」
女子はニコニコとさつきとオレのルックスを褒める。

そして青峰に視線を移した。
「この人はお姉さんの恋人ですか?」

「おい、初対面の人にそんなつっこんだことをよく聞けるな!」
思わず声を荒げたオレを
「真太郎こそ、外なんだからもう少し声を抑えて話をしなさい。
迷惑でしょう?
彼は恋人ではないの。
仕事の帰りに男性に絡まれてたところをたまたま通りかかって助けてくれた、真太郎の高校時代の同級生よ。」
さつきは諌めた後、笑って青峰を紹介した。

「ちょうどいい、青峰、お前は彼女の家から迎えが来るまで一緒に待っててやれ。
お前のような強面の男がそばにいたら、誰も声なんかかけてこない。
これ以上安心なことはないのだよ。
姉さん、後は青峰に任せてオレ達は帰ろう。」
オレはさつきのスーツの袖をひっぱった。
さつきも青峰もゼミの女子も驚いた顔をしているが、オレはお構いなしにそのままさつきを引っ張っていった。

が、いきなりさつきが動かなくなってオレは振り返る。

青峰がさつきのもう片方の腕を引いていた。
「離せ。」
「お前、何わけわかんねーこと言ってんの?!
何でオレが知りもしねー女と二人きりになんなきゃならねーんだよ?!」
憤慨する青峰と、呆然としてる女をオレは一瞥する。

「そうだな、だからといってお前が姉さんを送る必要性もないのだよ。」
「真太郎、青峰くんは電車を降りたところで酔っ払いに絡まれてた私を助けてくれたのよ。
それで心配だから家まで送るって言ってくれただけなの。
青峰くん、本当にありがとう。
でも真太郎と会えたし、真太郎と一緒に帰るからもう大丈夫よ。
ありがとう。
あの、真太郎のゼミの女の子は私と真太郎と一緒にお家からお迎え来るの待ってようか?」
オレと青峰がにらみ合っている間に入り、さつきは笑ってオレ達をみる。
さつきの笑顔にオレも青峰も毒気を抜かれて、青峰はさつきから手を離した。

「そんじゃ、せめてメルアド交換くらいはしてくんねー?」

だけど青峰がとんでもない事を言い出したので、オレは再び青峰を睨む。

「メアドなんか聞いてどうするの?」
さつきは不思議そうにしてたけど、
「姉さんを助けたお礼に今度オレと飯でも食いにいかね?」
といった青峰を目を丸くしてみた後で、笑い出した。

「お礼を要求する人なんか始めて!
面白いわね、青峰くんって。
真太郎も一緒ならいいわよ、だから日にちとか真太郎と話し合ってね。」

青峰への礼節と、オレが許す事ができるぎりぎりのラインを提案したのだろう。
不服そうであるものの、渋々了承した青峰はそのうちメールするとオレに言って帰っていく。

オレとさつきはゼミの女子の親が迎えに来るのを待ってから、一緒にマンションに帰る。

「あの子、きっと真太郎を好きだよ。」
並んで歩いていたら、いきなりさつきが言った。
「は?」
驚いて変な声が出た。

「ふふふ…女のカン。
でもあの子、きっと真太郎を好きだよ。
いいんじゃないかな、可愛いらしい子だったし、人懐っこくて。
人とコミュニケーションとるのが少しだけ苦手な真太郎には、ああいう子がそばにいてくれたら助かるんじゃないかな?」

「一体なにを言ってるのだよ?!」
唐突なさつきの話にオレはついていけない。

「だって彼女は他人よ、真太郎だって堂々と付き合えるでしょ。
私と…お父様…」

だけどさつきがオレの質問に答える前に、マンションの前に立っている生物学上のオレ達の父に気がついて声を上げた。

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