黒子のバスケ

□想いの鍵
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WC予選、誠凛と秀徳の試合をさつきに一人で見に行かせたものの、やっぱり心配になった青峰は会場に向かっていた。

メンドクサイ、全てがメンドクサイ。
だけどさつきを一人で行かせたのはまずかった、そう思ったのは一人で屋上のペントハウスで寝ていたら、屋上に入ってきた上級生らしい男子が
「やっぱ一年の桃井は可愛いよな。」
「でも、あれ、一年の青峰の彼女じゃねぇの?」
という話をしているのを聞いたからだ。
「まぁ、あんなんがそばにいたら声かけらんねーよなー。」
「っつか、やっぱ屋上寒い、教室に戻ろうぜ。」

その二人が何をしに屋上にきたのかさっぱり分からなかったが、彼らの話は裏を返せば自分がいなかったらさつきは他の男に声かけられるってことじゃねぇの、そう思って青峰はさつきを迎えに行く事にしたのだ。


会場に向って歩く青峰は周囲がいやにざわめいているのに気がついて、何事だろうとその足を止めた。

「すっごいかっこいい男の子が可愛い女の子をおぶってる。」
「あれ、モデルの黄瀬涼太じゃない?」
聞こえてくる声に、青峰は目を見開く。

黄瀬が可愛い女の子をおぶってる…それってさつきのことじゃねぇの?!
そう思ったのだ。

黄瀬はモデルだから女の子にはよくモテていた。
中学の頃から、オフの日は色んな女の子とデートをしていたようだし。
赤司から、
「プライベートな事に文句を言いたくはないが、バスケ部員である事を忘れず、あまり問題行動を起こすな。
あまりに風紀を乱す場合は、灰崎の様に強制退部もありえるからな。」
と言われていたくらいだった。

だけど黄瀬が女に対してどこか醒めているのも青峰は知っていた。

それなのに、さつきのことだけは『っち』をつけて呼んでいる。
それだけでも青峰というか、さつき以外のキセキの世代にとっては驚くことだったのに、もしかして今、黄瀬がおぶってるのはさつきか?

足を止めていた青峰はそこまで考えて走り出していた。
そしてすぐに、さつきをおぶっている黄瀬を見つけた。

「黄瀬!」
青峰に呼ばれ、黄瀬は青峰の方を見た。
だけどさつきは気が付かない。

「青峰っち、どうしたんスか?」
黄瀬は笑顔で青峰を見ている。
だけど目が笑ってない事に、青峰は気がついていた。

気がついていたけどそれでも聞く。
「さつき、どうしたんだ?」

「気を失っちゃったんスよ。
黒子っちと、黒子っちそっくりな犬を見て、ふらっと。
……桃っちは本当に黒子っちが好きなんスね、黒子っちは全然桃っちを受け入れないのに。」
黄瀬の声が低くなって、青峰は黄瀬を見る。

「……代わるわ、さつき寄越せ。」
黄瀬は珍しく無表情で何を考えているか分からなくて、だから青峰はそう言うしか出来なかった。

「いやっス。」
黄瀬は無表情なまま、青峰を見ている。

「は?」
青峰は黄瀬の初めてみたそんな態度に押され、何もいえないうちに黄瀬は青峰を無視して歩き始める。

青峰はすぐに自分を取り戻し、黄瀬の後を追う。

「おい、黄瀬ェ!
さつき寄越せって言ったんだろうが!」
自分を無視して歩く黄瀬に向って言ったら、黄瀬が青峰を振り返った。

「オレはね、ずっと桃っちを好きだったんスよ。
黄瀬涼太を黄瀬涼太として見てくれた女の子は桃っちだけだったっス。
黄瀬くんかっこいいと言われた事はあっても、きーちゃんもかっこいいけどテツくんの方がもっとかっこいいなんて言われたことなかったっス。
気がついたら、そんな桃っちが好きで好きでたまんなくなってたっス。
だから、桃っちから好意を向けられてるのに知らん顔してる黒子っちが羨ましかった。
そして、何よりあんたが一番、オレは羨ましかった。
桃っちは、あっさりと高校を決めたんスよ、あんたのいる桐皇に。
放っておけないからって理由で、黒子っちじゃなく、あんたを選んだ。
桃っちを一人で予選の観戦に行かせるような、桃っちにブスっていって泣かせるようなあんたを、選んだんだ。
それを当たり前みてーな顔して受け入れてるあんたに桃っち渡したくねっス。
あんた、桃っちは隣にいて当たり前みてーな顔してるけど、当たり前じゃねぇんスよ。」

黄瀬の言葉に青峰は核心を付かれた気がして、黙るしかできない。

確かに思っている。
さつきは、自分の隣にいるのが当たり前だと。
さつきは小さい頃からずっと、青峰の隣にいた。
それが当然だったから、青峰は小さい頃からずっと、さつきは自分のものだと思ってきた。
好きだとか愛してるだとかそんなものはとっくに越えて、さつきは青峰の隣にいて当たり前の存在なのだから。

だけど、黄瀬の真剣な顔に、青峰は何もいえなかった。

何もいえない青峰に黄瀬は畳み掛ける。
「青峰っちは、桃っちをどう思ってるんスか?」

黄瀬の髪が陽の光を受けてきらめいている。
髪の色と同じような瞳がじっと青峰を見ていた。

なんでかは分からない。
だけど、青峰は黄瀬を見ていたら、さつきはオレのものだ何て言えなかった。

「さつきのことはなんとも思ってねぇよ。」
そう答えていた。

「それじゃ、桃っちと付き合えるように協力して欲しいってオレが言ったら?
青峰っちは協力してくれるんスか?」

黄瀬はそれでも青峰から視線をそらさない。
青峰の方が黄瀬から視線をそらしていた。

協力なんかするわけねーだろ?
さつきはオレのものだぞ?
ちっせぇ頃からずっと、オレの隣に居て、今更それを他の男になんかやれるかよ。
バカ言ってんじゃねぇ、てめー殴られてぇのか?

心の中を吹き荒れる言葉とは裏腹に青峰は一言だけしか発する事ができなかった。

「してやる、協力。」

青峰の言葉に黄瀬の顔がぱぁっと輝く。
「ありがとうっス、青峰っち!
それじゃとりあえず、桃っちの家、教えて下さいっス!」

教えるかよ、バカ!
早くさつきオレに寄越せよ、触ってんじゃねぇ、さつきに。
さつきはオレのもんなんだよ!

青峰はすべての想いを心の中に押し込めた。

さつきが黄瀬を選ぶわけがねぇ。

そしてテツも、さつきの想いを受け入れたりしねぇ。

さつきは最後には必ず、オレのところに帰って来る。
だから、それまでの間だけだ。

青峰はそんなことを思いながら、自分の心の中にしまいこんださつきへの想いに鍵をかけて
「こっちだ。」
と黄瀬を促した。
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