黒子のバスケ

誰より愛してるから
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昼休み。
昼食を食べ終わった黄瀬は、桃井さつきのクラスに向って歩いていた。

昨日の広告の撮影の時に黄瀬が広告をつとめた商品−リップクリームだった−をメーカーさんからたくさんもらった。
豊富な香りの中から好きな香りを選ぶというコンセプトのそのリップは、本当にたくさんの種類の香りがあった。
そのリップを全部もらったから、さつきに上げようと思ったのだ。
きっとさつきは喜んでくれるだろう。
だって、まだ発売前のリップクリームだ。

でも、ピーチの香りだけは黄瀬がもらってしまったけど。
だってピーチといったら桃だ。
さつきの苗字は桃井、さつきを連想する香りだから、これだけは自分のものにするべきだと思ったのだ。


黄瀬はさつきが好きだ。
初心者だった黄瀬にバスケのルールを教えてくれたのはさつきだったし、バスケを始めて二週間で一軍に上がった黄瀬の個別の練習メニューを組んでくれたのもさつきだった。

さつきが黄瀬につきっきりで知識を教え込み、パス練などの練習相手になって、黄瀬個人の力を活かすための練習メニューを組んでくれたのは赤司の命だということは分かってる。

だけど、あんな可愛い子が付きっ切りで色々教えてくれて、他の女の子と違って、さつきはモデルの黄瀬涼太には興味がなく、普通の部員として接してくれたのも嬉しかったし、黄瀬はすぐにさつきを好きになってしまった。

さつきがモデルの黄瀬涼太はもちろん、黄瀬涼太個人にも興味はないのも知っていたというのに。

さつきが好きなのは黄瀬の教育係でもあった黒子テツヤで。
だから黄瀬の教育係の黒子と、黄瀬にルールを教えたり、トレーニングを付きっ切りで見ててくれたさつきは、黒子が黄瀬の教育係だった間はかなりの接点があったみたいで、さつきはいつも嬉しそうに黒子の隣にいた。

それに、黄瀬がバスケを始めるきっかけになった憧れの青峰大輝はさつきの幼馴染で二人はいつも一緒にいた。
それを本人達はもちろんのこと、他のバスケ部の部員が当たり前だと思っているのには黄瀬も驚いた。
いくら幼馴染だからといっても、年頃の男女なら普通は距離ができるはずなのに、あの二人は一緒にいるのが当然で、いつも一緒だ。
一緒に登校して、一緒に部活に来て、一緒に帰っていく。

さつきの中で黄瀬の優先順位が黒子や青峰より上位にくることはないだろう。
分かってはいても、昨日より少しでも多くさつきに好かれる様に、黄瀬はいつもいつもさつきに話しかけて、仲良くなる努力をしている。

そのために、リップクリームもあげるのだ。
マンゴーやレモンの香りなど、黄色いパッケージのリップをさつきが選んでくれたらいいなぁ、そんなことを考えながら黄瀬はさつきのクラスに顔を出す。

モデルの黄瀬が顔をのぞかせたことで、さつきのクラスの女子はざわめいたが、いつもならそれに気が付いて自分に声をかけてくれるさつきが教室内にいない。

黄瀬は自分を見てざわめいている人たちに笑顔で手を振った後、さつきの友達で何度も話したことのある和泉やよいに手まねきをした。

女子というのは陰湿な面もある。
さつきくらい可愛くて性格もよくて頭もよくて、青峰の幼馴染で主将の赤司や副主将の緑間ともよく話していて、紫原とも仲良くじゃれあえて、黄瀬とも仲がいいさつきは女子からは敬遠されているが、この和泉やよいは別だ。
さつきと普通に付き合っている、さつきとっては大事な友達で、だから黄瀬も彼女のことは誤解されない程度に特別扱いをしている。

「なぁに?」
「これ、昨日の撮影でもらったリップクリームっス。
よかったらどうぞ。
ところで桃っちはいないんスか?」
黄瀬はリップの中から無香料のものを選んでやよいに渡してからさつきのことを聞いた。

「いいの、もらって?
これ、発売前のヤツだよね?
ありがと!」
やよいはリップを受け取った後、声を潜めた。
「さつきなら生徒会長から呼び出されているよ。
会長だから大声じゃ言えないけど、彼、最近さつきにアタックしててね、さつきは断ってるんだけど、結構しつこいんだよね。
今日も呼び出しにきて、多分生徒会室にいるよ。
会長がストーカー気質とか…やだよねー。
まぁ、もう生徒会選挙の時期で会長代わるからいいんだけどね。」
と言うやよいにありがとうと言って、黄瀬は小走りに生徒会室に向った。

さつきに会長がしつこく迫っていたなんて全然知らなかった。

何か嫌な予感がする。

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