黒子のバスケ

朧月
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「真太郎か、久しぶりだな。
立派になったな。」

ダイニングのテーブルに座ってもらい、オレはペットボトルからグラスに注いだお茶を生物学上の父にだした。

大学に進学するとなった時、さつきは両親に連絡を取った。

父からの養育費は、母が最低限のオレ達二人の生活費と共に毎月口座に振り込む。
さつきが高校を卒業してすぐに就職する事で、父からの養育費はオレの分だけになり、生活費も母は多少減額したようだった。

それでもオレが進学した大学が国立のトップレベルの大学だからか、父からの養育費と母からの生活費は金額が上がったと聞いている。

しかし今まで金にしか与えてこなかった生物学上の父が何をしに来たのか?

オレの考えてる事が分かったのか、生物学上の父は微かに笑った。
「さつきはまだ、帰ってきていないのか?」

「姉さんは今日は残業だと聞いているのだよ。
何の用なのだよ?」

思い切って聞くオレに生物学上の父が答えた。

「うちの会社の創立記念パーティに娘と息子として出席しなさい。
二人とも、あの女に似て人目を引くルックスに育った。
パーティでも見栄えがする。」

そういえばこの男はそれなりの規模の会社を経営しているんだった。
仕事が大好きな男で、家庭を顧みなかった。
オレはこの男に父親らしい事をしてもらった記憶は何一つない。
そしてオレ達の生物学上の母はさつきをきつくしたような感じの顔立ちではあるが、美しいと言えると思う。
昔は優しいところもあったらしい。
オレはいつもヒステリックに夫婦喧嘩をしている姿しか覚えていないが。
オレ達はその母親に似ているらしい。

「再婚はしていないのか?
しているなら、再婚相手がオレ達がパーティなんかに出席する事を納得しないだろう。」
オレは顔を顰めて自分もお茶を口にする。

「再婚などしておらん。
結婚は面倒くさい事がよく分かったからな。
それにオレには息子と娘がいる、再婚する必要はない。」

「オレを育ててくれたのは姉だ。
姉のためならなんでもするが、アンタのために何かをする義務はないのだよ。」

偉そうな物言いに頭に来てオレが生物学上の父を睨んだ時、ドアの鍵が開く音がして
「ただいま、真太郎。
お客様?」
さつきの声がした。

オレが立つより先に生物学上の父が立ち上がって玄関に向かった。

「……お父様」
「今帰ったのか。」
「どうしたんですか、連絡もなしにいきなり。」

さつきの声が戸惑っているのが分かり、オレは慌てて玄関に向かった。


中小企業の事務の仕事に就いたさつきは、その能力を認められて、社長の秘書を兼ねるようになった。
すでに秘書検定準一級にも合格し、中小企業に勤めているのに給料は同年代の女性よりもらっているようだ。
オレの姉は有能でもあるのだ。
その姉は玄関で父と対面していた。

「二週間後にうちの会社の創立記念パーティがある。
真太郎と一緒に出席しなさい。」
断るだろう、そう思っていたさつきだが
「分かりました。」
と返事をしたのでオレは目を瞠る。

「ドレスコードは準礼装だ。
明日にでもドレスとタキシードを作りに行きなさい。
真太郎の身長では既製品でタキシードは無理だろう。
さつきはエステと美容院も行っておくように。」

「分かりました。
だからパーティ出席は私だけでいいでしょう?
約束は覚えているでしょう、お父様。」

「約束?」
さつきの言葉にオレは疑問を返すがさつきはオレに笑いかけた。
「真太郎は気にしなくていいの。
用事はそれだけですか?
でしたら下まで送っていきます。」

生物学上の父はさつきに何か紙を渡した。
「ブティックとエステと美容院の地図だ。
緑間ですといえば分かるようにしてある。
それからあの教師とはまだ別れていないようだな?
教師が別れを納得していないのなら、こちらで話をつけるぞ?
パーティまでには…」

「お父様!!
真太郎の前で話すことじゃないでしょう!
送ります、下まで。」

言いかけた生物学上の父の言葉をさつきは強く遮った。

なんだ…今のはどういう意味だ…?
あの教師とは日向の事だろう。
さつきはまだ日向と別れていないのか…?
そんな簡単に別れられないとは言いつつも、オレには必ず日向と別れると約束してくれたのに!

「ちょっと下までお父様を送ってくるわ。」
さつきはオレに微笑みかけると生物学上の父を促してスーツ姿のまま生物学上の父と一緒に出て行った。

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