黒子のバスケ

あなたに出会えた幸せ
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今日は祝日だけど、秀徳高校バスケ部は練習がある。
それで高尾は緑間を迎えに来ていた。

家から出てきた緑間に
「おはよ、真ちゃん。」
と言ったら、緑間はそれにおはようと返した後、
「学校に行く前にちょっと寄りたいところがあるのだよ。」
と高尾に言った。

めったにない事だけど、緑間が妙に申し訳なさそうにしているので、高尾は驚きで目を見開いたあと
「いいよ、どこ?」
と笑顔で聞き返した。

だけど、緑間の答えに高尾は思わず
「は?」
と聞き返していた。
「桃井の家なのだよ。」
緑間がそう言ったから。


(ほんとに青峰と幼馴染なわけね。)
緑間のナビゲートで桃井宅に向った高尾は、リアカーから降りて桃井宅のチャイムを押す緑間の背中を見ながら思う。
『桃井』と表札の出ている一軒家の隣には、『青峰』と表札の出た一軒家がある。
幼馴染だと聞いていたから家が近所なのだろうとは思っていたが、まさか隣とは思わなかった。

巨乳美人で、しかも緑間が認めるほどのハイスペックさ。
三次元には存在しないと思われる女の子が存在してて、しかも幼馴染で、放っておけないからと同じ高校に進学するとか…マジ青峰ムカつく。

青峰と書いてある表札を高尾が意味もなく睨んでいたら、
「はぁ〜い!」
と桃井の声がしてドアが開いた。

彼女も学校があるのだろう、桐皇の制服のプリーツスカートにTシャツ、その上に桐皇学園のバスケ部のジャージの上着を着ている。
やっぱ胸でけー、なのに腰あんなに細いし。
しかも、女子ならまず間違いなく敬遠するであろう(実際に秀徳では顔があれだけいいにもか関わらず性格に難ありすぎて緑間のファンだという女子はいない)緑間を『ミドリン』と呼び、緑間もそれを受け入れている。
そんな風に緑間と付き合える対人スキルの高さ。
やっぱいいよなぁ、桃井ちゃん。
そんな事を思いながら高尾は家から出てきたさつきをぼんやりと見てた。

「はい、これでいいかな?」
さつきは緑間に小さな紺色のコンコルドを見せている。
「前髪とめるのに使ってるの。
これならあんまり目立たないでしょ?」

「すまない。
今日のラッキーアイテムが、女友達からもらったヘアクリップだったのだよ。
この借りは必ず返すのだよ。」

緑間の言葉に高尾は噴出しそうになる。
桃井ちゃんの存在がなかったら、真ちゃんには確実に手に入れられないアイテムじゃん!

「そうなんだ、役に立ててよかったよ、私がミドリンの役に立てるなんて滅多にないもん。
嬉しい。
私がミドリンの役に立てて嬉しいんだから、借りとか気にしないで。」

しかも緑間に気を使わせないように自分があげたかったのだと言い添える優しさ。
いい子だなぁ。
キセキの世代がバラバラになっても、さつきとは全員が気安く付き合う理由が高尾には分かる気がした。

「それから高尾くんも、おはよ!」
さつきは部活だけだからと制服ではなくジャージ姿の緑間の襟元にコンコルドをつけてあげると緑間の横からひょこっと顔を出し、高尾に笑いかけた。

お互いに正式な面識はないが、緑間を介して、そしてさつき自身の情報網もあり、お互いに存在は知っている。

「おはよ!」
高尾も笑顔で挨拶した。

「二日遅れたけど…高尾くん、お誕生日おめでとう!」
さつきは高尾に笑いかける。

「え?」
まったく予期していなかったさつきの言葉に高尾はきょとんとし、緑間も驚いている。

「あれ、高尾くんって11月21日がお誕生日じゃなかった?」
二人のリアクションにさつきもきょとんとしている。

「いやそうだけど、なんで桃井ちゃんがそんな事知ってるの?」
高尾は思わず自転車を降りてさつきに近寄ってしまった。

「桃井はデータを調べる上で知った情報は、バスケに関係ないことでも頭に入れている。」
質問に答えたのは緑間だった。

「高尾、21日が誕生日だったのか。
知らなかったのだよ。」
その後、緑間はそんな事を言う。

「言ってねーもん、知るわけないじゃん。」
笑う高尾にさつきが紙袋を差し出した。
「だからこれ、プレゼント。
いつもミドリンと仲良くしてくれてありがとう。
これからもミドリンをよろしくね!
確かキムチが好きなんだよね、高尾くんって。
だからこれ、私の父の秘蔵のキムチ。
って言っても、母がつけたものなんだけどね〜。
父がおいしいって言ってたから、よかったら食べてみて?
匂わないように密閉容器に入れてビニールでぐるぐる巻きにして保冷剤もたくさん入ってるから夕方まで持つと思うよ。」
差し出された紙袋を高尾は受け取った。
この子…超いい子なんですけど!

「ありがとう!」
満面の笑みでお礼を言ったらさつきはふんわりと微笑んだ。
「どういたしまして。」

「桃井、オレが高尾の面倒を見てやってるのだよ!」
緑間は不満げだったが、
「そうだったね。」
にっこりと微笑むさつきに緑間はそれ以上は何も言わなかった。

「さつきーお前なにしてんだよ。
あん?
なんで緑間がいんだ?」
そこにのっそりと登場したのは青峰だった。
いつきたのかは分からないけど、制服姿の青峰が立っていた。

「さつき、ネクタイ結べねーわ、結んで。」
青峰はあいさつもせずにネクタイをさつきに放り投げる。

「青峰、お前は相変わらずだな。
桃井、青峰をあまり甘やかすな。
青峰もネクタイの結び方くらい、いい加減に自分で覚えるのだよ。」
緑間が呆れている。

「ちょっと、今から家でて補習間に合うの?!」
さつきは咎めるような声を上げながら青峰のネクタイを手際よく結んでいく。

「お前はまだ出ねーのかよ?」
「今日は他校にスカウティングに行くの、諏佐先輩と一緒に。
諏佐先輩がうちに迎えに来てくれるからいいの。
ほら結べたよ、早くいってらっしゃい。
ミドリンたちも時間大丈夫?」

さつきの言葉に緑間は腕時計に視線を落とした。
「高尾、行くぞ。
桃井、感謝する、また連絡するのだよ。」
緑間はさつきをみてから青峰に視線を移す。
「いい加減、桃井を自由にしてやれ。
桃井はお前の世話係じゃないのだよ。」
緑間の言葉にむっとした顔をする青峰の背中を軽く押してさつきは
「そうだよ、大ちゃん。
私、いつまでも大ちゃんのそばにいるわけじゃないんだからね、ネクタイくらい結べるようになってね。
はい、みんな気をつけていってらっしゃい!」
と笑顔になった。

うやむやにされた感じはあったが、全員がさつきに背を向ける。

「高尾、今日はオレが漕いでやるのだよ。
もう過ぎてしまったが誕生日だったのだから。」
さらりといって自転車に乗った緑間に目を丸くした高尾はすぐに笑顔になって頷いた。

青峰はめんどくさそうに二人をみて、
「すげぇ乗りもんに乗ってんな。
オレなら恥ずかしくて乗れねーわ。」
と呟いて歩いていく。

その青峰とは反対方向に緑間は自転車を漕ぎ始める。

「始めて乗ったわ、リヤカー。
けっこー快適だねぇ、真ちゃん。」
緑間の背中に話しかけつつも、高尾はさつきから渡された紙袋を握り締める。

ほぼ初対面の自分に誕生日おめでとうと言ってくれて、自分の好物のキムチまでくれた。
キムチがプレゼントって言うのは変わっているけど、相手の好きなものをプレゼントするという気遣いは最高だと思う。
それにあんなに可愛い。

「真ちゃん、桃井ちゃんって恋人いるの?」
高尾は紙袋を握り締めたまま聞く。

「いないが、黒子を好きだと黄瀬から聞いた事がある。
それに、青峰とは中学の時からずっとあんな感じだった。
付き合ってはいないが、あの二人の関係は中学の頃から下世話な噂にはなっていた。
それに桃井はよく男子から告白されていたようだが、受け入れたことは一度もない。
バスケと違って勝算はない勝負だと思うのだよ。
それでもいいのなら、協力はするが。」

応援はしてくれてるらしい。
自転車を漕いでる相棒の背中に高尾は呟いた。

「バカだな、真ちゃん。
恋なんてしようと思ってするもんじゃないだろ。
恋ってするもんじゃなくて、落ちるもんなんだから。」

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